007/ダイ・アナザー・デイ(2002年アメリカ・イギリス合作)

Die Another Day

“007シリーズ”製作開始40周年にして、第20作目となった記念碑的作品。
5代目ボンドこと、ピアース・ブロスナンが最後のボンド役となった作品でもあります。

劇場公開当時、そこそこ話題になっていたし、ヒットもしていたと記憶しているのですが、
いざ本編を観てみると、全体的に荒っぽい作りをしていて、あまり楽しめなかったですね。
こういう言い方も良くありませんが、ピアース・ブロスナン時代のシリーズとしては、ワーストな出来かも。

まず、映画の冒頭から北朝鮮の軍人を暗殺するために、
ボンドが単身で北朝鮮に乗り込んでいるというところからスタートなのですが、
素性がバレて拘束されてしまい、14ヶ月間にわたって監禁されて拷問されるという設定にビックリ。

だって、天下のジェームズ・ボンドがですよ!(笑)
いきなり14ヶ月という長期にわたって、北朝鮮の独房に入れられて、その間、一切任務につけないとは、
映画の中では随分とサラッと描かれておりますが、これはシリーズ始まって以来の一大事ではないだろうか(笑)。

14ヶ月って、当たり前ですけど1年2ヶ月ですからねぇ(笑)。
ボンドのスパイ人生にとって、とても長い期間であって、想像を絶する監禁期間でしょう。
いくら原作あっての設定とは言え、もう少し自然な流れになるよう脚色して欲しかったかなぁ。

監督は『狼たちの街』で評価されたリー・タマホリですが、
正直に言わせてもらうと...最初っからリー・タマホリには難しすぎる企画でしたねぇ。

さすがに、かつてはしっかりとしたスタント・アクションを尊重していたはずの“007シリーズ”なのに、
映画の後半にあるアイスランドの基地みたいなところから逃げ回るボンドが、氷山ごと落下してしまい、
急造サーフィンみたいなことをして、荒波から逃げ回るシークエンスを観て、失望してしまいましたね。
「CGを使うな!」だなんて、今更、無粋なことを言いませんが、いくらなんでもこの出来は酷い。
リー・タマホリは01年の『スパイダー』も酷い出来の映画にしてしまっていただけに、これは残念な結果ですね。

それだけでなく、氷でできた地面を割って、氷面下の水の中を潜って、
ボンドが基地内部に侵入しようとするのですが、軽装で潜るなんてありえない話しだし、
トビー・スティーブンス演じる悪党が、突如としてモービルスーツみたいなものを着て、
電気を流して、格闘相手を感電させていくなんて、まるで近未来SF映画みたいな発想だ。
(そりゃ、確かに79年に『007/ムーンレイカー』でボンドも宇宙に行ったけどさぁ・・・)

それから、Rから渡されたボンドカーも、透明化できる能力があって、
その車に乗ってしまうと、乗った人も透明化するなんて、なんてご都合主義なんだ(笑)。

それと、アイスランドの氷結した湖面でカー・チェイスを繰り広げるシーンにしても、
あんなにキレイに磨かれたようなアイススケートリンク状態で随分と上手く車を運転できることに感心する(笑)。
あの路面で、あれだけの操作性を保てるのであれば、あの車が装着しているタイヤを教えて欲しいものだ(笑)。

まぁ色々とご都合主義なアクション・シーンが横行しているのですが、
僕はその一つ一つに突っ込む気はなく、むしろそこまで無理な設定を押し込んでも、
映画がちっとも面白くなっておらず、エキサイティングな展開を観客に見せることができていないことに
リー・タマホリの演出が今一つだったと言わざるをえないと思うんですよね。これは工夫の余地はあったはずです。

ってなわけで、せっかく期待されたリー・タマホリも、
自身の特徴を出すことなく、ただただ凡百のハリウッド映画と同一化させてしまったことに悔しさを覚えます。
やはりこういうのを観ると、歴史があるシリーズを映画化するにあたっては、人選が大事なんだなぁと痛感します。

いくらシリーズが変わっていくのは当然とは言え、
いきなりここまで改悪してしまうというのは、さすがにリー・タマホリの手腕を疑いたくなる内容だ。
僕は彼が撮った『狼たちの街』なんかを観て、「粗削りだけど、将来性を感じる」と思っていたのですが、
どうも彼が本来的に撮りたかった映画の方向性がこういう映画にあったとすると、チョット残念ですね。
07年に彼が撮った『NEXT−ネクスト−』にしてもそうですが、SF映画の適性はほぼ皆無ではないかと思う。

今回の悪党グスタフを演じたトビー・スティーブンスにしても、印象が薄過ぎるかな。
どうせなら、もっと手強い悪党というイメージで描かないと、映画が磨かれないですね。
前述した、妙なモービルスーツを着て、ボンドに闘いを挑むという発想にしても幼稚に観えちゃうし、
特にクライマックスの墜落しゆく飛行機内での格闘シーンに至っても、そこまで強くないというのが情けない。

但し、まるでロジャー・ムーアの時代の“007シリーズ”に戻ったかのように、
少しずつギャグ路線を取り戻そうとしているあたりは、少し嬉しい(笑)。さすがにロジャー・ムーア時代は
やり過ぎなんだけれども、例えばクライマックスのマネーペニーの妄想なんかは、チョット笑えた。

ピアース・ブロスナンは5代目ジェームズ・ボンドとして、
“007シリーズ”を再び、マネーメイキング・シリーズとして甦らせる世代交代を成し遂げましたが、
本作を観る限り、やはり彼が演じるボンド像が限界に近づいていたことを痛感せざるをえません。
そういう意味で、プロダクションはとても良い時期にダニエル・クレイグに交代させたと思います。

どうせなら、40周年にしてシリーズ第20作という記念碑的作品だったわけですから、
もっと頑張って欲しかったのですが、本作での失敗はシリーズにとっては必要な失敗だったのかもしれません。

当初、リー・タマホリではなく、この企画は95年に『007/ゴールデンアイ』を担当した、
マーチン・キャンベルがメガホンを取る予定だったらしいのですが、何故かリー・タマホリになりました。
まぁマーチン・キャンベルもお世辞にも器用な映像作家とは言えませんが、あくまでアクション映画という
ジャンルで語るのであれば、本作にしてもマーチン・キャンベルの方が適任だったのかもしれませんね。
(この影響もあってか、次作『007/カジノ・ロワイヤル』はマーチン・キャンベルが監督している)

ちなみに今回の主題歌は、なんとマドンナ。
勢い余って、劇中、凄い目立った存在でカメオ出演を果たしていますが、これは乞うご期待(笑)。

(上映時間132分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 リー・タマホリ
製作 バーバラ・ブロッコリ
    マイケル・G・ウィルソン
原作 イアン・フレミング
脚本 ニール・パーヴィス
    ロバート・ウェイド
撮影 デビッド・タッターサル
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ピアース・ブロスナン
    ハル・ベリー
    トビー・スティーブンス
    ロザムンド・パイク
    リック・ユーン
    ジュディ・デンチ
    ジョン・クリーズ
    マイケル・マドセン
    ウィル・ユン・リー
    ケネス・ツァン
    サマンサ・ボンド
    マドンナ

2002年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(マドンナ) 受賞
200え年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト音楽賞(マドンナ) ノミネート