コーリング(2002年アメリカ)

Dragonfly

面白い着想をした映画だとは思うけど、結局、それだけだったかなぁ。

以前は日本でも大人気だったハリウッド俳優ケビン・コスナーが、
南米へ赤十字活動のため赴任した、妊娠中の妻を交通事故で失った救命救急医に扮し、
妻の遺体を確認できないことに疑念を抱き、身の回りで超常現象とも思える、
“妻の声”が聞こえたことから、次第に周囲から孤立してしまう様子を描いたミステリー・ドラマ。

監督は『ライアー ライアー』のトム・シャドヤックなのですが、
たいへん申し訳ない言い方ではありますが、これは場違いな演出が全てをブチ壊している映画です。

ナンダカンダ言って、映画は最後の最後で上手く辻褄を合わせた感があって、
それなりの見応えを感じさせる仕上がりにはなっているので、「終わり良ければ、全て良し!」ってことで(笑)、
自分の中では最低の映画という位置づけではなく、それなりに価値はある映画だと思っているのですが、
逆に言えば、これはもっとキチッとした演出をしていれば、もっと素晴らしい映画になっていたはずだ。

特に主人公のジョーが、小児がん病棟を訪問していた際に
たまたま立ち会った一人の心停止した少年の治療を見ていた際に、ショック描写であるかのように、
まるでホラー映画ばりの演出で、少年の蘇生を表現するなんて、この作り手の良識を疑いたくなります。

これを観てしまったせいか、どうしてもこの後はずっと、こういうショック描写のような演出をするのではないかと、
“構えて”観てしまうがために、余計なところに自分の集中がいってしまうのが悲しいですね。

これがあるせいで、映画自体がどうしても安っぽく見えてしまうんですよね。
トム・シャドヤックがもう少し全体のバランス感覚に優れていれば、間違ってもこんなことをしないはずです。
僕はこのシーン演出を観ただけで、一気に気分が悪くなってしまったのですが、それでも最後まで観て、
このシーン演出に納得性があれば、それで許容されることはあると思うのですが、本作の場合、
最後まで観ても、ずっと何故、トム・シャドヤックがあんなドラスティックな表現をしたのか、理解できないのです。

さすがにケビン・コスナーだって、プロデューサーとしての経験もあるわけですから、
完成品でこんな演出が加わっているのを観て、悲しい気持ちになってしまったのではないでしょうか?

日本でも劇場公開された作品ではありますが、
こんな場違いな演出があれば、一気に映画が安っぽくなってしまい、日本でもウケなくなりますよねぇ。
ホントにこの映画の場合は特に、こういう場違いなシーン演出を施してしまったことが悔やまれるのです。

そのせいか、映画の後半に入っても、どうしても映画の世界観に“入り込めない”。
クライマックスにも、チョットしたサプライズがあって、映画の後味を良くしようとしているのですが、
こんなことをしても、まるで挽回できるわけがなく、どうしても冷めた気持ちで観てしまう自分がいるんですよね。

まぁ一時期、本作のような現実世界以外からのメッセージを取り扱った映画というのが、
流行したような時期がありましたが、そういった他作品と比較しても、チョット落ちる出来かなぁ。
やはりそれは、トム・シャドヤックの場違いな演出が大きく足を引っ張ってしまった感が強いからですね。
そういう意味では、違うディレクターが撮っていたら・・・と、どうしても考えたくなってしまいますね。

まぁトム・シャドヤックって、これまでコメディ映画を中心に撮ってきていて、
本作で初めてシリアスな映画に挑戦したわけで、まだまだこれからといったところですかね。

これからは、もう少し1つ1つのシーンを大切にして映画を撮って欲しいし、
本作にはそういった観点から、反省すべき材料はいっぱいあるはずです。
やはりキチッとした系譜を感じさせる演出にならなければ、映画が崩れてしまうという好例なんですよね。
これは大事な経験の一つなので、次回作からはしっかりとこういった難点を修正しなければなりません。

それでも、この映画が最低な印象にはならなかったのは、ファンタジーの見せ方は間違っていないからだろう。

特にいわゆる“お涙頂戴”には陥らず、クライマックスのサプライズをあくまで飾らずに描いたのが良い。
これは『ライアー ライアー』でもそうでしたが、トム・シャドヤックのアプローチの上手さの一つだろう。
本作でも、そういったさり気ない上手さが、見事に映画にマッチしているようで、そうなだけに惜しいんですよねぇ。

欲を言えば、主人公ジョーと仲の良い女弁護士を演じたキャシー・ベイツをもっと見たかった。
同じ年の『アバウト・シュミット』では、彼女の存在感を上手く活かせていただけに、本作でのイマイチ感が際立つ。
本来的にはもっと高い能力のある女優さんであり、特に映画の終盤で彼女が絡んでこないのが勿体ない。
まぁクライマックスに近づくにつれて、完全にケビン・コスナーの孤軍奮闘になる映画ではあるのですが、
もっと脇役キャラクターを大切にする姿勢を持っていれば、映画はもっと変わっていたでしょうね。

それはそうと、本作のような規模の大きな映画であっても、
スター性を発揮し切れないあたりが、昨今のケビン・コスナーの低迷を象徴しているようで悲しい。。。

やはり彼は95年の『ウォーターワールド』での大失敗が痛手だったのか、
21世紀に入った頃には、ハリウッドはおろか、日本でもすっかり「過去の人」扱いでしたからねぇ〜。
90年代初頭までの人気あった頃を、どことなく覚えているだけに、この低迷ぶりは悲しいんですよね。
色々とスキャンダルにも見舞われたこともありましたが、芝居に関してはかなり情熱的な俳優なので、
これから、もう一回、新たなステージでの絶頂期を築くべく、新たな魅力を持って頑張って欲しいなぁ・・・。

ひょっとしたら、この映画の不評はモラル的な側面は大きかったかもしれません。

主人公が、いくら事故死した妻と約束したとは言え、小児がん病棟に入り浸るようになる理由が、
妻からのメッセージが込められているかもしれないと、小児の臨死体験を聞くためだとか、
常軌を逸した行動・発言ととられてもおかしくはないジョーを肯定し、体制(病院)を否定的に描き、
例えば、小児がんと闘う子供を持つ親の立場からすれば、この映画の発想はイージー過ぎるように感じるかな。

アメリカも、こういったモラルや情緒的側面を重視する風潮はあるから、
こういう部分も悪く影響して、口コミの評判も芳しくなく、結果的に大赤字の映画になってしまったのかも・・・。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 トム・シャドヤック
製作 ゲイリー・バーバー
    ロジャー・バーンバウム
    マーク・ジョンソン
    トム・シャドヤック
原案 ブランドン・キャンプ
    マイク・トンプソン
脚本 デビッド・セルツァー
    ブランドン・キャンプ
    マイク・トンプソン
撮影 ディーン・セムラー
編集 ドン・ジマーマン
音楽 ジョン・デブニー
出演 ケビン・コスナー
    スザンナ・トンプソン
    キャシー・ベイツ
    ジョー・モートン
    ロン・リフキン
    ロバート・ベイリーJr
    ジェイコブ・スミス
    ジェイ・トーマス
    リサ・ベインズ