ドリームガールズ(2006年アメリカ)

Dreamgirls

02年に『シカゴ』で高く評価され、ハリウッドでも復権してきていたミュージカル映画で、
60年代から活躍する黒人女性コーラス・グループのシュープリームス≠モデルにして、
モータウン・レーベルを成功させて、世界的な人気を誇る一大勢力に成長する仲での、光と影を描きます。

これは確かに見応えのある、実に面白い作品ですね。
劇場公開当時から評価が高く、日本でもヒットしていましたけど、話題となったビヨンセだけではなく、
やはり迫力のヴォーカルを見せるジェニファー・ハドソンのインパクトが本作の中では、ピカイチですね。

本作のために書き下ろしたオリジナル楽曲が数多くありますが、
ソウルフルな曲から、ポップス寄りのR&Bが華やかなステージングに合う曲調になっており、
アレンジを変えて2回使ったり、歌詞も物語にピッタリ合う曲となっていて、あまりの出来の良さに驚きます。
本作のサントラはファンなら、マスト・バイな一枚だと思いますし、R&B好きな人であれば気に入る一枚でしょう。
(勿論、シュープリームス≠ェ好きな人にもお気に入りの一枚となることは間違いなし!でしょう)

ビル・コンドンは02年の『シカゴ』で初めてミュージカル映画に挑戦しましたが、
ホントにミュージカル・シーンの挿し込み方や、映画のテンポの作り方、ステージングの見せ方など、
とっても研究しているなぁと感じますし、しっかりと楽しませてくれる内容には仕上がっています。

ビヨンセの出演の方が話題になっていたとは思いましが、
前述したように映画賞レースではエフィを演じたジェニファー・ハドソンの前評判が高く、
おそらくビル・コンドン自身もこうなるというのは、撮りながらにして予想していたのではないでしょうか?

ジェニファー・ハドソンはかの有名なTV番組『アメリカンアイドル』でオーディションを勝ち残り、
アイドルの道が約束された女優さんですが、この番組でも歌の才能をいかんなく発揮して芸能界入りしたので、
本作のキャラクターはピッタリだったのでしょうけど、それを考慮しても、ビヨンセ以上の存在感ではありますね。

それから、本作はベテランの人気歌手ジミーをエディ・マーフィの頑張りでしょう。
たまにシリアスな芝居をこれまでもしてはいましたが、本作では持ち前の軽さと、どこかに影を感じさせるのが上手い。

ソウルフルなステージングは圧巻で、日常的なセクハラ男なので現代では淘汰されるべき存在ですが、
音楽に関しては独特な“熱さ”があるのは確かだ。歌いながらエキサイトしてしまうと、必ず卑猥な一面を見せて
観客やマネージャーをドン引きさせるのが悪いクセだが、それらも音楽以外のパフォーマンスで話題を作り、
なんとか大衆から忘れられずにレコードを売り続けなければならないプレッシャーを、感じさせる部分もある。
結果、ヘロインに依存するという70年代なら、音楽界ではありふれた話しですが、実に説得力ある芝居で良い。

エディ・マーフィはアカデミー賞と獲れずに大きく落胆したと報じられましたが、
確かにオスカーに相応しいかと聞かれると、それは微妙(笑)。ただ、彼にとっては一世一代の大熱演でしょう。
あくまで歌がメインにある映画なので、お得意の口八丁手八丁なギャグを封印させられながらも、よく頑張りました。

映画のメインとなる女性3人組のヴォーカル・グループドリームガールズ≠ヘ、
前身のドリメッツ℃梠繧ノマネージャーのカーティスに見い出されて、レコード・デビュー後は
破竹の勢いでヒットチャートを駆け上がり、全米は勿論のこと、世界的な人気グループに成長します。

映画はそんなドリームガールズ%烽ナの確執、そして彼女たちを売り出すためのビジネス戦略として、
様々なトラブルや、人間関係を犠牲にしてきた経緯を描いており、これはどこの世界でもあることかもしれません。
確かに才能豊かなシンガーも、売り出し方とタイミングを間違えると、そこまで評価されないということもあると思う。
カーティスはメッセージ性高い曲を嫌い、ヒットチャートに送り込みやすい楽曲ばかりをドリームガールズ≠フ
曲として認めるというプロデュースに出ましたが、確かに当時はそれはそれで一つの戦略ではあったのでしょう。

劇中、メンバーの母親にカーティスが「商品みたいに扱うのはやめて」と忠告されるシーンがありますが、
これは多かれ少なかれ、プロダクションから見れば彼女たちは“商品”であるという見方になるだろうと思う。
一概に、本当に物扱いするという意味ではないけど、プロデュースの仕方によって、どうとでもないのも事実だと思う。
だからこそ、会社側から見れば、彼女たちを「どう売るか?」という視点になって考えるのは、至極当然なのである。

