ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密(2002年アメリカ)

Divine Secrets Of The YA − YA Sisterhood

豪華女優陣の共演で綴る、親子の愛と葛藤の思い出を描いたヒューマン・ドラマ。
『テルマ&ルイーズ』の脚本などで評価され、ノンフィクション作家としても活躍する女流監督のカーリー・クォーリ。

さすがに主人公シッダを演じたサンドラ・ブロックをはじめとして、
彼女の母親ヴィヴィの老年期にエレン・バースティン、若き日にアシュレー・ジャッド、
そんなヴィヴィの仲間である“ヤァヤァズ”にフィオヌラ・フラナガン、マギー・スミス、シャーリー・ナイトと、
実力派女優が勢揃いした豪華さで、彼女たちの芝居だけでも十分な見応えのある作品に仕上がっている。

これまで、あまりそう思ったことはありませんでしたが、
エレン・バースティンとアシュレー・ジャッドは、こうして対照して観ると結構似ているんですね。
このキャスティングは大正解だったと思います。それなりに似せたメイクになるように工夫もしたんでしょうけどね。

まぁ、この映画で描かれるヴィヴィはツラい過去を経験してアルコール依存症になって、
心が荒んだまま子育てにあたり、子供たちにツラい想いをさせてしまったという様子を描いていますが、
これは確かに褒められたことがではない。ただ、人間とは不完全なものであり、病いは突然訪れることもある。
子供が犠牲になる構図は決して肯定できないけど、ヴィヴィのことを一概に否定的に観ることもできないなぁと思った。

この映画で描かれる時代性を考慮すると、ここまで寛容な男性はいなかったような気がするんだけど、
シッダの優しい父親を演じたジェームズ・ガーナーも良い存在感だ。映画の終盤にある、ヴィヴィと自室で話すシーンは
なかなかグッと来るものがあった。ヴィヴィもかなり好戦的な態度になったりしていたので、大変な家庭環境に
あったと思うのですが、ここまで寛容的にヴィヴィを見ていられるなんて、凄まじく心が広くないといけませんね。

個人的にはシッタと父の関係はもっと掘り下げて欲しかったなぁ。
シッダとヴィヴィの微妙な関係や思いを支え続けたのは、他ならぬ父親の存在であったのだろうから。
この辺は本作が、そこそこ良い映画というレヴェルを脱することができなかった理由になっていると思います。

映画で描かれる“秘密”とは正直言って、大した“秘密”ではありませんが、
それでもヴィヴィ本人にしたら、極めてパーソナルなことで子供であっても、言いたくはないことというのは理解できる。

とは言え、シッダとヴィヴィという親子関係の中で、シッダが母親のことを誤解したままでは良くないと思い、
ヴィヴィの旧友である“ヤァヤァズ”がなんとかしようとするという展開が、日本流で言うと少々おせっかいに見える
ところがないわけでもないのですが、そういったことも飲み込んでしまう懐の深さがあるのは、アメリカっぽいと思った。

なかなか、こういう芸当は日本を舞台にした物語で成立させるのは難しいだろうなぁと思いましたね。

そもそも日本だと、幼馴染が老いても尚、交流があるということ自体が稀だし、
しかも“ヤァヤァズ”のような儀式を伴ったことをやるとなると、どちらかと言えば郷土史を描いたような内容になって
映画の雰囲気が暗くなる傾向があるし、本作のような明るさが失われるアプローチになりがちのように思う。

ベッド・ミドラーが製作総指揮で参加しているように、ベッド・ミドラーのようなパワフルな女性が
明るく楽しく突っ切るという勢いが必要で、そういう勢いはアメリカ南部の空気感にピッタリなのかもしれません。

劇中、少しだけ描かれていますが、アメリカ南部の家庭を舞台にした映画なだけあって、
黒人に対する根深い人種差別が蔓延っていて、ヴィヴィの家庭環境にも黒人のメイドやお手伝いさんがいて、
親戚にも幼少期から人種偏見丸出しで公言するような人がいたエピソードも描かれており、地域性を象徴している。
映画のテーマは人種差別を問題提起することがメインではなかったので、軽くしか触れられていませんが、
こういった家庭が当たり前となってしまうと、人種差別は継承されていくのでしょうね。特に南部は酷かったようです。

ヴィヴィからすると、黒人のメイドがいることは当たり前の家庭環境だったのでしょうが、
そんなメイドが引っ越しに涙するというエピソードで、幼い頃のヴィヴィが寄り添うというのは、少々出来過ぎに見えた。
個人的に、これが出来過ぎなエピソードに見えないように、もっと心の交流を重ねていたように描いて欲しかったなぁ。

そんなヴィヴィにも戦争の荒波が押し寄せ、愛する人を失うという悲劇を経験します。
そんな中で寛大な男性と結婚し、子どもが誕生して幸せな家庭を築いたように見えましたが、一筋縄にはいきません。
彼女を襲った“反動”は大きく、子育てでもイライラすることが多くなり、夫ともどこかギクシャクしてしまいます。
そうなるとシッダにもキツくあたってしまい、挙句、アルコール依存症となって薬を服用し、家出をしてしまうことも。

