E.T.(1982年アメリカ)

E.T./The Extra - Terrestrial

有名過ぎるほどのスピルバーグの集大成的作品なので、今となっては賛否もありますけど...
あらためて観ると、これは地球外生命体を描いた作品としては、評価されて然るべき作品だとは思います。

一部では、誤った先入観を生むことへの危惧が指摘されていますけど、
確かに元々、こういうものを恐怖体験として描くことの多いスピルバーグとしては異例なくらいに、
内容としては子ども向けな感じがするし、穿った見方をすれば一種のジョークのようにも感じ取れますけど、
そもそも地球外生命体を友好な存在であることを前提に描いた映画、という時点でパイオニアだったと思います。

もっぱら宇宙人と言われれば、不気味な存在であり、目的もよく分からないことから、
こんな友好的な存在として描かれることって、まず無かったと思うのですが、スピルバーグが『未知との遭遇』で
こういうアプローチでは描き切ることができなかったという、ある種の彼なりの後悔が反映されている気がします。

劇場公開当時、空前の大ヒットだったらしいけど、そりゃ・・・82年という時代を思うと、
(僕は生まれる前だったけど...)この内容の先駆性、映像表現はやはり感動した人が多かったのだろうと思う。
それくらい、当時のスピルバーグは考えていたことも、実際にやっていたこともスケールが桁違いにデカかった。
80年代は正にスピルバーグの時代だ、と決定づけたのは本作の登場だったと言っても過言ではないだろう。

それくらいのインパクトと、スピルバーグのフィルモグラフィーを考える上で重要な作品だと思うので、
僕の中ではそれだけで本作に価値はあるとなります。今思えば、E.T.の造詣は少々ホラーですけどね(苦笑)。

やっぱり、スピルバーグは子どもの視点で映画を描かせると上手いなぁと感じる。
最近でこそ、そういう映画が少なくなりましたが、80年代はそんな映画を数多く手掛けていたし、
スピルバーグ自身が監督をしなくとも、彼の映画会社「アンブリン」では率先して子どもの視点を生かした映画に
数多く出資していたので、おそらくはスピルバーグのアドバイスもかなり影響していたのではないかと察します。

いろんな意味で、本作が当時の映画界に与えたインパクトというのは極めて大きく、
スピルバーグが描く地球外生命体に関する御伽噺とはこういうものであると、一つの指針を示したかのようです。

一部では、地球外生命体に間違ったイメージを植え付ける作品だとの指摘もありますが、僕はそうは思わない。
確かに友好的な存在かなんて分からないし、こんなに容易にコミュニケーションはとれないだろうし、
そもそもが人間が思う生物らしいデザインとは全く違うものかもしれない。得体の知れない存在をファンタジーとして
描くことに抵抗感を感じる人も少なくはないでしょう。だけど、それでも僕はこれが間違ったメッセージだとも思わない。
結局、誰も確実に把握しているという人はいないのだから。強く否定する材料は、誰も持っていないように思います。

子役時代のドリュー・バリモアが末っ子の役で出演していることでも話題になり易い作品ですが、
彼女はティーンの頃に薬物中毒やアルコール依存症と闘うことになるなど、様々な問題を抱えることになります。
そう思うと、なんだかフクザツな気持ちになりますが、やっぱり子役としての能力は高かったのだろうと思いますね。

本作はどうやら自分が母親のお腹の中にいたときに映画館で“観た”ようで、
実は生涯で最初に観た映画ということになるのかもしれませんが、40歳を過ぎた今見ても尚、十分の楽しめる。
あらためてスピルバーグはこういう映画を撮らせると上手いなぁ・・・と、実感させられる出来であったと思います。

勿論、これは否定的に見るスピルバーグのファンもいるだろうし、意見・感想は千差万別です。
ただ、本作のシルエットが「アンブリン」のシンボルになったり、劇中、描かれた地球外生命体の“E.T.”が人形に
なったりして、劇場公開から40年を過ぎた今でんも、多くの人々から愛される名画だというのは、紛れもない事実です。
そう思うと、これまで『JAWS/ジョーズ』で世界をビックリさせたり、『未知との遭遇』で地球外生命体の正体に
踏み込んだスピルバーグが、敢えてハッキリと本作で地球外生命体を動物のように描くことに大きな意味があったはず。

スピルバーグだって、これが言い方は乱暴だが...地球外生命体が必ずしも動物のように二足歩行するものではく、
必ずしも地球に暮らす人間に友好的だと決め付けているわけではないだろう。そもそも存在に否定的かもしれない。

むしろ人間の大人たちを、白装束軍団のように無感情的に描いていてホラーなのが賛否は分かれるだろうが、
謎に映画の“美味しい”ところを持っていってしまう、ピーター・コヨーテ演じる子どもたちの主張や感情に理解を示す、
医師団の一人なども印象深く、少々イージーな言い方かもしれないが、スピルバーグは宇宙人の来訪について、
あくまでファンタジーとして描きたかったのだろうし、敢えて子どもたちの視点に固執して本作を撮ったのだろう。

