復讐捜査線(2010年イギリス・アメリカ合作)

Edge Of Darkness

いやいや、いつからメル・ギブソンの映画って、こんなに扱いが悪くなったんだろ?

本作もどうやら日本で劇場公開されたらしいけど、
かつてのアクション・スターの面影を一切感じさせない、冴えない出来の映画で
お世辞にも『007/ゴールデン・アイ』を撮ったマーチン・キャンベルの監督作とも思えない。

まぁ思えばメル・ギブソンは95年に自ら監督・主演した『ブレイブハート』で
アカデミー賞を受賞するなど、90年代半ばにはハリウッドでも頂点に立った感がありましたが、
00年代に入ると、めっきり出演作が減り、たまに監督・出演した作品が発表されても、
ヒット作となることは数少なくなり、オマケにプライベートでは長年連れ添った夫人と離婚し、
ロシア人の歌手だかと結婚したかと思えば、すぐにDV疑惑でスキャンダルになってすぐに離婚。
その他にも飲酒運転で逮捕され、人種差別発言を繰り返すなど、散々な日々のようです。

特に出演したいと思える作品に巡り会えなかったのか、
本作なんかも02年の『サイン』以来、8年ぶりに映画出演作となっており、
一時期はハリウッドを代表するトップ・スターではありましたが、どこか歯車が狂ってしまったのかもしれませんね。

そういう先入観を持って観れば、
この映画で彼が演じた娘を目の前で殺され、復讐心に燃える警察官である主人公のキャラクターも
もの凄く悪人に見えるから不思議で、映画のラストシーンなんかも純粋な気持ちで観れない(苦笑)。

元々、主人公は娘を愛する一人の父親であり、
裏表の無い一人の刑事であるという、ただそれだけの設定ではあるのですが、
どうも僕の中で妙な先入観が邪魔して、「コイツは裏の顔を隠しているのではないか?」と余計なことを考え、
映画の前半にあったような、チョットしたアクション・シーンを観ると、「コイツはトンデモない暴力野郎なんだろう」と
おそらく映画の作り手の意図していない、猜疑的な想いが勝手に暴走してしまって、どうもダメでしたね(笑)。

映画はかつてイギリスで人気テレビ・シリーズであった『刑事ロニー・クレイブン』の映画化で
そのせいかボストンを舞台にした映画であるにも関わらず、イギリスの国営放送局であるBBCが
製作資本として加わっており、確かに従来のハリウッド映画とは、若干、異なる調子かもしれません。

物語のキーとなる、主人公の娘が殺害される事件では
一見すると主人公がかつて捜査で関係した人物に命を狙われ、至近にいた娘に銃弾が命中したように思われ、
実際、主人公自身も娘の私生活の詳細を把握していたわけではないので、そう思っていました。

しかし、復讐心に燃える主人公クレイブンも事件の謎に触れるにつれ、
実は娘の私生活には、それまで知らなかった大きな秘密があったことを知り、
実は単なる巻き込まれ殺人事件ではなく、国家権力も関わる、とてつもなく大きな力が裏に隠れ、
密かにクレイブンの娘の命を狙っていたという事実に気づき、クレイブンも大きく困惑します。

しかし、やはり目の前で娘を惨殺された残像は消えず、
警察の捜査で解決することではなく、自らの手で“処刑”することにより、事件を解決することを望みます。

しかし、相変わらずマーチン・キャンベルはアクション・シーンの演出は及第点だけど、
ドラマ部分の演出が決定的に上手くなくって、映画がどうしても磨き上げられませんね。
本作にしても、『ディパーテッド』のウィリアム・モナハンが脚本を執筆しているし、
キャスティングにも恵まれた企画と言っていい豪華さだし、この土台を活かし切れなかったのは実に残念ですね。

元々、マーチン・キャンベルはテレビ界出身らしく、
TVシリーズの『刑事ロニー・クレイブン』の監督もしていたはずなのですが、
イマイチ、今回の映画化に於いては波に乗り切れず、映画のリズムが生まれていないイメージが強いですね。

本来的に、本作はもっと大きな扱いを受けて劇場公開されなければいけない企画だと思うのですが、
おそらく劇場公開するにあたってのコマーシャル性、映画の題材なんかも考えても、
もう売れ線ではないという判断があったからこそ、こういう扱いの悪さにつながったのでしょうから、
マーチン・キャンベルは『刑事ロニー・クレイブン』のリメークということに溺れて欲しくはなかったんですけどね・・・。

まぁ人が殺害されるシーンだけに限っては、やたらと気合は入っています。
映画の冒頭にある、主人公の娘が銃撃されるシーンにしても、デカいショットガンみたいなもので、
いきなり至近距離から撃たれるものですから、体ごと吹っ飛ばされるなんて、凄い演出がある。
他にも映画の中盤にあった、車に轢き殺されるシーンなどもあまりに凄惨で無駄に印象に残りますね(笑)。

でも、僕個人としては頑張る方向性を間違えたというか、
力を入れる優先順位を間違えたという印象しかなくって、もっと違うところで頑張って欲しかったですね。

あと、謎の“掃除屋”を演じたレイ・ウィンストンの役割も不明瞭で、
確かに“掃除”はするみたいですが、自らの信念があって、主人公にも一目置いて、
敢えて主人公の行動を黙認するというスタンスは理解できるけど、チョット狙い過ぎな感じがありましたね。

個人的にはもっと悪どい側面を描いても良かったと思うし、
若干は主人公にとって、脅威となる存在である余地を残しておいて欲しかったと思いますね。
最初っから最後まで“ご意見番”みたいな立場になっちゃってるものですから、少し面白味に欠けますね。
そしてクライマックスには、映画の“美味しい”部分の全てを持って行っちゃうものですから、
よりメル・ギブソンにとっては酷な映画になってしまったような気がするんですよねぇ。

いっそのこと、娘を殺されるクレイブンをレイ・ウィンストンが演じて、
“掃除屋”のダリウスをメル・ギブソンが演じた方が良かったんじゃないの?

(上映時間116分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[PG―12]

監督 マーチン・キャンベル
製作 グレアム・キング
    ティム・ヘディントン
    マイケル・ウェアリング
脚本 ウィリアム・モナハン
    アンドリュー・ボーウェル
撮影 フィル・メヒュー
編集 スチュアート・ベアード
音楽 ハワード・ショア
出演 メル・ギブソン
    レイ・ウィンストン
    ダニー・ヒューストン
    ボヤナ・ノヴァコヴィッチ
    ショーン・ロバーツ
    デビッド・アーロン・ベイカー
    ジェイ・O・サンダース
    デニス・オヘア