イージー・ライダー(1969年アメリカ)

Easy Rider

僕はアメリカン・ニューシネマが大好きだ。この頃の映画に感銘を受けて、映画好きになった。

で、本作。れっきとしたアメリカン・ニューシネマを代表する一本である。
自由を求め、公民権運動が盛んな時代に、実は当時のアメリカが自由ではない生きづらさを描くように、
アメリカ中を放浪する2人のバイク乗りの旅を、サイケデリックかつ衝撃的に描いたロード・ムービーの名作です。

ただ、僕は...実はこの映画が好きではないのですよね。
本作はピーター・フォンダとデニス・ホッパーが頑張って、主導的に完成させた映画であり、
時代の空気感を反映させ、衝撃的なラストシーンも含めて、世界的に高く評価された名作なのは間違いないです。

一説によると、ピーター・フォンダから本作でボブ・ディランの楽曲を使いたかったらしいのですが、
残念ながら権利の関係で使えず、それではと、ボブ・ディラン本人に主題歌の提供を依頼したらしいのですが、
映画の主旨がボブ・ディランが賛同できず、結局、ザ・バーズ≠フロジャー・マッギンが担当したらしいです。

別にボブ・ディランの信者ではないのですが(笑)、彼がこの映画のスタンスに賛同できなかったのも
僕にはなんとなく分かる気がします。当時のピーター・フォンダを若者と称するには、年をとっている気がしますが、
それとしても、自由を求める若者たち、それまでの古い価値観によって一方的に差別され、排除されることの不条理を
こういう形でしか表現できないというのは、なんだか寂しい気もします。確かに紙一重な部分はあるのだけれども、
なんだかこの映画で描かれたことだけでは、僕の中にはそこまで響くものが無かったとしか言いようがないのですよね。

人種差別が根強く残るアメリカ南部の田舎町の閉鎖的な考え方や風潮は事実だったでしょうし、
長髪で、いわゆるヒッピーとしてハーレーで放浪する男は、かなり差別的な視線に晒されていたのでしょう。
そういう意味では、それにまつわる犯罪というのもあったのでしょうが、さすがにこの映画で描かれる顛末は悲惨だ。

こういった残忍な側面を強調して描いたこと自体、当時は賛否を呼んだのではないかと思うのですが、
よくアメリカ南部の人々は怒らなかったものだと思った。それくらい、この映画は一方的な視点から描いた作品だと思う。

まぁ、おそらくピーター・フォンダらもそんなバランスを意識して映画を撮ろうなんて思っていなかったでしょうし、
60年代当時からドラッグに手を染めていたようですが、自分たちの主張を一方的に映画に乗せたかったのでしょう。
それに盟友デニス・ホッパーも応えたわけですが、確かに低予算で野心的な内容であり、よく頑張っています。

ただ、響くものが無かった。それは自分とは感覚的に合わなかった...というのが大きいのかもしれない。
アメリカン・ニューシネマらしい内容の映画ではありますが、もっと主演コンビの信念というものを強く描いて欲しかった。
時代に翻弄されたアウトローという位置づけだったのかもしれませんが、2人の生きざまを表現したというほどでもない。
そもそもドラッグの売人だし、聖人君子な生き方では全くないけれども、それでも映画の幕切れはあまりに衝撃的だ。

このラストは、2人の生きざまをもっと力強く描いていれば、より訴求する映画になっていたはずだ。
得てして、アメリカン・ニューシネマにカテゴライズされる作品って、反体制的な若者を主人公にして、
衝撃的なラストを演出するみたいな傾向が強く、ヘヴィな映画が多いのだけれども、別にそれだけではない。
ニューシネマに共通して言えるのは、人間を描いた作品だという特徴もあるので、主人公2人はしっかり描いて欲しい。

後に名優になったせいもあるけど、ピーター・フォンダやデニス・ホッパーも悪くないとは言え、
映画全体で最も目立ったのが、育ちの良い弁護士を演じたジャック・ニコルソンだったというのも、なんとも皮肉だ。

幾度となく多用されるカットバックも、個人的には好きになれない。
これは映画にアクセントをつけるために、効果的に使うのであればまだ良いが、本作のそれはやり過ぎだと感じる。
これはどうやら、大林 宜彦が本作の編集にアドバイスを送っていたらしいので、影響を及ぼしたのかもしれないが、
どのような経緯であっても、本作でのカットバックの多用は適切なものだったとは僕には思えなかった。

おそらくドラッグによって倒錯した感覚をサイケデリックに表現したかったのではないかと思いますが、
そうであったとしても映画の終盤で使えばいいし、前半から多用し過ぎたせいか、終盤のインパクトが弱くなった。

とは言え、本作の歴史的価値みたいな大袈裟な言い方になってしまいますが...
当時の映画界に与えたインパクトは小さくはなかったでしょうし、後年の映画への影響力も強かった。
それは、自分の価値観に合わない人間は、社会の異分子として暴力で排除することは仕方ないとの認識が
ある一定割合で存在するという自由の危うさを、何のためらいも無く映画の中で堂々と綴ったことにあると思う。

