ハイスクール白書/優等生ギャルに気をつけろ!(1999年アメリカ)

Election

99年度の映画賞レースにおいて、完全にダーク・ホース的存在となり、
低予算のインディーズ映画ながらも高評価を得て、全米を席巻した学園ドラマの異色作。

タイトル通り、映画は生徒会長の選挙を題材としており、
上昇志向の強い女子生徒トレイシーと、彼女が当選することに気が進まない、
社会科教師マカリスターとの攻防を描いており、確かにこれは変わった視点を持った映画になっている。

それもかなり人間のダークな部分に大胆にスポットライトを当てたブラック・コメディで、
本作でデビューを果たしたアレクサンダー・ペインのシビアな視点が、かなり辛らつなものに感じられるかも。

映画は日本で劇場未公開作扱いとなった上、
更に随分と安っぽいメチャクチャな邦題を付けられたおかげで、変な先入観を持たれがちですが、
これは強烈なまでにシニカルな作品であり、フットワークの軽いコメディ映画という感じではありません。
あまりに強烈な皮肉であるがゆえ、おそらく当時は全米の評論化筋の心を刺激したのでしょうね。
いくら斬新な映画であったとは言え、本作の規模から言えば、異例な賞賛と言ってもいいと思います。

ただまぁ・・・本作を観る限りでは、まだまだアレクサンダー・ペインの演出は完成していないかな。
彼が本作の次に撮った02年の『アバウト・シュミット』と本作を比べると、その差は歴然である。
本作でヒロインを演じたリース・ウィザースプーンはかなり頑張っていますが、彼女の芝居の良さを
完璧にサポートするには至っておらず、彼女のパフォーマンスを完全に活かし切れてはいません。

もっと上手く描けていれば、彼女の上昇志向はより嫌味に光ったでしょうね(笑)。
いや、これは皮肉ではなくって、褒めてます(笑)。本作での彼女、ホントに上手いですよ〜。

まぁ生徒会長の選挙だけで、よくもこんなに話しを広げられたものだと感心してしまいますが(笑)、
トレイシーの強い上昇志向の問題ともう一点、マカリスターの浮気心も大きな問題です。
端を発しているのは、彼の同僚の数学教師がトレイシーと肉体関係に発展したことなのですが、
マカリスターの収まらない浮気心のターゲットは、同僚の数学教師の元妻に向けられます。
学校を抜け出して、ルンルン気分で逢瀬の準備に励むマカリスターの涙ぐましい努力が何ともイタい(笑)。

こういった中年男性を悲哀を描いたという意味では、
本作は同年にオスカーを獲得した『アメリカン・ビューティー』に似ていますね。
そういう意味では、公開されたタイミングが良かったのかもしれません。

映画の冒頭で語られる、トレイシーのナレーションで...
「マカリスター先生も可哀想よね。毎年のように同じことを教えさせられて」みたいなコメントがありましたが、
僕も少しだけ、教職の仕事に触れたことがあるので、一応、弁護させてもらうと...
このトレイシーのコメントみたいなことを言う人って、よくいるんだけれども、
少なくとも僕が知っている限りでは、教える内容は毎年、同じであったとしても、
相手にする生徒たちは毎年、或いは毎回違うわけで、この憐れみは全く的を得ないと思っています。

そりゃ厳密に言えば、確かに...毎年、同じパターンで乗り切ることも可能なのですが、
少なくとも有能な教員はそんなことしませんし、毎回、異なる生徒たちのリアクションに悪戦苦闘するはずです。

勿論、ベースとなる部分は変わらないんですけどね。
授業という学校の一コマの中でみて、一筋縄でいかない難しさを痛感して、
毎回の授業で工夫して、よりフレキシブルな内容にしていこうと努力する。それが教職の楽しみだと思うのです。

ルーチン・ワークを繰り返すという意味では、実はサラリーマンの方がずっと多いと僕は思います。
僕は常に創造的で質の高い仕事をしてこそ、経済的な報酬を得られるものと考えていますが、
ルーチン・ワークで満足している、或いはもっと酷い場合はルーチン・ワークすらままならないのに、
役職に就いて高い給料をもらっているなんてケースも、ザラにあるのです。

勿論、これは教員も一緒で、教職の責務をロクに果たさず、
馴れ合い程度の仕事しかできなかったり、毎年、同じ内容を繰り返して満足しているような教員もいます。

しかし、僕が言いたいのは、昨今、教育問題が取り沙汰される度に、
「これだから学校の先生ってのは・・・」だの、「コイツらがサラリーマンなら使い物にならない」みたいな
言い草をする輩が出てくるのを見かけますが、それはお互いの世界を知らないだけということ。
まぁ教員ってのは特殊な職業ですし、社会的にも重要な職業ですからね。
それだけ重責になるのは必然ですが、少なくとも、今のサラリーマンが教員になったら、
誰もが上手くできるなんてことは、誰にも言えないはずなのです。それは人の適性もあるから尚更です。

基本はコメディ映画ではありますが、
かなり世の男たちには辛らつな内容なだけに、家族で観るタイプの映画ではありません。

夜中に、ヒッソリと一人観る分には、丁度いい映画かも(笑)。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アレクサンダー・ペイン
製作 アルバート・バーガー
    デビッド・ゲイル
    キース・サンプルズ
    ロン・イェルザ
原作 トム・ペロッタ
脚本 アレクサンダー・ペイン
    ジム・テイラー
撮影 ジェームズ・グレノン
音楽 ロルフ・ケント
出演 マシュー・ブロデリック
    リース・ウィザースプーン
    クリス・クライン
    ジェシカ・キャンベル
    マーク・ハレリック
    モリー・ヘイガン
    デラニー・ドリスコル
    ローレン・ネルソン
    コリーン・キャンプ

1999年度アカデミー脚色賞(アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー) ノミネート
1999年度全米映画批評家協会賞主演女優賞(リース・ウィザースプーン) 受賞
1999年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー) 受賞
1999年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 受賞
1999年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(アレクサンダー・ペイン) 受賞
1999年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー) 受賞