ドライビング Miss デイジー(1989年アメリカ)

Driving Miss Daisy

年老いて独居老人となり、長年仕えた家政婦に日常生活の世話を任せるものの、
操作ミスから軽い交通事故を起こし、運転士を息子が手配するも、相変わらずな頑固な性格から
運転士が根気強く接し、長年の交流を育むことに至る過程を描いたハートウォーミングなヒューマン・ドラマ。

本作でベテラン女優のジェシカ・タンディが初めてアカデミー賞にノミネートされ、
主演女優賞を獲得するなど、主要9部門にノミネートされた話題作で、原作はピュリッツァー賞を受賞したもの。
(アカデミー作品賞を受賞するも、監督賞はノミネートすらされなかったことでも話題になりました)

確かに内容的には、人々の心に触れるものがあるとは思うけど、
僕の中ではこの映画、何かが足りない。それも少しだけではなくって、結構な量と感じる。
役者陣は申し分ありません。主人公の老婦人デイジーを演じたジェシカ・タンディは言うまでもなく、
根気強くデイジーに接する老ドライバーを演じたモーガン・フリーマンも、スゴく良い味を出していて上手い。

これは主題としては人種差別を掲げた映画だとは思うのですが、
その上で成り立つ友情にしても、やっぱりキチッと訴求する感じではなくって、どこか物足りない。

デイジーにしても「アタシは差別主義者ではないわ」と言うが、確かに露骨に人種差別はしなかったかもしれないが、
他の白人家庭と同様に、家政婦として黒人女性を雇い、自分は家事を一切しない。公民権運動が盛んになっても、
キング牧師の演説は聞きに行けど、具体的に何か行動するわけでもない。キング牧師が演説中で批判していた、
「良心的な白人だが、無言を貫く何もしない白人たち」というのに、デイジーはピッタリ当てはまるのですよね。

結局、デイジーは白人の論理で動いている老婦人であり、もうそれは変えられないということ。
差別はしないと心に決めていても、幼い頃から染みついたものや生活環境を変えるのは容易なことではない。

監督のブルース・ベレスフォードはそういったデイジーと黒人運転手ホークの交流を
淡々と綴っているのですが、確かに感情的な演出に頼ることなく、痴呆症状が進んだデイジーをホークらが訪ね、
一緒にお菓子を食べるという、日常の風景の一部を切り取って、静かに映画が終わるというのは良いんだけど、
その中でも何か一つ特徴が欲しかったし、キチッと訴求するものが欲しかったですね。それが無いのは勿体ない。

それゆえ、何かが足りないという感覚が、観終わった後も凄く強い作品でしたね。
この辺がこの辺がブルース・ベレスフォードの監督としての仕事の評価が高まらなかった理由なのかもしれません。

しかし、一概にデイジーのことを批判はできないと思います。
人間誰しも、差別心のようなものって、心に持ち合わせていると思うので。それを自分を主張して表に出すか、
相手に悟らせてしまうかは、また別の話しですけど、少なくとも僕はデイジーのことを全否定はできないですね。

一部では本作のことを白人の立場から一方的に見た映画だという批判的な意見があったらしいけど、
これは確かに指摘の通りでしょう。ただ、僕は白人の視点から描いた映画だから批判されるべきとは思わないし、
本作自体が差別を推奨するような内容だとは思わない。どちらかと言えば、ドキュメンタリーに近い感覚でしょう。

ホークのような穏やかな人たちばかりというばかりではないだろうが、
この映画で描かれる黒人たちは、どちらかと言えば、“使われる立場”の人間たちであって、
色々な想いがある中でも、年齢を重ねたせいもあってか、ある意味では達観したようなところが目立っている。
この対比がユニークで、「差別はしてない」と公言する白人老婆の面倒を看る、達観した黒人男性というコンビは
確かに他の映画ではなかなか見ることができない設定であり、この設定自体が当時はウケたのかもしれません。

映画の終盤にホークが感情的になって、「何が変わったっていうのですか?」とデイジーに強く言いますが、
黒人たちの目線から見ると、キング牧師が訴えただけで時代が変わったというのは尚早だと感じていたということ。

この辺はホークを演じるモーガン・フリーマンの感情の出し入れが凄く上手い。
それでいて根気強くデイジーと接するので、クライマックスにはデイジーに痴呆症状が見られるとは言え、
ようやっと心から打ち解け合うかのようなエピソードが描かれていて、悲観的なラストではないあたりが良い。

