白銀のレーサー(1969年アメリカ)

Downhill Racer

既に1972年に札幌で行われた冬季オリンピックの開催が決定していたので、
本作のようなウインター・スポーツに対する注目度というのは、日本でも高まっていたのではないだろうか。

まだハリウッドでもブレイクして間もなかったロバート・レッドフォードにジーン・ハックマンという、
今思えば贅沢なキャスティングを施した、アルペンスキーに賭けるアスリートとコーチの姿を描いたスポーツ映画。
監督は後にコメディ映画を数多く手がけたマイケル・リッチーですが、本作が監督デビュー作になります。

手ブレさせないハンディ・カメラを駆使して、大迫力の滑降の映像は今となってはアナログな映像表現ですが、
今観ても迫力満点の素晴らしい出来で、これは名カメラの映画と言ってもいいほど、僕は歴史的価値があると思う。

映画はオリンピックの代表選出を兼ねた、アメリカのアルペンスキーのチームを軸に、
そこに加わった若手スキーヤーのデビッドを主人公にして、チームで獲得点数を競いながらも、
チームメンバーがライバルでもある現実を前に、デビッドの強い上昇志向が他のメンバーとの軋轢を生み、
チームのコーチを含めた人間関係に悩み、更にスポンサー企業の美しい女性との恋愛も相まって、
精神的に難しい状況となりながらも苦境を克服し、金メダルを狙えるタイムを叩き出すまでになる姿を描きます。

相変わらずの甘いマスクのロバート・レッドフォードですが、どことなく性格に難があって、
周囲に素直になり切れず、ひとクセもふたクセもあるような若者に見えてしまうという、複雑なキャラクターを演じている。

ストーリー的には少々中途半端なところがある映画でして、ここは賛否が分かれるだろう。
主人公のデビッドもそうなのですが、ジーン・ハックマン演じるコーチもドシッと構えた感じなのは良いけど、
あまり深掘りされるようなこともなく、感情的な対立があるわけでもなく、どことなく悪い意味で中途半端に映る。

そういう細かい部分は一切無視していけば、単純にスポーツ映画としては実に優れていると思う。

僕も大学生の頃からスキーを全くやっていないので、以前のように滑れるかは分からないけど、
小学生のときに怪我したことがある以外はスキーは好きで、大学の頃はファンスキーも楽しかったので、
今でもやりたい気持ちはあるのだけど、あの滑走時の臨場感などは本作は上手く画面に吹き込めている。
これは撮影スタッフの並々ならぬ現場での苦労の賜物と言ってもいいくらいで、他の映画にはなかなか無いものだ。

これが出来ただけでも本作は価値があったとは思うのですが、
個人的にはマイケル・リッチーはこの路線で行けば良かったのになぁ・・・とさえ思ってしまう。
そもそもハリウッドでも、スキーをメインに描いた映画って、数多くはないので着眼点そのものも良かったですね。

当時は、スキーをメインにした記録映画みたいなものも、今でも映像資料として数多く残っていると思うのですが、
その中でも本作は十分に匹敵するものであって、今のアルペンスキーとはまた違ったスタイルで実に興味深い。

感覚的に、ゲレンデの雪が凍っている部分多くなって、かなりスピードが出る感覚を
映像だけではなく音からも表現しているのは印象的だ。雪がフカフカでもスピードが乗らずに困ると思うけど、
あれだけ薄い雪で多くのアスリートが滑った後で固められて、表面が凍った斜面を猛スピードで滑るのは、
とても怖いことだと思う。転倒して頭は勿論のこと、全身を斜面に打ち付けたら、命に関わる事態になりますしね。

それと同時に、やっぱり滑降って危険なスポーツだと、あらためて再認識させられる恐ろしさもある。
実際に過去何度か滑降は、競技中にアスリートが命を落としているスポーツであって、危険と隣り合わせだ。
とてつもないスピードを出して、一気に下るので、体への負担も半端なものではないだろうし、なんせタイムを競う
スポーツなので、精神的なプレッシャーや“追われる”ような感覚は強く、フィジカルもメンタルも高負荷な競技だと思う。

僕だけがそう思っているのかもしれませんが...アルペンスキーは最近、斜陽な気がしていて、
どちらかと言えば、かつてのXゲームのような要素のある競技の方が、注目度が高くなっているような気がします。
単純にスピードやタイムを競うだけではなく、ワザを織り交ぜた競技の方が今は花形競技なのでしょうね。

思い出されるのは、長野オリンピックでモーグルが一気に注目を浴びたことで、
最近ではスノーボードのハーフパイプなど、派手なワザを伴う方が見ていても盛り上がる感じがしますからね。