このような過程で犠牲となるのは子供なので、どのような理由があっても家庭の不和は肯定できない。
ただ、親とは言っても、完璧な人間などいない。多かれ少なかれ、親としての“壁”にぶつかり、間違うこともあるでしょう。

映画は大人になり、自らの結婚を目の前にしたシッダが雑誌記者に
母親であるヴィヴィのことを話したことを契機に動き始めるのですが、映画の冒頭からシッダはヴィヴィのことを
軽蔑していたわけではないし、親子関係が断絶していたわけではない。シッダなりにヴィヴィのことを愛していたはず。
それはヴィヴィの気難しさや、アルコール依存の問題はあったものの、シッダとヴィヴィの心はつながっていたからだ。

映画の冒頭でも、ヴィヴィが出し惜しみすることなく幼い頃のシッダに愛情表現していた描写があるし、
不思議なことにお互いに心のどこかで通じ合える“何か”があると感じ取っていたかのようなニュアンスがある。
これはシッダに「溺れたフリをして」と伝え、ヴィヴィが海へ飛び込んで助けに行くシーンに象徴されていると思う。

カーリ・クォーリはこういったエピソードをユーモラスに描いており、不思議な雰囲気に包まれた作品に仕上げている。
前述したようにキャスティングの成功でもあるが、僕は本作のカーリ・クォーリの演出自体も悪いものではないと思う。
この仕上がり具合を観る限りでは、「もっと映画を積極的に撮ればいいのに・・・」と思える出来ではないかと思います。

確かに本作は女性の視点で描いた作品であり、男性には分かりづらい空気感があるかもしれません。
でも僕は、本作が完全なる女性向け映画だとは思わない。父親と息子という間には無い、母と娘の独特な関係性を
描いたものと言っても過言ではなく、むしろ男性視点から言っても、新鮮に映る部分も多いのではないかと思います。

この頃のアシュレー・ジャッドは日本でも人気女優さんの一人で、知名度も高かっただけに、
僕は00年代後半に入っても、ハリウッドのトップ女優として走り続けるのかと期待していたのですが、
本作以降はすっかり低迷期に入ってしまったようで、映画女優としてのキャリアが失速してしまって残念だったなぁ。
まぁ、私生活で2001年に結婚したということもあったとは思うので、家庭との両立は難しかったのかもしれません。

本作なんかは若かりし頃のヴィヴィを演じるには、正にうってつけの配役だったなぁと思うし、
彼女自身も上手く演じていると思います。アルコール依存症に苦しむ姿なども、難なく演じ切っているのは感心する。

往々にして、人間とは身勝手な部分があって、自分に都合良く解釈する部分が多かれ少なかれある。
矛盾ゼロという人も希少なもので、その矛盾の中で社会を形成しているのでしょう。矛盾が多過ぎる人は困りますが。
そんな中でも時にケンカし、時に笑い合いながら、温かくヴィヴィとシッダの仲を“ヤァヤァズ”が人肌脱ぐという展開は
なんともウェルメイドな展開だ。どこか大らかな空気が漂うあたりは、アメリカ南部独特な空気を反映しているし。

これは世代交代を描いた映画でもあると思う。結婚というのは、子供にとっても親にとって大きな出来事だ。
やっぱり長い人生でも、次のステップへ進むという感じだからだろう。親のことを誤解したままで次のステップへ
進んでしまうということを見かねて、“ヤァヤァズ”は立ち上がったというわけで、重要な局面ということなのだろう。

シッダも自身の結婚を機に、ヴィヴィのことを知るわけで、彼女にとっても良い機会だったのかもしれない。
(“ヤァヤァズ”がシッダを捕らえる方法はあまりに強引で、道義的に賛否はあるかと思いますが・・・)

いろいろな親子関係がありますし、綺麗事で語れない親子関係もあるでしょうが、
こういう映画を観ると、やっぱり親の有難みを実感すると思う。自分もそういう親であれば、いいですけどね。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 カーリー・クォーリ
製作 ボビー・ブラッカイマー
   ハント・ロウリー
原作 レベッカ・ウェルズ
脚本 カーリー・クォーリ
撮影 ジョン・ベイリー
編集 アンドリュー・マーカス
音楽 デビッド・マンスフィールド
出演 サンドラ・ブロック
   エレン・バースティン
   アシュレー・ジャッド
   ジェームズ・ガーナー
   フィオヌラ・フラナガン
   マギー・スミス
   シャーリー・ナイト
   アンガス・マクファーデン
   チェリー・ジョーンズ
   ジャクリーン・マッケンジー
   ケイティ・セルバーストーン
   キルスティン・ウォーレン
   デビッド・リー・スミス
   ジーナ・マッキー