デリンジャー(1973年アメリカ)

Dillinger

ホントに良かった、この映画が再び注目されることになって・・・。

ようやっと、念願のDVD化が実現し、ハリウッドきってのタカ派な映画監督である
ジョン・ミリアスの豪快なデビュー作が埋もれることなく、再びスポットライトを浴びることとなりました。

09年にマイケル・マンが『パブリック・エネミーズ』を撮って、
ジョニー・デップにジョン・デリンジャーを演じさせていましたが、やっぱり映画としてはこっちの方がずっと良い。
ジョニー・デップと彼のファンには申し訳ないが、僕の中ではジョン・デリンジャーと言えば、
いかにも汗臭そうで、お世辞にもカッコ良いとは言えないオッサンである、ウォーレン・オーツなのだ(笑)。

まぁジョン・ミリアスらしく、随分と荒っぽい仕上がりにはなっているのですが、
何度観ても、やっぱりクライマックスの映画館でパーヴィスが「ヘイ、ジョニー!」と声をかけるシーンが
それに至るまでのスローモーション処理も含めて、何とも言えない緊張感に包まれてて良いですね。

また、僕はこの映画、いきなり銀行強盗に励むデリンジャーを映したオープニングも好きで、
銀行のカウンターの内側から、デリンジャーの前の婦人を接客する様子を敢えて映し、
婦人に隠れて最初はデリンジャーの顔が見えないなんて、粋なカメラがたまらなく良いですよね。

そして、「何、笑ってんの?」と婦人がデリンジャーに質問し、
ニヤニヤしながらも、あくまで紳士に立ち振る舞うデリンジャーが、鋭く犯行に及ぶのも、また素晴らしい展開。

僕は最初にこの映画を観たとき、この冒頭の展開だけを観て、
思わず「この映画は、どエラい傑作じゃないか!」と予感していたのですが、その期待を最後まで裏切らず、
映画全編に渡って繰り広げられる壮絶な銃撃戦、そしてデリンジャーの仲間たちが死んでいく様子、
ラスト直前に敢えて実家に帰ろうとするも、その寸前で思い止まって引き返すシーンなど、どれも素晴らしい。

確かにデリンジャーに関する描写は、むしろ『パブリック・エネミーズ』の方が詳しいのですが、
但し、デンリンジャーの一貫した生きざまみたいなものは、本作の方が強く表現できている気がします。
それはデリンジャーの描き方にどれだけ強い一貫性を持って、インパクトを強くできたかがポイントで、
それは本作の方が、特に映画の序盤でしっかりとベースを固めることができたせいか、優れていますね。
(やっぱり、マイケル・マンには『パブリック・エネミーズ』を撮り直して欲しいんだよなぁ〜...)

とまぁ・・・どうしても『パブリック・エネミーズ』を観た後に本作を再見したせいか比較したくなるのですが、
そもそも映画の趣向が微妙に異なるので、単純に比較することにあまり意味はないかもしれませんね。

言ってしまえば、デリンジャーは往年の名銀行強盗の名手で、カリスマのような存在ですが、
決してデリンジャーは人間的に優れた人物だったというわけではなく、当初は人殺しこそしなかったものの、
彼と行動を共にする仲間たちも「アイツは女の扱いを知らねぇんだ」と噂のネタにし、揺らぎない絶大な信頼を
寄せていたわけではないようで、決して仲良し集団というわけではなかったことを前提としています。

この映画でウォーレン・オーツが演じたデリンジャーは自己主張が激しくて、
人使いの極意は分かっていないようで、基本的には頭ごなしに命令して、言って聞かせているだけ。

それを象徴しているのは、映画の中盤にあるリチャード・ドレイファス演じる“ベイビーフェイス”の
反抗的な態度に激怒したデリンジャーが、一方的に彼を痛めつけるシーンで、仲間もただ静観するだけです。
それはデリンジャーの性格をよく分かっているせいであって、彼らにデリンジャーへの尊敬があったというよりも、
半ば職業的な感覚でデリンジャーと行動を共にし、現金強奪を繰り返していたという印象を受けます。