本作以前にも主人公がクライマックスで死んでしまうといった映画はありましたけど、
さすがに本作のように、善良ではないが、殺されるのが当然というほどの悪党とは言えない人間を
まるで“虫ケラ”のように排除されても、誰も悲しまないと言わんばかりに、無感情的に殺められることの
恐ろしさ、虚しさに触れた映画は無かったでしょう。そうした残虐性を持ったのが、一見すると平凡な市民であり、
若者の価値観やスタイルを理解できない、まともに力で戦うと負けるであろう、年寄りであるというのが皮肉な構図だ。

でも、これが現代社会にも通じる狂気である。この狂気を、当たり前のように描いたことは衝撃的だったことでしょう。

と言うのも、まるでゲームであるかのように長髪でダラしなさそうな若者のバイク乗りを見かけたからと言って、
「チョット撃ってやろう」なんて、まるで遊び感覚でトラックを横づけしてライフルを構えて、挑発に乗ってこないから
アッサリとライフルをブッ放すなんて、当時の常識でも信じられないくらいのカオスでしょう。立派な犯罪行為です。
それを「あれ、当たったか?」なんてトボけたことヌカして、戻ろうとドライバーを促して、介抱するのかと思いきや、
今度は更に無感情的に狂気を気に食わないヒッピー(若者)に向けるとは、非人道性の極みと言ってもいいくらいだ。

アメリカだって、法治国家だ。さすがに私刑は認められていないし、気に食わない奴に危害を加えていいことはない。
それでも当時のアメリカの一部の地域では、このような理不尽かつ非人道的な暴力が横行していたのかもしれません。

本作製作当時は、ベトナム戦争の真っ只中で反戦運動や公民権運動が盛んになっていた時期で、
若者たちが時代を動かそうとする力も強く、それまでの既成概念に捉われた価値観に対してNO!と主張して、
新たな時代を築き上げようとする気運は高かったと思う。なので、この映画の中の言葉で言えば、
自由を求めて放浪の旅を続けているわけなのですが、その自由を得るための代償はあまりに大き過ぎました。

本来であれば、この代償は払わなくてもいい世の中であるべきなのだけど、
ピーター・フォンダとデニス・ホッパーは、その主張をハッキリとさせるためにラストで力技にでたのかもしれません。
もっとも、若い頃のピーター・フォンダって寡黙な役を演じることが多くって、一種のナルシズムも感じさせるのですがね。

本作のメッセージ性の強さはとても大きい。デニス・ホッパーがどこまで意識していたかは分かりませんが、
やはり『俺たちに明日はない』、『卒業』あたりから出来上がっていたニューシネマ・ムーブメントに乗って、
それまでには無いタイプの映画を作ろうとする意気込みは、とても強かった企画ではないかと思います。

67年の『白昼の幻想』で知り合ったピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルソンが
更に一歩進めた映画を撮ろうと、自分たちで頑張った功績は大きい。彼らは当時、30代前半という年齢でした。
踏襲しているのは、ラストのLSD服用によるトリップ・シーンくらいですが、やはり本作の特徴でもあります。

デニス・ホッパーは本作での成功の勢いに乗れず、70年代は自身のドラッグ中毒とアルコール中毒が深刻化し、
映画会社ともトラブルを抱えたりして、86年の『ブルー・ベルベット』や『勝利への旅立ち』まで不遇の時代を過ごします。

おそらくピーター・フォンダの選曲でしょうが、この映画で使われた音楽としては、
ステッペン・ウルフ≠フ Born To Be Wild(ワイルドでいこう!)がなんてったって有名ですが、
個人的にはザ・バンド≠フ The Weight(ザ・ウェイト)は好きな曲なので、良いところで使われていて嬉しい。

こういうポピュラー・ミュージックを映画の中で堂々と使うようになったのは、この頃あたりからですね。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 デニス・ホッパー
製作 ピーター・フォンダ
脚本 ピーター・フォンダ
   デニス・ホッパー
   テリー・サザーン
撮影 ラズロ・コヴァックス
美術 ジェレミー・ケイ
編集 ドン・キャンバーン
音楽 ザ・バーズ
出演 ピーター・フォンダ
   デニス・ホッパー
   ジャック・ニコルソン
   アントニオ・メンドーサ
   カレン・ブラック
   ロバート・ウォーカーJr

1969年度アカデミー助演男優賞(ジャック・ニコルソン) ノミネート
1969年度アカデミーオリジナル脚本賞(ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、テリー・サザーン) ノミネート
1969年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1969年度全米映画批評家協会賞特別賞(デニス・ホッパー) 受賞
1969年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(ジャック・ニコルソン) 受賞
1969年度カンヌ国際映画祭新人監督賞(デニス・ホッパー) 受賞