食べて、祈って、恋をして(2010年アメリカ)

Eat Pray Love

女流作家エリザベス・ギルバートのベストセラー小説の映画化。

ブラッド・ピットが製作総指揮を担当し、
90年代に数々のヒット作でヒロインを演じたジュリア・ロバーツを主演に据えて、
どこか上手くいかなくなってしまったキャリア・ウーマンの女性が、自分探しの旅に出る姿を描いたドラマ。

こういう自分探しを描いた映画って、そこまで数多いわけではないと思うのですが、
どうも映画化するには物足りないというか、小説として読む分には面白いということなんでしょうね。

どういうことかと言うと、どうにも映画にすると面白くない。
映画はニューヨークでキャリア・ウーマンとして忙しく働くヒロインが、とある男性と結婚して、
凄く大きな不満があるわけではないにしろ、たまたま訪れたバリで手相占いができる薬剤師から、
2つの助言を受けたことが頭に残ったまま帰国し、彼女の心が強く後押しされたことからスタートします。

その助言とは、「2回は結婚して、1回目は短くて、2回目は長い」ということと、
「この先、半年の間にすべての“財産”を失うが、大丈夫。すぐに取り戻せるから」ということ。

彼女の人生が必然的にその通りになったというより、
帰国後、彼女がこの薬剤師の言葉を信じて、その予言の通りにしていったという印象なのですが、
その当時の結婚生活に疑問を持ち、亭主の「教育学を学びたいから大学に戻りたい」という言葉に端を発して、
次第に彼女の気持ちは、「今の生活を全てリセットしたい」という方向に大きく傾いていきます。

正直言って、自分が男性だからということはあるのかもしれないけど、
ヒロインが疑問に持ち始めることって、まぁよくあることって感じで、離婚に踏み出すほどの原因かと言われると、
一見するとそうは見えないのですが、往々にして、こういったチョットした不一致が大きなストレスにはなりがちですね。

そうして貯め込んだストレスが、やがてこういった自分探しの旅へと突き動かすのですが、
個人的にはもっと彼女の亭主の欠点を明確に描いた方が良かったというか、映画が受け入れられ易かったとは思う。

と言うのも、ひょっとすると日本人的な感覚、特に男性の目線から見てしまうと、
彼女の離婚したいという気持ちが、凄く一方的なものに見えて、いくら彼女の離婚の条件が
亭主に悪くない条件であったとしても、彼女の自分探しの旅が亭主に原因があるというより、
結局はバリで出会った薬剤師の言葉が原点であるとしか描かれていないということが、引っかかるんですよねぇ。

僕の中では、どうしてもこの自分探しの旅の原点が映画の最後まで気になって仕方がなかった。
(まぁ・・・こういう疑問は、男性だからと言われれば、それまでかもしれないが・・・)

ヒロインは、その薬剤師の言葉を信じ、まずはニューヨークで新たな生活を求め、
若き舞台俳優との新しい恋を積極的に受け入れ、新しい生活を築こうと動き出しますが、
それはすぐに上手くいかなくなってしまい、彼女はイタリアに期間限定で長期滞在することにします。

イタリアでは、自身のことを思い返しながら、とにかく食べて食べて食べる毎日。
これは体型を気にする方なら、かなり勇気のある行動ではあると思うのですが、
それを敢えてするということは、彼女にとって、それまでの荒んだ心を回復させるための期間にしたかったのでしょうね。
それまでの生活とはまるで違う環境に身を置いて、新たな刺激を受けることこそ、自分探しの旅の第一歩なんですね。

そして次に彼女は、インドへ渡り、ニューヨークで出会った若き舞台俳優デビッドの信じる、
導師を訪ねることにしたのですが、そこで課せられる瞑想の日々に、なかなか上手くはいきません。

しかし、彼女はそこでアルコール依存症に苦しみ、自らインドへ赴いた、
初老の男性と出会い、彼女は人生の苦しさ、そして贖罪の気持ちに触れることになり、
初めて自分の生き方を見つめ直す時間にすることができて、いろいろなことを思い返します。

最後に訪れたバリで、再び彼女はこの旅を予言した、薬剤師との再会を果たし、
自分探しの旅の終着点とすべく、彼女は新たな恋との出会いを求めるのですが・・・というわけですね。

まぁ・・・こういう自分探しの旅に出たくなる気持ちは分からなくはないし、
映画というか、この原作のコンセプトは理解できる。誰しも、こういう時間がホントは必要なのでしょう。
エリザベス・ギルバートの原作が世界的ベストセラーになった理由も、なんとなく分かる気がしますね。

ただ、前述したように、これは映画的な内容ではないし、
本作を監督したライアン・マーフィーも、本来、映画が果たすべき役割を表現できていない。

それは一番、大きいのは、旅をテーマにした映画であるはずなのに、映画が旅をしていないからだろう。
それはどういうことかと言うと、具体的に何が足りないと言うことは難しいのですが、ドライヴ感が足りないのだろう。
実際に移動して、映画を綴っているという感覚に乏しいし、空間的な広がりも画面からは感じられない。
一人の旅行者であるはずのヒロインなのに、ほぼ各地のロケーションの良さにすがったような撮影でしかなく、
どうにも、それぞれのエピソードを積み重ねて精神的に成長していくヒロインを描いているというわけではなく、
ニューヨークから始まり、経由するイタリア、インド、そして最終目的地バリに至っても、全て単発的なんですね。

正直言って、映画としてこれではダメなんだ。
こうして各地を巡って、答えに辿り着いたという感覚を上手く表現できていない。
全てが単発的になると、結局は「最後のバリだけで良かったんじゃないの?」ということになりかねない。

どうも、映画として物足りないという感想は、こういう部分からきたものだろう。
確かに前向きに生きる女性を応援する映画という印象も無くはないのだけれども、
もう少し旅をした結果、一つの答えを見つけ出すというコンセプトを生かさないと、映画の意義が見出せないですね。

かつて旅行をテーマにした映画というのは数多くあったけれども、
そういった映画で出来の良い作品って、やっぱりカメラも一緒になって旅をしているドライヴ感があった。

そういった部分が希薄である以上、僕はどうしても本作を多くの方々に薦めることはできないですね。
そういう意味で、結局「最後のバリだけで良かったんじゃないの?」となってしまうのであれば、
本作の上映時間が2時間を大きく超えるヴォリュームなのですが、それでは長過ぎるという印象が拭えない。

これはとても勿体ないことなのですが、この内容ではそれも仕方ないと思うしかないのかな。。。

(上映時間140分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ライアン・マーフィー
製作 デデ・ガードナー
原作 エリザベス・ギルバート
脚本 ライアン・マーフィー
    ジェニファー・ソルト
撮影 ロバート・リチャードソン
編集 ブラッドリー・ビューカー
音楽 ダリオ・マリアネッリ
出演 ジュリア・ロバーツ
    ハビエル・バルデム
    ジェームズ・フランコ
    リチャード・ジェンキンス
    ヴィオラ・デイヴィス
    ビリー・クラダップ