それにしても、この映画のウォーレン・オーツは相変わらずカッコ良いんだなぁ。
お世辞にもイケメン俳優とは言えないんだけど(笑)、「オレがジョン・デリンジャーだ!」と叫び、
「よくオレの顔を覚えておけ! オレの顔を拝んだということを、孫の代まで自慢できるぞ!」と凄む。
確かに当時、デリンジャーの悪名は全米各地で轟いていたそうですから、それぐらいの影響力はあったかも。

どちらかと言えば、本作も当時、ハリウッドで隆盛していたアメリカン・ニューシネマの影響を
色濃く残した作品であり、やはり随所にショッキングな描写を入れており、特に終盤にデリンジャーの仲間たちが
次から次へと“蜂の巣”にされる描写など、アメリカン・ニューシネマ以前では表現できなかった描写だろう。

ジョン・ミリアスって、78年の『ビッグ・ウェンズデー』の方がずっと有名なんだけど、
僕はベトナム戦争の幻影を追いかけたような『ビッグ・ウェンズデー』よりも、ずっとハングリーに映画を撮った、
本作の骨太さの方が価値があるように思いますけどね。これはそう簡単にできる仕事ではありません。
そして本作の後、ジョン・ミリアスはどこか悩みながら映画を撮影し続けたという印象が拭えませんね。
(ちなみにジョン・ミリアスは90年の『イントルーダー/怒りの翼』以降、新作を発表していない・・・)

やっぱりジョン・ミリアスは本作や75年の『風とライオン』のように、
ベトナム戦争とは一切、関係ない映画を撮った方が良い結果につながっていたような気がしますけどね。。。

とにかくこの映画の銃撃戦は特筆に値すると思いますね。
僕がこの映画の銃撃戦の描写の何に感心したかって、“撃たれる美学”を徹底して表現できたところ。
前述したように、デリンジャーの仲間が映画の終盤に片っ端から始末されるシーンは、全て素晴らしい。
特に“フロイト”の「オレは今まで楽しかった」と言い放ち、聖書を拒否し、草原に倒れるシーンは最高に良い。
表情一つ乱さずに、着実にデリンジャーたちを追い詰めていくベン・ジョンソン演じるパーヴィスも素晴らしく、
草原に倒れる“フロイト”が思わず、パーヴィスの顔を見て、「アンタで良かった・・・」と言うシーンが印象的だ。

それにしても・・・やっぱりウォーレン・オーツの面構えがいいなぁ(笑)。
映画の冒頭での銀行強盗のシーンでの、自信満々な表情に加え、女性に対して不器用な側面を
のぞかせるように、彼の恋人になるビリー・フレチェットとは乱暴に接するシーンなんかも印象的だ。

残念ながら82年に53歳で早逝してしまうのですが、
本作と翌74年に出演した『ガルシアの首』は文句なしの彼の役者人生で頂点を極めた作品だろう。

個人的にはもっと数多くの映画での彼の芝居を見たかったし、
老境に入ってから、どんな芝居を見せてくれるかと思うと、とても貴重な存在だったと思う。
こんなに面構えの良さだけで、出演作品にインパクトをもたらせる役者は、おそらくいないでしょう。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ジョン・ミリアス
製作 バズ・フェイトシャンズ
脚本 ジョン・ミリアス
撮影 ジュールス・ブレンナー
美術 トレバー・ウィリアムズ
編集 フレッド・R・フェイシャンズJr
音楽 バリー・デ・ヴォーゾン
出演 ウォーレン・オーツ
    ベン・ジョンソン
    ミシェル・フィリップス
    リチャード・ドレイファス
    ハロー・ディーン・スタントン
    ジェフリー・ルイス
    スティーブ・カナリー
    クロリス・リーチマン
    ジョン・P・ライアン