ドミノ(2005年アメリカ・フランス合作)

Domino

ハリウッド俳優ローレンス・ハーベイの娘で、
非行の末に、マスコミに注目される賞金稼ぎに転じたドミノ・ハーベイの生きざまを、
スタイリッシュな映像で『トップガン』のトニー・スコットが綴った、スピード感満点のアクション映画。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでヒロインを演じたキーラ・ナイトレイが
随分と過激な芝居を要求される役柄にチャレンジしており、また新たな境地を開拓しています。

但し、たいへん申し訳ないのですが...
最近のトニー・スコットの監督作って、だいたいこんな感じになってしまうのですが...
相変わらずトニー・スコットがこの映画を通して、何が描きたかったのか、よく分かりませんでしたね。

これは映画をオモチャにしていると揶揄されても、仕方ないと思いますよ。

さすがに僕も、ストーリーそのものも分かりにくいと感じたし、
それらが本作にとって、どうしても必要不可欠な描き方だったとは思えないのは、ハッキリ言って致命的だ。

もうトニー・スコットは普通に映画を撮れないのかもしれませんね。
かつて『トップガン』や『ビバリーヒルズ・コップ2』など、エキサイティングなアクション映画を撮っていた時代が
懐かしいなぁと思わせるぐらい、映画の方向性を見失ってしまったような感じで、これは残念でなりません。

映画の尺も不必要に長く感じられて、
ビジュアル派を気取ったかのような、目まぐるしいカット割りが連続し、
表面的にはスタイリッシュな映像構成をしているのですが、中身が伴っていない。
アクション・シーンにしても連続性が無くって、全てが単発的で映画が一向に盛り上がらない。

勿論、本作なんかは同じトニー・スコットの監督作として、
93年の『トゥルー・ロマンス』なんかのことを考えると、当然の流れなんだろうけど、
なまじ、『トゥルー・ロマンス』が高く評価されるものだから、完全に映画の方向性が狂ってしまいましたね。
言葉悪く言えば、こうなってしまってはトニー・スコットの自己満足みたく見えてしまうんですよね。

ちなみに実在のドミノ・ハーベイは1969年生まれで、15歳のときからモデルとして働き始めて、
20歳のときにビバリーヒルズに移住して、バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)の職に就きます。

しかしながらモデル時代から常用していたドラッグの影響で、
自身をモデルにした本作が劇場公開されることが決定していた05年6月、
自宅の浴室でドラッグのオーバードーズが原因で死亡してしまうという、悲劇に見舞われてしまいます。

まぁドミノは父親であるローレンス・ハーベイとが4歳のときに胃癌で他界しており、
母親の手だけで育てられたのですが、おそらく無意識的に父性を求めていたのでしょうね。
だからこそ荒々しい性格が形成され、ミッキー・ローク演じるエドのような父親の年に近いような男を慕い、
バウンティ・ハンターの職に就こうと決断できたのでしょうが、そんな心も満たされることはありません。

豪華キャストを擁した作品ではありますが、
『トゥルー・ロマンス』を想起させるような役柄でクリストファー・ウォーケンが登場してくるのも嬉しいし、
シンガソング・ライターのトム・ウェイツも謎めいた救世主として登場してくるのも、実に美味しい役どころ(笑)。

これはトニー・スコットの人脈なのでしょうが、
やはりそんな土台を活かし切れないジレンマが、この映画全体を支配してしまっている感じですね。

まぁコシップではありますが...
生前のドミノ・ハーベイは製作途中、この映画の方向性に納得していなかったと報じられており、
完成版を視聴して納得していたとされておりますが、彼女が当初、映画化に同意したときに
彼女が考えていた映画の方向性とも、まるで違う方向だったのではないかと思えてなりません。

一応、映画の最後では彼女が救った命もあるというニュアンスで
映画が締めくくられてはおりますが、これは全然、訴求しないラストになっていますもの。
それを考えれば、ただ目まぐるしく展開する映像に観客が圧倒されるという趣向に、
ホントにドミノ自身が心から納得していたのか、この映画を観る限り、疑問に思えてなりませんね。

まぁほとんどはフィクションらしいですから、
納得も何も無かったのかもしれませんが、これではホントに伝えたいことが
観客の心に伝わらないことは、ドミノにも感覚的には分かっていたのではないかと思います。

映像にはメリハリが付いているのに、話しの運びが悪いのもマイナスですね。
個人的にはフラッシュ・バック形式を採る必要もなかったと思うし、もっと順序良く整理して欲しかったですね。
複数のエピソードを同時進行させるわけですから、もっと要領良く描かなければ、映画は面白くなりません。

僕が映画を観始めた頃は、トニー・スコットって、もっと面白い存在のディレクターだったんだけどなぁ。。。

当時、既に実兄のリドリー・スコットは完成された映像作家だったし、
『1492 コロンブス』など迷走していた時代だったので、よりトニー・スコットの方が面白い存在だったんです。
しかし、リドリー・スコットが『グラディエーター』あたりから息を吹き返し、代わりにトニー・スコットが
スタイリッシュな映像に凝り始めて、結果として迷走している状態が15年近く続いています。。。

もっとシンプルな映画に回帰して、何とかして持ち直して欲しいですね。

(上映時間127分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[R−15]

監督 トニー・スコット
製作 サミュエル・ハディダ
    リドリー・スコット
    トニー・スコット
原案 リチャード・ケリー
    スティーブ・バランシック
脚本 リチャード・ケリー
撮影 ダニエル・ミンデル
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 キーラ・ナイトレイ
    ミッキー・ローク
    エドガー・ラミレス
    リズワン・アバシ
    クリストファー・ウォーケン
    ルーシー・リュー
    ミーナ・スバーリ
    テルロイ・リンド
    ジャクリーン・ビセット
    トム・ウェイツ
    アイアン・ジーリング
    ブライアン・オースティン・グリーン
    メイシー・グレイ
    ジェリー・スプリンガー