しかし、彼女たちもスーパースターになったとは言え、人間なわけです。
当然、感情がありますし、誰しも物のように扱われたり、調子の良い時だけ使い回されるのも勘弁だろう。
そこに軋轢が生まれるわけですね。カーティスから見ると、ドリームガールズ≠ヘ金のなる木なのでしょうから。

一人、スーパースターを生み出すことができれば、次々と力のある新人が入り、
時に他に属していた有力ミュージシャンが移籍してきたりする。そうすると、会社も急成長を遂げるわけです。
カーティスは次々と“汚い”ビジネス手法で、巨額の富を得ることはできますが、周囲の信用を失っていきます。
これが事実上、ドリームガールズ≠フ栄光と没落がリンクするわけで、予想よりも早くに終焉を迎えるわけです。

この映画はそういった、ある意味で起承転結とも呼べる構成を作っており、とても分かり易い構成だ。
ソウルフルなヴォーカルの数々で、ミュージカル・シーンは実にパワフルでゴージャス。見応えたっぷりだ。
おそらく...こういう映画こそ、映画館で観ると凄まじい迫力なのでしょうね。そこは、チョットだけ後悔しています。。。

カーティスは妻であり、ドリームガールズ≠フメイン・ヴォーカルのディーナに、
映画『クレオパトラ』への出演オファーが届きます。歌手活動に留まらず新たなチャレンジに
興味を示すディーナですが、自分の手から離れたがっているように見えたカーティスとは意見が合いません。
これが結果として、2人の大きな岐路となるわけですが、これも芸能界ではよくある話しでしょうね。
(リスクを背負わない限り、大きな飛躍はありえませんが、そのリスクを被ると大変なことになりますからね・・・)

カーティスのやり方はかなり汚い。再起を期し新たなレコードを作ったエフィの再出発も、
チョット良い曲だなと思えば、すぐさま再アレンジしてディーナの曲として横取りし、エフィの再出発を妨害します。

おそらく現実世界でも、これに近い妨害工作はあるのだろうし、クリーンではないことだらけなのでしょう。
この世界も「勝てば官軍」じゃないけど、売れてしまえば何でもアリみたいなところはあるでしょうし、
一度“当たれば”、次から次へと当たっていくスパイラルに入るということもありますからねぇ。運も必要な世界です。

もっともカーティスも白人たちに黒人たちが作り上げてきた音楽を乗っ取られたという思いが強く、
いつか白人社会に立ち向かって、社会で成功してやるという想いを胸に上昇志向丸出しで生きて来たわけで、
ドリームガールズ≠フ原点というのは、R&Bの主導権を白人には渡さないという意思だったのかもしれません。

しかし、欲を言えば、この映画はキャスト全員の歌が上手過ぎることが仇になった感もあります。
映画の出来もそうですが、映画の観終わった後の印象も、やはり02年の『シカゴ』に軍配が上がると思う。
それは、いろいろと理由が付くのですが、本作の場合はキャスト全員の歌が上手過ぎて、良くも悪くも隙が無い。
力強いヴォーカルで押し切るのも良いのですが、これではミュージカルと言うより、“歌合戦”を撮った映画にも見える。

ミュージカルなのですから、踊りも勿論のこと、何よりカメラワークなのです!
残念に思えたのは、本作はミュージカル映画っぽい撮り方には見えないところ。これではまるで、ただの音楽映画だ。
もっとカメラはアクティヴに動いて、歌もそこそこに、キャストの動きを画面いっぱいに表現して欲しかったなぁ。

まぁ、これは欲を言えば...というところですので、基本的には面白いミュージカル映画です。
映画の最初はやたらと地味な雰囲気に映るビヨンセが、次第にゴージャスになっていく様子にも、要注目です。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ビル・コンドン
製作 ローレンス・マーク
原作 トム・アイン
脚本 ビル・コンドン
撮影 トビアス・シュリッスラー
編集 バージニア・カッツ
音楽 ヘンリー・クーリガー
出演 ジェイミー・フォックス
   ビヨンセ・ノウルズ
   エディ・マーフィ
   ジェニファー・ハドソン
   アニカ・ノニ・ローズ
   ダニー・グローバー
   キース・ロビンソン
   シャロン・リール
   ジョン・リスゴー

2006年度アカデミー助演男優賞(エディ・マーフィ) ノミネート
2006年度アカデミー助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度アカデミー歌曲賞 ノミネート
2006年度アカデミー美術賞 ノミネート
2006年度アカデミー衣裳デザイン賞 ノミネート
2006年度アカデミー音響賞(調整) 受賞
2006年度全米俳優組合賞助演男優賞(エディ・マーフィ) 受賞
2006年度全米俳優組合賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度ラスベガス映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度ワシントンDC映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度フェニックス映画批評家協会賞既存曲賞 受賞
2006年度セントルイス映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞助演男優賞(エディ・マーフィ) 受賞
2006年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度ノース・テキサス映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞
2006年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
2006年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(エディ・マーフィ) 受賞
2006年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ジェニファー・ハドソン) 受賞