オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014年アメリカ)
Edge Of Tomorrow
これは想像していたよりも、結構面白かった(笑)。
日本の原作をハリウッドのプロダクションで、トム・クルーズ主演というキャスティングで映画化した、
謎の宇宙からの未確認生命体による攻撃に対抗する、軍人の奇妙な闘いを描いたサバイバル・アクション。
“ギタイ”と呼ばれる謎のエイリアンのような攻撃的な生命体が、驚異的なスピードと攻撃力、
なかなか致命しないしぶとさで、地球の国々を侵略している最中で、米軍が必死の抵抗をするという設定ですが、
この映画のポイントとなるのは、倒産した会社の経営者で戦地での経験が何一つ無く、軍部の広報役を積極的に行い、
戦地での戦闘を頑なに断ったことが理由で、逮捕されて強制力に前線に駆り出された主人公が、如何に強靭になり、
最強のエイリアンたちに対抗できる闘士になるか、という点であって、その答えが意表を突く感じで面白かった。
これも日本の原作通りなのでしょうけど、まともに訓練して戦ったって、
こんなオッサンの主人公が短期間で強くなったり、運だけで生き残ったりしたって、説得力がないわけですね。
そこで本作のベースとなるのは、「答えを知っていれば、誰よりも強くなるだろう」ということ。正に意表を突く展開だ。
そこで映画が作った前提としては、“ギタイ”を最初に殺害したときに“ギタイ”の体液を浴びれば、
輸血を受けて血液を入れ替えない限りは、何度でも「リピート」と呼ばれる現象で同じ日に戻れるという能力だ。
これさえあれば、主人公だけが繰り返し何百・何千と同じ日を繰り返すという、ある種の恐怖体験をするので
同じ戦地での情景を経験していけば、やがては寸分の狂いもなく、この先に何が起こるのかということが分かる。
そうすれば、命の危機を回避する対策を記憶して実行すれば、最強のエイリアンを撃退することができる闘士になる。
安直な発想にも思えますが、これが本作は上手くフィットしていて、何度も何度も同じ日を繰り返す展開が心地良い。
それでいて、少しずつシチュエーションが違って捉えられていて、登場人物のリアクションも微妙に異なる。
おそらく実際の撮影はそこそこの苦労を強いた作品だと思うのですが、違和感なくとても良く出来ているなと思いました。
監督は『ボーン・アイデンティティー』のダグ・リーマンで、いつもながらスピード感ある映像で良いですね。
ガンダム・スーツみたいなのを身にまとって戦うトム・クルーズなんて、以前なら考えられなかった光景ですが、
ダグ・リーマンが描いちゃうと、これはこれでスタイリッシュに見える。まぁ、よくよく考えると、古臭い演出なんですがね。
いつもはアクション・スターとしてスマートで強い男を演じるイメージが強いトム・クルーズですが、
本作では露骨に戦地に出征することに拒否反応を示したり、脱走兵として情けなく逮捕拘束されたり、
周囲の軍人たちから小馬鹿にされ、情けない表情を見せたりするというのが珍しいですが、よく似合っていますね。
そして何気なく、ギャグを少しずつブレンドしていて、本作のトム・クルーズはコミカルでもあります。
こういう路線、これはこれでトム・クルーズの上手さを証明するものでもあるので、是非とも継続したらいいと思います。
本作は当初、ブラッド・ピット主演で想定していたようなのですが、僕はトム・クルーズで良かったと思いますけどね。
この辺はダグ・リーマンも上手いこと演出できていて、まったくもって不完全なトム・クルーズの魅力を引き出している。
まぁ、言ってしまえば...本作は93年の『恋はデジャ・ヴ』のゲーム感覚で見せるSF映画版というところ。
答えが分かっていれば、すぐに上手くいくのかと言われたら、一概にそうは言えないところが現実世界の難しさ。
それでも、繰り返し何度でもリセットできるなら、そりゃ・・・上手く良く確率を格段に上げることができるわけで、
本作はかつてのテレビゲームでゲームオーバーになりそうになったら、ソフトを抜いてリセットしちゃう感覚に似ている。
正直言って、本作はそういう世代の方々に向けた映画という感じがして、なかなか無いタイプの映画かと思いますね。
こういう言い方をすると、命を粗末にしていると言われてしまいそうですけど、
負傷してしまったらリセットした方がいいと言われて、簡単に射殺されて元に戻らされるくらいですから、
ダメだったら「はい、次!」みたいな感覚で、この感覚はゲーム世代の感覚と言われれば、それは図星かと思える。
まぁ・・・人間の命を軽視していると言う人もいるかもしれないけど、このリセット感はほぼテレビゲームの感覚だ。
スゴい美学を感じさせる映画というわけではないし、何か訴求するタイプの映画というわけでもない。
次から次へとアクション・シーンは続くけれども、似たようなシチュエーションで展開するアクションばかりなので、
新鮮味があるわけでもない。だけど、これは見せ方一つで面白くなるという、工夫を根底にした作品だと感じました。
アイデア一発で勝負した映画と言われると、それも違う気はしますけど、ありそうで無かったタイプの映画で魅力的です。
ただ、主人公も何百回も同じ日を繰り返し過ごして、失敗するたびにリセットを繰り返しているようで、