ところで、この映画を観ていて感じたのは、上映時間が短いせいか、
映画の後半になると急速に時代の進行が速くなっていったせいか、時間の経過が分かりにくいこと。
それを補足する字幕も無く、キャストたちのメイクや季節を見て、“感じ取る”ことで時間の経過を把握するしかない。
これはもう少し何とかして欲しかった。編集の段階で作り手も気づいていたように思うのですが、とにかく分かりにくい。

それは、ホークとデイジーの交流は長年の時間をかけて積み重ねてきたことが大きくって、
時間の経過というのは、本作にとってキー・ポイントであったはずなので、それが分かりにくいのはネックかと思う。
その時間経過の中で、デイジーがホークにキツく接するなど、もっと紆余曲折があっても良かったとは思うけど、
それをやってしまうと、作り手には映画が感情的なものになってしまうという、懸念があったのかもしれません。

どうやら、原作では1948年から1972年までの25年間を描いているらしいのですが、
デイジーが72歳のときから映画が始まる。つまり、クライマックスでは90歳代後半という設定なので、
デイジーはかなり長生きしている設定だ。デイジーを演じるジェシカ・タンディがかなり若くは見えますが、
ホークとデイジーの息子が面会するラストで、ジェシカ・タンディが見せる痴呆症を感じさせる表情が実に上手い。

人種差別をテーマとして、異人種間の交流を描いた映画というのは数多くあります。
それだけ、このテーマはハリウッドでは命題の一つなのでしょう。本作のようにドラマ系の作品もあれば、
社会派サスペンスに仕上げた作品もあります。本作はそのような中でも、最初に高く評価された作品かもしれません。

テーマから言って、注目され易い作品ではあったとは思うのですが、
個人的にはアカデミー作品賞受賞作と言われると、映画の風格としても中身的にも物足りなさを感じるというのが本音。
ブルース・ベレスフォードの演出も全体的に平坦な感じで、もっと工夫があっても良かったなぁと思います。

映画の終わり方は良いし、キャストの芝居も抜群。しかし、映画に特徴が無い。
個々に良いものがあっても、それを最終的にまとめ上げるという観点から、あまり上手くいっていない印象がある。

ちなみに映画の序盤に描かれるデイジーが運転操作ミスから、軽微な事故を起こすシーンがありますが、
これは昨今、日本で話題となっている高齢者ドライバーの免許返納問題を思い起こさせられる。
これって今も昔も、社会問題の一つだったことを示していますね。デイジーのような住宅街に住んでいても、
買物などで自家用車を使う生活に慣れていれば、運転免許返納に抵抗を感じるようになっていくのでしょうね。

自分もいつかはそうなるのかもしれませんが、高齢者ドライバーによるアクセル踏み間違えなど、
いろいろとニュースになることが多いせいか、その度に免許返納については考えさせられるのですが、
いろいろな意見があって、勿論、一口に高齢者と言っても運動能力や認知機能に個人差があるのは承知の上で、
免許取得にあたって下限年齢があるのと同様に、まずは法的に上限年齢を作るべきだと僕は思いますね。

まぁ、それでも無免許で運転する人はいるのだろうけど、
法的に上限年齢を設定することで、強制的ながらも免許返納に意識が向く人は増えるでしょうしね。

本作のデイジーも、警備とは言え事故を起こして、車の運転を止めることを決断しますが、
今は家族がいくら説得しても、なかなか運転を止めない高齢者がいるということですから、
デイジーは不便さを感じつつも、随分とアッサリと運転を止めたなぁと、妙に感心させられてしまいましたね。

ひょっとすると、今後はそんな運転免許返納が映画のテーマになる日が来るかもしれませんね。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ブルース・ベレスフォード
製作 リチャード・D・ザナック
   リリ・フィニー・ザナック
原作 アルフレッド・ウーリー
脚本 アルフレッド・ウーリー
撮影 ピーター・ジェームズ
音楽 ハンス・ジマー
出演 ジェシカ・タンディ
   モーガン・フリーマン
   ダン・エイクロイド
   パティ・ルポーン
   エスター・ローレ
   ジョー・アン・ハブリラ

1989年度アカデミー作品賞 受賞
1989年度アカデミー主演男優賞(モーガン・フリーマン) ノミネート
1989年度アカデミー主演女優賞(ジェシカ・タンディ) 受賞
1989年度アカデミー助演男優賞(ダン・エイクロイド) ノミネート
1989年度アカデミー脚色賞(アルフレッド・ウーリー) 受賞
1989年度アカデミー美術賞 ノミネート
1989年度アカデミーメイクアップ賞 受賞
1989年度アカデミー編集賞 ノミネート
1989年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(ジェシカ・タンディ) 受賞
1989年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1989年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ミュージカル・コメディ部門>(モーガン・フリーマン) 受賞
1989年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ジェシカ・タンディ) 受賞