まぁ・・・もう少し中身を作り込めたら、映画の印象はもっと良くなったのでしょうが、
やはり本作はハンディ・カメラで強烈なスピード感を表現することに注力した作品という位置づけですね。
そう思うと、かなり先駆的な作品だったように思います。競技者の目線で撮ったスポーツ映画は、まだ珍しかったので。

やはりデビッドの恋愛に関する描写は、あまりに粗雑な感じで魅力に欠けますね。
束の間の休日に実家に戻って、かつての恋人と刹那的に愛し合うものの、まるで満たされることなく、
この女の子の話しもデビッドは上の空で聞いていない。スイスでスポンサー企業が連れてきた女性に惹かれ、
ホテルの部屋に招かれて愛し合うものの、次第にこの女性が仕事のためにデビッドと過ごしていることに気付き、
腹を立てたデビッドは彼女が必死に弁解するものの、車のクラクションを鳴らしまくって、結局、彼女は離れていく。

このデビッドの恋愛が、彼の競技人生にどんな影響を与えていたのかが分からないのが致命的だ。
オリンピックに出場するために上昇志向強く生きてきたデビッドですが、ある意味で人生を賭けていたわけで、
人生を共にする女性の存在も求めていたはずで、精神のバランスを保つことには間違いなく影響していたはずだ。

なので、本来であれば映画の軸としてデビッドの恋愛描写にも力点を置くべきだったと思うのですが、
残念ながらこの映画はスキー・シーン以外はてんでダメですね。悪い意味で、アッサリと描き過ぎましたね。
まぁ・・・この辺はマイケル・リッチーらしいところですが、もう少しドラマ描写にも力を入れて欲しいところでした。

マイケル・リッチーは72年の『候補者ビル・マッケイ』でロバート・レッドフォードを起用し、
同年に撮ったアクション・スリラーの『ブラック・エース』ではジーン・ハックマンを再び起用しているところを見ると、
本作での仕事がキッカケで再び仕事を一緒にしたのでしょうね。確かに2人とも、本作でも光るものはあります。
(とは言え...前述したようにコーチ役のジーン・ハックマンは、なんだか中途半端な扱いなのだが・・・)

劇中、少しだけ描かれていますが、アルペンスキーがアメリカでは注目度が低い競技のせいか、
既存のスポンサー企業だけでは資金が足りず、遠征などもままならず、コーチ自ら集金を募るシーンがあります。

日本でも注目度の低いスポーツで、国内にプロリーグを作ったりしてしまうと同じようなことが起きてます。
それだけではなく、例えば野球などでも地方に独立リーグが幾つも出来たはいいものの、リーグ自体の経営が危うく、
コミッショナー自らのトップ・セールスでPRしても、リーグの存続危機が訪れたりしていることが報道されています。

競技人口が減り、斜陽となった競技では尚更のことだろう。今はこういうものが淘汰されゆく、
言わば過渡期なのかもしれません。アルペンスキーも今まさに、岐路に立たされている競技なのかもしれません。

しかし、オリンピックへの出場を目指すデビッドは「オリンピック後の収入が良い」と語っていましたが、
これは今や昔の話しなのかもしれません。勿論、競技数も増えて、オリンピックに替わる場も増えてきたことから、
徐々にオリンピックのプレゼンスは下がってきている気がします。いざ開催されれば見て、それなりに盛り上がるけど、
4年に1回は見なきゃというほどでは、自分の中ではないかな。実際、オリンピックを誘致する動きは敬遠され、
IOCが誘致活動を“営業”するようなことをしているらしく、国際的にも「そんな余裕はない」というのが本音だろう。

こういうさり気ない台詞にも、時の流れを感じさせられる作品ではありますね。
そのうち、オリンピック招致に関わる裏エピソードが映画化されるなんてこともあるかもしれませんね。
そうなると、既にスポーツをモデルにした映画ではなくなっているのですが、直近の東京オリンピックでも話題に
なったように、スポーツの祭典とは言え、最近のオリンピックは“金の問題”がクローズアップされますからね。

なんか、この映画を観ていたら、久しぶりにスキーをやりたくなりましたねぇ〜。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マイケル・リッチー
製作 リチャード・グレグソン
原作 オークレイ・ホール
脚本 ジェームズ・ソルター
撮影 ブライアン・プロビン
編集 リチャード・ハリス
音楽 ケニヨン・ホプキンス
出演 ロバート・レッドフォード
   ジーン・ハックマン
   カミラ・スパーブ
   カール・ミヒャエル・フォーグラー
   ダブニー・コールマン
   ジム・マクマラン
   キャスリン・クローリー