エドtv(1999年アメリカ)

Ed TV

ロン・ハワード版『トゥルーマン・ショー』として話題になった作品ではありましたが、
残念ながら『トゥルーマン・ショー』のような商業的成功は収められませんでした。

確かに本作は『トゥルーマン・ショー』と全く毛色の異なる作品であり、
基本路線はコメディ映画で別にドラマ性が高い作品ではなく、示唆的な内容ではありません。
ただ、結構、いいとこまで頑張った映画という感じはします。さすがはロン・ハワードです。

視聴率低迷に悩むサンフランシスコのケーブルTV局“トゥルーTV”が打ち出した新企画、
それは一般公募で集まられた民間人一人に注目し、日常生活の隅から隅まで撮影し、
プライバシーそっちのけで「他人の生活を覗き見したい」という視聴者の欲求を満たそうというもの。

“トゥルーTV”が選んだ撮影対象者はサンフランシスコのレンタル・ビデオ店で勤める冴えない男エド。
彼は30歳を過ぎたにも関わらず、将来設計はままならず、夜ごとバーでビールを飲み明かす毎日。
いざ撮影がスタートすると、あまりにプライバシーを無視する横暴なTV局のスタンスにエドの家族は困惑する。
浮気したエドの兄レイに怒ったレイのガールフレンド、シェリはエドと恋に落ちて事態は更に混乱・・・。

とまぁ・・・いかにもロン・ハワードが上手く捌きそうな題材の群像ドラマだ。
しかし、今回はチョット“押し”が弱い。カメラ撮影を含めて、ひじょうに凝った映画なのは認めますが、
2時間を超えてしまった全体的な尺の長さもあってか、映画が少し緩慢な印象が残る。
詰まるところ、スピード感や映画自体のメリハリに欠けるような気がします。

映画化するアイデアとして面白いことは認めますが、もっと企画を練るべきでしたね。
ややアイデア一発勝負といった感じで、撮影に踏み切ってしまった感があります。
ロン・ハワードならもっと面白い映画にできただろうし、これだけのキャストを集めながらも、
全米を含め世界各地で劇場公開時に、あまり大きな話題を巻き起こせなかったのは、
ロン・ハワードらしい統率力が映画に欠けていたからではないだろうか。

あまりに多くのエピソードを詰め込みすぎて、映画は最終的に消化不良を起こし、
いろんな方向にとっ散らかってしまい、最後には収拾がつかなくなってしまったような印象を受けます。

だからこそ僕は強く思うのは、映画のラストがひじょうに軟弱であるということ。
仮にもエドtv≠ヘ全米で大流行したテレビ番組であり、“トゥルーTV”はこの番組で大儲け。
今後も莫大な収益が期待でき、副次的な潤いも莫大な経済的効果として勘案できる。
映画の序盤からあれだけ強気に啖呵を切ってきた“トゥルーTV”の重役が、エドの些細な抵抗に実に簡単に
屈してしまい番組の放送を打ち切るという結末を迎えるという点において、説得力が極めて弱い。

とは言え、本作においてもロン・ハワードの演出は秀逸そのものだ。
特にエドとシェリの恋愛描写に関しては、ひじょうに巧みで見せ方も実に上手い。
2人の感情の起伏が実に自然体な姿として表現できているし、盛り上げ方もお手本のようだ。

ロン・ハワードの群像劇の上手さはかつてから定評があるが、
映画の軸をしっかり持っているから、作為的意図を観客に悟らせないように、
尚且つ、映画のメインテーマがブレないように撮るのがひじょうに上手いですね。
ここまで上手くやってのける映像作家は、今やハリウッドでロン・ハワードぐらいでしょうね。
一時期、数多くの新進映像作家がデビューしましたが、その多くがあざとさを感じるものが多かったですからね。

エドを演じたのは96年の『評決のとき』で一躍、スターダムの階段を駆け上ったマシュー・マコノヒーで、
彼の実の兄レイを『マネー・トレイン』、『ラリー・フリント』のウディ・ハレルソンが演じている。
まぁマシュー・マコノヒーは無難な感じで演じていますが、ウディ・ハレルソンは抜群の存在感。
まるで何も考えてない、余計なことばかりしでかすダメな兄貴だが、魅力的なキャラクターではある。

それからシェリを演じたジェナ・エルフマン。彼女は後にTVシリーズ『ふたりは最高! ダーマ&グレッグ』で
ブレイクする女優さんなのですが、本作でも良いインパクトを作品に与えています。
ホントにもっと映画に積極的に出たらいいのに・・・と思えてならない女優さんの一人だ。

そういう意味では、多少、キャスティングにも恵まれた作品ではありますが、
これらもロン・ハワードの演出が長けているからこそ、為し得た結果だと思うんですよね。
これは決して役者たちが勝手に演じた産物ってわけではありません。

まぁ映画の出来としては同じロン・ハワード監督作なら『ザ・ペーパー』や『ビューティフル・マインド』の方が
ずっと良く出来ているとは思うので、チョット厳しい目で見てしまいますが、愛すべき作品だとは思う。

どうでもいいけど、エリザベス・ハーレーが演じたモデルのジルは凄いフェロモンでした(笑)。
まぁ失礼ながら、決して若くはない女優さんなんだけれども、見事なまでのハマリ役。
“エドtv”放送開始54日目ということで、エドがジルの部屋に夕食の招待を受けるのですが、
エドがジルのアパート前に着いた時の、アパート入口を取り囲む群衆の異様な盛り上がりに爆笑。

人間って、やっぱ...見ちゃいけないものや、見たくはないシーン、
或いは法令で規制されるぐらいの過激な映像って、ナンダカンダ言って見てみたいものなんですよね〜。

そんな人間のある意味ではえげつなさも象徴した作品ですね。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
    ロン・ハワード
脚本 ローウェル・ガンツ
    ババルー・マンデル
撮影 ジョン・シュワルツマン
音楽 ランディ・エデルマン
出演 マシュー・マコノヒー
    ジェナ・エルフマン
    ウディ・ハレルソン
    エレン・デジュネレス
    マーチン・ランドー
    サリー・カークランド
    デニス・ホッパー
    エリザベス・ハーレー
    ロブ・ライナー