やっぱり、これだけのこだわりを持って映画を撮ってしまうこと自体、僕はスゴいスピルバーグの信念だと感じる。

ILMが担当した特撮に関しても、スピルバーグのプロダクションの技術力を持ってすれば、
容易いレヴェルなのかもしれないけど、やはり映像表現一つ一つが神々しくもあり、唯一無二なものだと感じる。
まぁ、特に映像表現に関してはスピルバーグにとっては、77年の『未知との遭遇』での経験が大きかったのだろうけど。

有名な話しではありますが、本作は製作費約1000万ドルで製作されましたけど、
いざ劇場公開されたら全世界で8億ドル近い興行収入となり、当時の映画史上No.1の記録を作りました。
本作の記録を破るのが、スピルバーグが93年に撮った『ジュラシック・パーク』だったというわけで、彼の凄さが分かる。
本作なんかは特撮技術を駆使したという感じではないけれども、それでも彼の持っている技術を的確に使っている。

やはり当時のスピルバーグは神懸っていたと言っても過言ではないと思うし、
実際に才気も溢れていたのだろうけど、なにより自分の持ち味と時代性を的確に見極め、映画を撮っていたと思う。
そして、映画で撮りたいことがいっぱいあって、監督作だけではなくプロデュースした作品も軒並みヒットさせている。
おそらく、こんな時代を築ける映像作家というのは、滅多に現れるものではなくスピルバーグは数少ない一人だろう。

本作でスピルバーグが一つのテーマとしているのは、家族愛に飢えた子どもということでもあると感じる。

子どもたちは自宅で一見すると楽しそうに暮らしてはいるものの、彼らの母親はやや精神的に不安定。
何故なら、子どもたちの父親がメキシコに愛人と“出張”して帰ってこないというのだから、心中穏やかではない。
ましてや、そのことを子どもたちに悟られているのだから、夫婦間の問題に留まらないところまできてしまっている。

その事実を知る子どもたちにとっても、父親は必要な存在であったはずで、
情緒的にやや不安定な母との生活に限界を感じつつある中で、地球外生命体との出会いがあるわけですね。
別にこの地球外生命体が、彼らの父親代わりになるわけではないし、家族として受け入れるわけでもありません。
しかし、子どもたちの純粋な心は、この地球外生命体の存在を認めて心を通わせ、大人とは違う関係性を築きます。

これはある種、子どもたちも抜け落ちた愛を埋める存在が必要だったということと、
人間のエゴと言われようが、人間以外の存在と心を通わせることの尊さを描いたわけで、その過程も秀逸である。
正直言って、僕は本作がスピルバーグのベストワークだとは思っていないけれども、それでも本作の凄みは感じる。

当時のスピルバーグは、この境地に至ることが出来たからこそ、あのポジションを獲得できたのだと思う。

そういう意味では、劇中描かれるヘンリー・トーマス演じる少年が仮病を使って学校を休むというシーンも、
スピルバーグが幼い頃に使っていた手口と一緒だというから、スピルバーグの視点は常に子どもたちと一緒なのだ。
この徹底した部分というのはホントにスゴいと思うし、スピルバーグならではの踏み込んだアプローチだと思う。
(口では子どもたちの視点・目線で映画を撮ったという人は数多くいるが、踏み込み具合が浅いのが多い・・・)

ちなみに“E.T.”なる地球外生命体は動物を模したロボットであるアニマトロニクスで表現している。
スピルバーグが映画の中で、このアニマトロニクスを採用したのは75年の『JAWS/ジョーズ』かと思いますが、
本作のアニマトロニクスの方が有名ですね。確かに驚くほど、動きが細やかで自然なことが大きな特徴ですね。
(この“E.T.”の人形、かつて自分の家にあって今思うと...チョット不気味だったなぁ・・・)

これだけ有名な映画ですので賛否はありますけど、やはり映画史に名を残す名画である所以は感じます。
私は映画としてなら、同じスピルバーグの監督作品だと『未知との遭遇』を推すけれども、本作はその発展版だと思う。

映画としてのインパクトは大きいので、リアルタイムで映画館で観賞した人の中で、
強く印象に残っているというのは分かる気がします。それだけ、80年代のスピルバーグは神懸っていたのです。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 スティーブン・スピルバーグ
   キャスリン・ケネディ
脚本 メリッサ・マシスン
撮影 アレン・ダヴィオー
特撮 ILM
編集 キャロル・リトルトン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 ヘンリー・トーマス
   ピーター・コヨーテ
   ドリュー・バリモア
   ロバート・マクノートン
   K・C・マーテル
   ディー・ウォレス
   ショーン・フライ
   エリカ・エレニアック
   C・トーマス・ハウエル

1982年度アカデミー作品賞 ノミネート
1982年度アカデミー監督賞(スティーブン・スピルバーグ) ノミネート
1982年度アカデミーオリジナル脚本賞(メリッサ・マシスン) ノミネート
1982年度アカデミー撮影賞(アレン・ダヴィオー) ノミネート
1982年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞
1982年度アカデミー視覚効果賞 受賞
1982年度アカデミー音響賞 受賞
1982年度アカデミー音響効果編集賞 受賞
1982年度アカデミー編集賞(キャロル・リトルトン) ノミネート
1982年度イギリス・アカデミー賞音楽賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞
1982年度全米映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1982年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
1982年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1982年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1982年度ゴールデングローブ賞音楽賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