ダーティハリー(1971年アメリカ)

Dirty Harry

今や伝説的な刑事映画となりましたが、
70年代の空気を見事に活写した映画として、十分に評価に値する作品だと思いますね。

当初は西部劇スターとしてハリウッドに“逆輸入”されたイーストウッドですが、
本作の世界的なヒットによって、現代劇の俳優というイメージも決定付けたマスターピースだ。

この映画のヒットによって、ハリウッドでは刑事映画ブームが巻き起こりましたが、
僕は同年の『フレンチ・コネクション』に強く感銘を受け、映画を観あさるようになりましたが、
正直言って、本作からは『フレンチ・コネクション』ほど強い感銘を受けなかったのが本音かな。

それは何処にあるかと言うと、映画のラストシーンのあり方だろう。

映画のクライマックスでそれまで我流の捜査手法をとってきたハリーが、刑事バッジを投げてしまいます。
このシーンは様々な議論を呼んでいますが、僕はやはり正義の限界を悟ったシーンだと思う。
ハリー自身、あのような事件の結末を迎えた以上、命令系統にも逆らって行動したわけで、
彼は社会的な制裁を受けることが目に見えている。しかし、少なくともハリーは自分の信念を貫いたのです。
その信念を否定されることを意味する、処分が下される前に、彼は刑事の職を自ら辞するわけです。

まぁこの僕の解釈が正しいかどうかはともかく、
僕はこういったカリスマが登場する映画であるからには、最後の最後まで強い映画であって欲しいと思う。

正直言って、ハリーが自ら刑事の職を辞して、自らの正義を捨てる姿は観たくないですね。
自分の正義や信念を貫いた上での結果なわけですから、ハリーには堂々としていて欲しかったですね。
ある意味では、自らの正義を妄信する、狂気的な側面があった方が映画が強くなったでしょうね。

少なくとも僕には、
この映画の主人公ハリーには『フレンチ・コネクション』のドイルほどの強さは感じられない。
その強さは勿論、肉体的ではなく、精神的な意味としてです。
この違いは何処に起因するかというと、僕は間違いなくディレクターの差だと思う。

別に本作のドン・シーゲルが悪い仕事をしたなんて思わないけど、
そういう意味では『フレンチ・コネクション』のウィリアム・フリードキンの方が一枚上手だったということ。

まぁ娯楽映画としては優れていると思いますから、映画としては良く出来ていると思いますけどね。
まず、ラロ・シフリンの音楽も無性にカッコ良いのが、オープニング・シーンから光りますね。
映画の冒頭のビッグバンド・ジャズっぽいスコアから、「あぁ〜あぁ〜」とシンセサイザーが聞こえる、
やたらとカッコ良いテーマまで、映画のサスペンス性を盛り上げるのに大きく貢献していますね。

それだけでなく、ブルース・サーティースのカメラが活き活きとしていて実に良いですね。
この辺は映像作家としてのドン・シーゲルの手腕が光りますね。

それからこの映画の特筆すべきところは、
アンディ・ロビンソン演じる“サソリ座の男”の徹底した描写で、凄まじいまでの屈折感を感じさせる点だろう。
当時としても、おそらく本作は娯楽性の高い作品として紹介されただろうと推察されるのですが、
一方でこの“サソリ座の男”の屈折感は、映画に異様なまでの緊張感を与えていますね。

この“サソリ座の男”はほぼ間違いなく、現代で言うサイコパスだ。
この時代の映画として、殺人犯をこのような形で描いたことは特筆に値すると思いますね。

この“サソリ座の男”がハリーら警察に仕掛ける身代金受け渡し方法として、
サンフランシスコの公衆電話めぐりをさせるという発想も、映画的に実に面白い着想点でしたね。

そしてこの映画の感心させられるとこって、カッコいいショットが多いことですね。
特に抜群に印象的なのは、映画の前半でハリーが立ち寄ったカフェの近隣の銀行で強盗事件が発生し、
ハリーお得意の44マグナムを構えて、犯人が暴走させる車を真正面に銃を構えるシーンで、
このシーンは何度観ても、シビれるカッコ良さだと思う。このシーンを観るたびに、何故か悔しい想いになる(笑)。

ドン・シーゲルって、50年代に実に数多くの映画を製作しているのですが、
本作での世界的な成功から一つの全盛期を迎えたと言ってもいいと思いますね。
特にイーストウッドと組んだ本作、『白い肌の異常な夜』、『アルカトラズからの脱出』の3本は必見だ。

最近はこういう骨太なサスペンスやアクションを撮れる人がいなくなったのが寂しいですね。
本作なんかのカッコ良さは、製作当時、ドン・シーゲルは60歳近い年齢であったにも関わらず、
そんな年齢や経験年数を感じさせない若々しさで、映画に新鮮味が感じられますね。

特にこの映画は夜のシーン撮影が印象的だ。
無人のスタジアムでハリーが“サソリ座の男”を追い詰めるシーンでのダイナミックなロケーションは抜群だ。
空撮なんかも当時としては異例なぐらいバンバン使用しており、意外に先端を行く映画だったのかも・・・。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ドン・シーゲル
製作 ドン・シーゲル
原案 ハリー・ジュリアン・フィンク
    R・M・フィンク
脚本 ハリー・ジュリアン・フィンク
    R・M・フィンク
    ディーン・リーズナー
撮影 ブルース・サーティース
音楽 ラロ・シフリン
出演 クリント・イーストウッド
    ハリー・ガーディノ
    アンディ・ロビンソン
    ジョン・バーノン
    レニ・サントーニ