ドメスティック・フィアー(2001年アメリカ)

Domestic Disturbance

一番最初にこの映画を観た時の正直な感想って...

「えっ? これだけ!?」って感じでした(笑)。

まぁ良く解釈すれば、一切の無駄も許さなかった“タイム・イズ・マネー”みたいな映画で、
確かにこれだけで十分に観客に伝わる、文字通り「重点主義」な作品ではある(笑)。
が、欲を言えば...もう少し、装飾しても良かったのではないでしょうかねぇ。さすがにこれでは寂しい。。。

監督は『マーキュリー・ライジング』のハロルド・ベッカーで、
もうハロルド・ベッカーはこういうサスペンス映画しか撮れないのかなぁ?

古くは81年の『タップス』とか、80年代は青春映画を中心に活動していたのですが、
89年の『シー・オブ・ラブ』のヒットを皮切りに、90年代以降はサスペンス映画に畑を移したようで、
本作を最後に創作活動から、高齢なためか、もう10年以上遠ざかってしまっています。
さすがにもう80歳を超えてしまいましたから、もう新作は撮れないのかもしれませんが、
2012年現在、まだ存命でいらっしゃるようで、50歳を過ぎてから映画界で評価されるようになった、
言わば遅咲きの存在なので、もう一本ぐらいは彼の監督作を観たかったという気持ちはありますけどね。

『マーキュリー・ライジング』では珍しく激しいアクション・シーンを取り入れましたが、
さすがに違和感が拭い切れなかったせいか、本作のクライマックスでの対決なんかも、ひじょうにアッサリ。

映画の作りは、ひじょうに単純明快で離婚して、養育権を手放した息子が
元妻の結婚相手、つまりは義父の正体を知って、脅されているのではないかと疑い、
調べを進めていくうちに、義父がトンデモない過去を持っていることに気づき、なんとか息子と元妻を
守ろうと立ち上がる姿を描いたサスペンス・スリラーで、ある意味では基本に忠実な映画です。

サスペンスの盛り上げ方も、雰囲気作り重視で、影などの使い方もまずまず。
決して突飛な発想には飛びつかず、ひじょうに堅実に映画を作った姿勢は好印象ですね。

実はトンデモない過去のあるサイコな義父を演じたヴィンス・ヴォーンは好演で、
この出来はおそらく98年に『サイコ』でノーマン・ベイツを演じたのが役立ったのだろう(笑)。
この頃は「10年後は、もっと凄い役者になっているだろうなぁ〜」と思っていただけに、伸び悩みましたねぇ。

映画の最初から義父の正体を匂わせながら映画を進めていくので、
ドンデン返しを見せる映画ではないので、ストレートに勝負してくるサスペンス映画なのですが、
もう少し全体的に陰湿な感じと、しつこさが必要だったかもしれませんね。クライマックスもアッサリ終わり、
映画自体もひじょうにアッサリ終わってしまうものですから、なんだか物足りなさが残ることは否めません。

これは上映時間の短さだけではなく、内容の膨らませ方が足りないことに起因すると思うんですよね。
ありふれた題材ですが、映画の前半は結構良く出来ていて、父と子の信頼関係や主人公と元妻の関係を
良く描けていて悪くない出来なだけに、映画がクライマックスに近づくにつれて、トーンダウンしてしまう。

あと、現実的に考えてしまって悪いけど・・・
テリー・ポロ演じる主人公の元妻のキャラクターをもっと共感的な存在として描いて欲しかったですね。

そりゃ過去のことは描いていないですから、
主人公が何をして離婚に至ったのか、観客にはよく分からない作りにはなっているのですが、
12歳という多感な年頃の息子がいながらも、再婚しようとするわけで、これはそうとうに難しい決断。
当然、そうとうな覚悟をもって息子と接していかなければならないのに、息子と対話的な関係ではなく、
オマケに結婚したらすぐに妊娠が発覚するわけなのですから、チョット軽率としか言いようがない。
これはそうとうな反発を招くことは明白なのですが、この母親からそんな覚悟は感じられません。

さすがにこれでは観客から共感は得られないと思いますね。まぁワザと、そうしたのかもしれませんが...。

オマケに警察に息子が告白した内容も、端から否定する態度を見せるし、
反抗期を迎えている息子の面倒を見る素養があるとは言い難いような気がしますねぇ。
どうやら主人公は酒で失敗したようなことが語られていますが、ここまで母親を共感性なく描いてしまうと、
観客が映画の最初から、変な先入観を持って映画を観てしまうので、フェアには見えないんですよね。

僕はそれならば、母親を“真実を何も知らない優しい母親”として描いた方が良かったと思いますね。
本作を観る限り、映画で描かれた彼女は“息子を顧みず、ただ早く再婚したい女性”というイメージなんですね。
(子供がいないなら、別にそれでも共感は得られるとは思うけど...)

ちなみに主人公の息子を演じたマット・オリアリーも良い芝居しています。
同じハロルド・ベッカーの作品としては、『マーキュリー・ライジング』に続き、2本連続で子役が好演してますね。
ひょっとすると、ハロルド・ベッカーって子役の魅力を引き出す能力には長けているのかもしれませんね。

しかし、どうでもいい話しではありますが...
ヴィンス・ヴォーン演じる義父があまりにお粗末に正体を明らかにしてしまうので情けない・・・。

母親にバレるのを恐れずに、堂々と息子の部屋に入って、警戒することなく脅しに来るし、
クライマックスのボートハウスでの凶行も証拠を残しまくって犯行を重ねるし、かなりずさんだ。
どうせなら、もっと強い男であった方が“倒し甲斐”のある悪役キャラクターになったのに・・・。

(上映時間89分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ハロルド・ベッカー
製作 ハロルド・ベッカー
    ドナルド・デ・ライン
    ジョナサン・D・クレイン
原案 ルイス・コリック
    ウィリアム・S・コマナー
    ゲイリー・ドラッカー
脚本 ルイス・コリック
撮影 マイケル・セレシン
編集 ピーター・ホーネス
音楽 マーク・マンシーナ
出演 ジョン・トラボルタ
    ヴィンス・ヴォーン
    テリー・ポロ
    マット・オリアリー
    スティーブ・ブシェミ
    クリス・エリス
    ニック・ローレン

2001年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ジョン・トラボルタ) ノミネート