8mm(1999年アメリカ)

Eight Millimeter

これは正直言って、苦しい映画ですね。

とある未亡人から依頼されたスナッフ・フィルムの真相解明の仕事を受けた私立探偵を主人公に、
全く縁遠かったアンダーグラウンドな世界に足を踏み入れ、スナッフ・フィルムの恐るべき真相に迫る姿を
『バットマン フォーエヴァー』などで知られるジョエル・シューマカーが描いたサイコ・サスペンス。

ジョエル・シューマカーって、社会派映画だと結構、健闘したりするんだけれども、本作はダメだったなぁ。
映画のカラーをダークな色合いに統一したのは正解だったけれども、内容にまとまりが感じられない。

『セブン』の脚本家アンドリュー・ケビン・ウォーカーのシナリオを映画化したわけですが、
僕はこの企画、シナリオの段階でもっとしっかり練って欲しかったと思う。チョット、アイデアに依存し過ぎです。
例えば、主人公が普段、全く縁のないスナッフ・フィルム製作の舞台裏というアンダーグラウンドな世界を知って、
次第に自分にも悪影響が及ぼされ、精神的に追いつめられていったり、常軌を逸していくまでの過程に
今一つ説得力を持たせられていないところが、本作の弱さだと思う。もう少し映画に起伏を付けて欲しい。

確かに作り手の意向も分かる作品ではありますが、もっと観客を煽るような展開がなければ、
映画のサスペンス劇は盛り上がらないわけで、これは本作の生命線だったと言っても過言ではありません。

まるで僕には理解できない世界ではありますが、
スナッフ・フィルムって、人殺しを映したフィルムのことで、その映像を観て性的な快感を得るために誕生した、
ある種のポルノとして考えられているらしく、このスナッフ・フィルムの存在は未だ明るみになったことはない。

まぁ・・・いわゆる都市伝説なんですかねぇ。
本作はそんな都市伝説的なものを題材に取り上げたのですが、
本作の場合、一番大きな問題はスナッフ・フィルムではなく、人殺しをフィルムに撮影したということだ。
一体、この両者がどう異なるかというと、スナッフ・フィルムはあくまで商業目的があるという点だ。
ですから実際に人殺しをするわけでもなく、ホラー映画の延長線上として特殊技術を使って、
より生々しく殺しを表現することによって、そのフィルムの価値を獲得してきた経緯があります。

ところが本作の場合は、利益を得るためにスナッフ・フィルムを製作するというよりも、
あくまで個人の快楽のために、顧客満足主義的な発想から人殺しを撮影したという猟奇的発想だ。

確かに映画として、その題材は魅力的だと思うし、上手く撮れば悪くない映画になったであろう。
しかしながら本作の物足りない部分というのは、この違いを曖昧なままにしたという点である。
勿論、主人公がリサーチする過程で、凄惨なスナッフ・フィルムを観てフェイクだと見破るシーンはありますが、
本質的に利益目的でスナッフ・フィルムを撮影している人々と、ただ自身の快楽を満たすために
実際に他人を殺害する場面をフィルム撮影するような犯罪者と、一緒くたに描いてしまっていますね。

とは言え、誤解しないで欲しい。
僕は利益目的で実際には殺さないとは言え、スナッフ・フィルムの存在をどうしても肯定的には見れない。
申し訳ないけど、人が死んでいく姿を見てしか性的興奮が得られないというのは、どうしても理解できない。。。

まぁポルノ・ショップで働く青年を演じたホアキン・フェニックスをキャスティングできたのは良かったですね。
90年代中頃から本格的に映画俳優として活動を活発化させましたが、本作あたりでは存在感がアップしてます。
本作の後に『グラディエーター』で大きな役をゲットしているだけに、ブレイクするキッカケと言ってもいいですね。
彼の魅力の一つである、危うい雰囲気というのも本作に上手くフィットしていたのも大きいですしね。

あと、映画のクライマックスに登場してくる“腹を刺された男”の台詞でもある、
「オレは幼い頃にいじめられたわけでも、虐待されたわけでもなく、普通に愛情をもって育てられたんだ!」と
言い放つのも印象的でしたね。得てして、こういう展開になると犯人の生い立ちや境遇に行き着くことがあるけど、
本作はそういった理論的な整合性を合わせることよりも、不合理なメッセージをプッシュしましたね。
ここは一見すると説得力に欠けるようだけど、説明がつかないところに恐怖を見い出したようで、更に怖いですね。

要するに「普通の人々の方が、よっぽど危ない」ってことですかね。

ただ、前述したように映画の構成としてはもっと説得力を持たせて欲しかった。
主人公が思いもよらない、今まで知らなかった世界を知って、精神的な混乱を深めてバランスを崩してしまい、
気づけば従来ならば絶対にとれない行動すら、躊躇なくとれてしまう精神的な破綻に至ってしまうまでの
過程や経緯を描くという意味では、本作はほとんど説得力を持たせることができていないと思いますね。

映画の序盤から、しきりに匂わせていた主人公トムの禁煙に関する描写も納得できない。
妻に「タバコ吸ったわね」と指摘され、必死に否定するものの、やっぱり陰に隠れて吸っているというセオリーを
映画の中でほとんど活かせず放置してしまうのですが、この程度なら必要のない描写だったのではないだろうか。

やっぱりこういうところから、無駄の多い映画ってイメージが良くないですね。
意味ありげに紹介して観客を混乱させようという意図も感じられないし、
まるで脚本を書いている最中に、当初はタバコも映画の後半への仕掛けとして使用したと思っていたものの、
佳境に差し掛かるとすっかりそのことを忘れてしまったかのように、ポツッと抜け落ちてしまったかのようだ。

この映画、とにかくそういう類いの“回り道”が多いんですよね。
少なくとも、もっとまとまりのある内容ならば10分はタイトにできていたでしょうね。

(上映時間123分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[PG−12]

監督 ジョエル・シューマカー
製作 ギャビン・ポローン
    ジュディ・ホフランド
    ジョエル・シューマカー
脚本 アンドリュー・ケビン・ウォーカー
撮影 ロバート・エルスウッド
音楽 マイケル・ダナ
出演 ニコラス・ケイジ
    ホアキン・フェニックス
    ジェームズ・ガンドルフィーニ
    ピーター・ストーメア
    キャサリン・キーナー
    アンソニー・ヒールド
    クリス・バウアー
    ノーマン・リーダス
    エイミー・モートン