007/ドクター・ノオ(1962年イギリス)

Dr.No

今や50年以上続く、イアン・フレミングの人気スパイ小説を映画化したシリーズ第1作。

思わず、「さすがはテレンス・ヤング!」と言いたくなるようなキレ味鋭い演出で、
当時のアクション映画の水準から考えても、これだけ次から次へと見せ場が連続し、
サービス精神旺盛に映画を構成できたというのは、プロダクションの勝利でもあったのかもしれません。

実はこの映画、当時の予算としても低予算だったわけで、
映画の本編には、確かに大掛かりなアクション・シーンが多くなく、かなり苦慮した感じがある。
それを考えれば、本作でのテレンス・ヤングの奮闘ぶりは実に見事で、よく頑張ったと思います。

ちなみに当初、この映画は日本では『007は殺しの番号』という邦題で劇場公開されましたが、
後に原題に近い形である、『007/ドクター・ノオ』に改題されたようで、確かにこっちの方がシックリ来ますね。

初代ジェームズ・ボンドのショーン・コネリーのイメージは本作一発で決まったようなもんだが、
正直、最近のボンドはスマート過ぎるとお嘆きのオールドなファンは今一度、本作から見直して欲しい(笑)。

やっぱりショーン・コネリーが演じるボンドは、どこかギラギラした中年オッサンの魅力があって、
とても撮影当時、32歳だったとは思えないのだが(笑)、当時から着用していたというカツラの頭髪にも、
ベッタリとポマードか何かで固めたって感じがして、徹底して酒と女にはだらしないという弱さがある(笑)。
で、ただの一度もボンドは真に迫って女性をクドこうとしたことがなく、次から次へと目移りしまくるロクデナシ(笑)。

でも、僕は極論、このシリーズはこれでいいんだと思う(笑)。

だからこそ、ジャマイカのキングストン空港で降り立った直後、
そしてバーでも堂々と尾行されて写真を撮った若い女性を捕まえて問い詰めるも、何も白状せず、
更に毒を吹っ掛けるという暴れん坊だったにも関わらず、見逃してしまうという弱さが成り立つのです。

その代わりと言ってはナンですが、野郎がボンドに襲いかかろうものなら、
例え、相手が大学教授だろうが、相手の事情を一切考えずに、情け容赦なく殺害する。
(だって、「007」の頭二桁、“00”は殺しのライセンスを意味しているのだから・・・)

このイメージって、やっぱりテレンス・ヤングが上手く作ったものだと思うんですよね。
僕はイアン・フレミングの原作って、読んだことはないのですが、後に50年にもわたってシリーズが
継続していることを考えると、映画としての本作の価値って、凄く高いものではないかと思うんですよね。
ただ単に低予算映画を成功させたというだけでなく、ジェームズ・ボンドのキャラクターを確立したという意味でも、
本作でのテレンス・ヤングの仕事ぶりはもっと高く評価されても良かったような気がするんですけどね。

原作の舞台も米ソ冷戦真っ只中なせいか、本作にしても原爆をメインに登場させ、
世界に台頭しようとするドクター・ノオが悪役として描かれるのが、如何にもこの時代らしい。

今となっては東日本大震災に端を発して発生した、福島第一原発での大事故で
原子力エネルギーの危険性を改めて認識させられましたが、この映画の時点でジェームズ・ボンドが
原子力エネルギーを安全に管理しているかとドクター・ノオに質問するシーンがあるのが印象的ですね。
やはり、原子炉の安全管理というのは、米ソ冷戦の時代からとても重要な要素であったはずなんですよね。
そうなだけに日本の原発の多くが、設置にあたって、そういった調査が不十分であったという現実が残念ですね。

それにしても、何度観ても、タイトルバックがカッコ良いですね。
モーリス・ビンダーの有名な仕事なのですが、実に鮮やかなデザインで最高にカッコ良いですね。
この後、幾つかのヴァージョンが登場しましたが、やはりこの初代ヴァージョンが抜群にカッコ良い。

ちなみに映画の冒頭で、ボンドが上司からベレッタの銃を持っていることを注意されて、
ワルサーに替えるように強制され、ボンドは頑なにベレッタを持って帰ろうとする、こだわりが面白い。
(要するに、諜報局本体はドイツ派でボンドはイタリア派だったということか?)

大学教授が毒グモを忍び込ませボンドを殺害しようとするのですが、
このシーンでボンドが体にクモが這っていることに気づいて、僅かな時間で汗びっしょりになるのも印象的だ。
これは前述した本作でのショーン・コネリーが強烈にダンディズムを強調したイメージ作りの一貫なんですね。

この映画はSF的な要素がある内容になっているのですが、
特にドクター・ノオの島にボンドらが上陸してからの描写が、あまりにチープで時代を感じさせられますね。

“ドラゴン”がいると噂される化け物のような乗り物である、
火を噴く戦車の存在に始まり、ドクター・ノオの島に上陸してボンドらが被爆したことから、
身体に付着した放射能を除去する作業なんかも、まるでB級映画丸出しな描写で、作り手も苦労したのでしょうね。

ちなみにドクター・ノオは中国人という設定なのですが、
演じるジョセフ・ワイズマンは実はカナダ人で、残念ながら09年に91歳で他界されました。
確かに風貌的に中国系の顔にも見えなくないのですが、少し無理のある設定だったかもしれませんね。
とは言え、ドクター・ノオはどうやら海底付近に秘密基地を建てていたらしく、ボンドらが捕えられて、
ドクター・ノオの秘密基地の奥まで連れ込まれるシーンなんかは、僕は面白かったですね。
どうせなら、この秘密基地の描写に関しては、もっと細かく描いても良かったのではないかと思いましたけどね。

しかし、ドクター・ノオを演じたジョセフ・ワイズマンにとっては、
おそらく本作での仕事が彼にとって一番大きな仕事であったことは間違いなく、そういう意味で価値はありますね。

確かに第2作以降の予算が増大した作品とは違う雰囲気のある映画ではありますが、
記念すべきシリーズ第1作として、愛すべき作品であることに変わりはありません。
ひょっとしたらテレンス・ヤングがこの作品で頑張ったからこそ、映画シリーズとして成功したのかもしれません。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 テレンス・ヤング
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
    バークレイ・マーサー
    ジョアンナ・ハーウッド
    テレンス・ヤング
撮影 テッド・ムーア
音楽 モンティ・ノーマン
    ジョン・バリー
出演 ショーン・コネリー
    ウルスラ・アンドレス
    ジョセフ・ワイズマン
    バーナード・リー
    ピーター・バートン
    ロイス・マクスウェル
    ジャック・ロード
    アンソニー・ドーソン