次から次へと寸分の狂いもなく、一日の中で起こることが分かっている時間を延ばしていく。初めて過ごす時間に
突入すれば、当然、彼は先のことが分からないので失敗したりして学習しながら、エイリアンを撃退するために準備する。
でもこれって、冷静に考えたらスゴく過酷なことだし、こんなに同じ日を繰り返すのは苦痛そのものでしかない。
特に一日の最初の方って、最も頻度高く繰り返すから嫌気が差すなんてものじゃないくらい、面倒で苦痛でしょうね。
だから主人公も現代で言う、「塩対応」というか半ば投げやりとも見える態度で、サッサと済ませようとしています。
それくらい、分かり切ったことがその通りに起こる一日を過ごすことって、苦痛そのものでしかないのだと思う。
もっとも、主人公にとってはこの日のループを抜け出さない限りは、彼の人生は前へ進むことが無くなるわけですから。
そして、いざエイリアンを撃退すべく準備が進んできた段階で、意図せず輸血を受けたことで彼はリセットできなくなる。
プロダクションとしては本作をどちらかと言えば、コメディ的に売り出したかったのではないかと思えます。
都合が悪くなったら、本人の意図とは関係なくアッサリと勝手にリセットするべく射殺されるトム・クルーズを映したり、
何度もしつこいくらいに部隊がエイリアンとの対戦の舞台であるビーチに駆り出されるシーンの繰り返しとかも、
どこか斜に構えたようにコミカルなニュアンスを内包して描かれる。このしつこさに思わずニヤリとさせられてしまう。
中には、このしつこさにイラッとくる人もいるかもしれませんが、それはそれで作り手の術中にハマっているのかも。
「いいから、早くストーリーを先に進めろ!」とイライラさせられるほど、作り手による究極の時間稼ぎは無いと思える。
これは皮肉でも何でもなく、同じ日を繰り返して覚えていくだけで、上映時間の大半を使うなんて、実に贅沢なこと。
ましてや、それを奇妙なロボット・スーツを着用して戦うトム・クルーズ主演なんて、スゴい金のかかった企画ですしね。
個人的には、少々「お●カ映画」のエッセンスも感じなくはない内容なだけに、
トム・クルーズもよくこの企画に付き合ったなぁと感心しました。派手な映像と目まぐるしいアクションのおかげで、
それなりに予算を要したSF映画という体裁ではありますが、中身は結構なトンデモ映画に近い気がしなくもない。
それでも、こういうキワどい企画であっても常に全身全霊、全力投球なんてスター俳優としてはなかなか出来ない。
そう思って観ると、なんだか本作はスゴく有難い作品であり、とても贅沢な作品だと思うのですよね。
こういう金持ちが持つ“余裕”を感じさせるお遊び感は、ハリウッド映画が見せる一つの役割だとも思うんですよね。
それを日本のライトノベルが原作になったなんて、とっても光栄なことで、このガンダムっぽい世界観も嬉しいこと。
ただ、ブレンダン・グリーソン演じるブリガム将軍の描き方、メイン・ストーリーへの絡み方は中途半端に感じた。
どうせなら、もっとメイン・ストーリーに絡んで、観客にもストレスをかけてくるような存在として描いて欲しいし、
このままでは無理をして描く必要がないキャラクターになってしまっている気がして、狙いをハッキリさせて欲しかった。
彼を敢えて描く理由があるとするなら、例えば安直な発想だけど...エイリアン襲来に何か関わっているとか、
いずれにしてもメイン・ストーリーへの絡み方が今一つで、もっと重要な役割を果たすキャラであって欲しかったなぁ。
キャスト的には、明確な悪党がいないという設定なのは分かるけど、
そうなだけに主人公に対抗するキャラクターが欲しい。それにはビル・パクストン演じるファレウ曹長も中途半端。
それにしても・・・仮に主人公が輸血を受けておらずリセットしてタイムループする能力が
そのまま持ったままエイリアンとの闘いに勝利した場合は、一体彼はどうやっていくのだろう?と不思議に思った。
だって、彼が死ねばリセットしてタイムループとなるわけですから、エイリアン撃退前に戻ってしまうわけですよね。
そう思うと、この能力はホントに余計なもので、無理矢理にでも輸血を受けるしかないということですね。
仮にエイリアンを撃退して、輸血を受けずにリセットする能力が保持されれていれば、何十年も経って彼が他界しても、
このタイムループとなって、エイリアンとの闘いの最中に戻されれば、この上ない落胆と、希望を失うことになりますね。
(上映時間113分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 ダグ・リーマン
製作 アーウィン・ストフ
トム・ラサリー
ジェフリー・シルバー
グレゴリー・ジェイコブズ
ジェイソン・ホッフス
原作 桜坂 洋
脚本 クリストファー・マックァリー
ジェズ・バターワース
ジョン=ヘンリー・バターワース
撮影 ディオン・ビーブ
編集 ジェームズ・ハーバート
音楽 クリストフ・ベック
出演 トム・クルーズ
エミリー・ブラント
ビル・パクストン
ブレンダン・グリーソン
ジョナス・アームストロング
トニー・ウェイ
キック・ガリー
フランツ・ドラメー
ノア・テイラー
2014年度サンディエゴ映画批評家協会賞編集賞(ディオン・ビーブ) 受賞