ダイ・ハード(1988年アメリカ)

Die Hard

クリスマスの夜に、ロサンゼルスの日系企業で働く妻に会いに行くために、
ロサンゼルスへやって来たニューヨーク市警の刑事マクレーンが、偶然、そのオフィスに乗り込んできた、
武装したテロリストたちの立てこもり事件に遭遇し、孤軍奮闘で対抗する姿を描いたノンストップ・アクション。

そりゃあ...これだけやってくれたら、面白いですね。
派手に資金を投入したアクション映画ではありますが、しっかりと見せ場を作って、
上手く緩急を付けた構成になっており、これはジョン・マクティアナンの構成力の勝利と言っていい。

この映画はかつて、日曜洋画劇場でよく放送していた、
主演のブルース・ウィリスの声を今は亡き、野沢 那智が担当している日本語吹き替えヴァージョンが
今でも僕の中では印象的で、DVDにどうしてあのヴァージョンが収録されていないのかと、
勝手な憤りを感じていたのですが、ほとんど叫んでるだけだけど(笑)、あれはホントに傑出していました。

この映画を観ていて思うのは、
決してマクレーンという男は、屈強な男というわけではなく、ただ単に運が悪いということだ(笑)。

そんな運の悪さが、ブルース・ウィリスの冴えない表情に象徴されているのですが、
映画の冒頭から、マクレーンが飛行機が苦手であるというエピソードを紹介したりして、
常人離れしたキャラクターとして敢えて描かなかったあたりは正解だったと思いますね。

それと、高層ビルに立てこもって、30名もの人質をとって脅迫するテロリスト集団の
リーダーであるハンスを演じたアラン・リックマン、彼がこの映画では特に良い。
おそらく映画史上でも、有数の傑出した悪役キャラクターではないだろうか。
やはり彼もまた、常人離れした強さを持っているようには描かず、あくまで人間臭く描いているのが良い。
うっかりミスから、マクレーンと鉢合わせしてしまい、とっさに人質であるかのように芝居するのも、また良い。

よくよく観れば、たいして強いわけでもない(笑)、
マクレーン刑事の必死の抵抗をここまでエキサイティングに描けたというのは凄いことですね(笑)。
まぁマクレーンはあれだけガラスの破片を浴びても闘い続けるのだから、怪我には強いんだろうけど(笑)。

加えて、マクレーンの孤軍奮闘をビルの外から支援し続ける、
黒人警察官を演じたレジナルド・ベルジョンソンも印象的で、クライマックスでも大活躍だ。

そう、あくまでマクレーンは一人、敢然とハンスらテログループに立ち向かうというわけではなく、
結果的にはマクレーンの孤軍奮闘になってしまったものの、当初からマクレーンは助けを求めていたわけで、
映画の中盤に描かれた、警察へ通報して、パトカーがやって来るのをビルの上から見ていて、
引き上げる姿を見て、「なんだよ! こっち来いよ!!」と叫んで悔しがるシーンが印象的です。

往々にして、この手のアクション映画では脇役キャラクターの個性が弱くなり、
半ば使い捨てのようなキャラクターを登場させがちなのですが、本作はそうはならず、
しっかりと大切に描いているのが印象的な作品であり、これはある意味で珍しいと思いますね。

多少、ステレオタイプな面はありますが、徹底して嫌な性格の刑事を演じたポール・グリーソンや、
ヘリコプターに乗りながら、「ベトナムを思い出すぜぇ!」と狂喜しだす、クレージーなFBI捜査官、
ビッグ・ジョンソンを演じたロバート・ダビなど、ホントに脇役キャラクターまで、強いインパクトを残します。

それと、一つ一つのアクション・シーンに流れがあって見応え十分ですね。
起伏もしっかり付いていて、これは敢えて分かり易くアクションを描いたジョン・マクティアナンが良かった。
これだけのセットを組んで、派手なアクション・シーンも辞さないプロダクションの素晴らしさもあるけど、
やはりある程度の裁量はジョン・マクティアナンにあったはずで、当時、どれだけ勢いがあったか分かりますね。

シリーズ通して思うのですが、やはり本シリーズの原点はこの第1作だろう。
現時点で、本作を含めて計4作のシリーズ化が実現していますが、本作の先駆性には遠く及ばないですね。

言うまでもなく、本作の世界的な大ヒットのおかげで、
それまでテレビ・シリーズ『こちらブルームーン探偵社』で人気を博していた、
主演のブルース・ウィリスはハリウッドを代表するアクション・スターとして活躍するようになります。

まぁ本作でのアクション・シーンはほとんどスタントなしで演じたとされておりますが、
おそらく格闘シーンの多くはスタントを使っているでしょう。その証拠にテロリストと鉢合わせして、
取っ組み合いになって、周辺の壁やガラスに突っ込みながら格闘するシーンの一部では、
明らかにブルース・ウィリスと異なるスタントマンが演じているのは、観て明らかです。

でも、この映画の場合はスレスレの美学っていうか...
マクレーンがクジけそうでクジけない、倒れそうで倒れない、そういうヨレヨレの姿を徹底して
描き続けたのが正解だったようで、こういう部分がどことなく僕は惹かれるんですよねぇ〜(笑)。

ちなみに僕の中では、本作は今は亡き、野沢 那智がブルース・ウィリスの吹き替えしている、
日本語吹き替え版が大好きで、ビデオからDVD、そしてブルーレイと引き継がれた日本語吹き替え版が
野沢 那智ヴァージョンでないことを残念に思い、不完全版でもいいから、是非とも復刻して欲しいですね。

おりしも本作が公開された頃は、日本企業はバブル期を迎え、
経済的成長が著しい時代でしたから、日系企業のアメリカでの躍進はアメリカでも批判の対象でした。
また、貿易摩擦なんかも話題となっていた頃ですから、テロの標的として狙われる存在として描かれているあたり、
やはり当時、日本企業がアメリカにとって、どれだけ脅威であったかを象徴した作品だと思いますね。

何はともあれ、今でも1年に1回ぐらいは見返したくなる、僕の中ではマスターピースの一つ。

(上映時間132分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ジョン・マクティアナン
製作 ローレンス・ゴードン
    ジョエル・シルバー
原作 ロデリック・ソープ
脚本 ジェブ・スチュアート
    スティーブン・E・デ・スーザ
撮影 ヤン・デ・ボン
特撮 リチャード・エドランド
音楽 マイケル・ケイメン
出演 ブルース・ウィリス
    アラン・リックマン
    ボニー・ベデリア
    アレクサンダ−・ゴドノフ
    レジナルド・ベルジョンソン
    ポール・グリーソン
    ウィリアム・アザートン
    ハート・ボックナー
    ジェームズ 繁田
    ロバート・ダビ
    グランド・L・ブッシュ

1988年度アカデミー特撮効果賞 ノミネート
1988年度アカデミー音響賞 ノミネート
1988年度アカデミー音響効果編集賞 ノミネート
1988年度アカデミー編集賞 ノミネート