噂のモーガン夫妻(2009年アメリカ)

Did You Hear About The Morgans?

ハリウッドきっての軽い俳優であるヒュー・グラントと、
人気TVシリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ』で女優として、すっかり息を吹き返したサラ・ジェシカ・パーカーが
タッグを組み、倦怠期を迎えた離婚寸前の夫婦の危機と再生を描いたラブ・コメディ。

僕も劇場公開当時から、ある程度、期待していた映画ではあったのですが、
思ったよりは面白くなかったというのが、正直な本音といったところかな。

確かに一見すると、体裁良く完成された映画ではあるのですが、
ラブ・コメディ特有の軽快さであったり、映画としてのパワーに欠けるのがネックで
僕は本作のコンセプトを考えれば、もっと面白く出来た作品であるというのが根底にありますね。

何より、最も大きな本作の反省材料はラブ・コメディとしては、
定石とも言える、ヒュー・グラントをキャスティングできたというにも関わらず、
本作は彼の持ち味をほとんど活かせなかったという結果を招いてしまっており、
それが映画の最後の最後まで、悪い方向に影響を与えてしまったような不発感がありましたね。

監督はマーク・ローレンスで、過去にヒュー・グラントを起用した作品を数多く手掛けております。
おそらく本作は彼が最もヒュー・グラントのキャラを活かし切れなかった作品であり、
お膳立てはそこそこ出来ていただけに、ひじょうに勿体ない結果であると言っていいでしょう。

とは言え、一方でこの映画の強みと言えるのは、
決して映画の雰囲気をブチ壊すような、致命的なミステイクはおかしていない点で、
キチッと要所、要所でポイントを押さえている点で、やはりハリウッドはこの手の映画がひじょうに上手い。

何度も言いますが、こういうオーソドックスなラブコメってのは、
簡単なように見えて、手掛けるのはホントに難しいと思うんですよね。
それは映画が誕生して以来、ずっとこの手の映画は廃れず、いつの時代にも存在しているからで、
特に昨今は競争がより激化しているからで、その中で楽しめる映画を作るというのは、容易ではないでしょう。

映画は誰もが羨むカップルであるはずの主人公夫妻が、
夫の浮気が引き金となって、別居状態になっていたところ、何とか謝罪して和解しようと
夫がレストランでの食事を企画。その帰り道で、偶然遭遇した殺人事件を目撃してしまい、
犯人から命を狙われたことから、警察の証人保護プログラムを受けることになり、
大都会ニューヨークから、ワイオミング州のレイという田舎町に移り住む姿を描いています。

まぁノーマルな倦怠期を迎えた夫婦のコメディに若干のサスペンスをブレンドするというスタイルですが、
今までのマーク・ローレンスが撮ってきたタイプの映画とは、若干、タイプを変えてきていますね。

軽妙なヒュー・グラントもトンデモない女ったらしという設定ではなく、
あまりの寂しさに、口をきいてくれない妻に何が何でも謝り通そうとする、プライドの欠片もない男を
ある意味で情けなく演じており、まぁこれはこれで現代的な男性像と言ってもいいでだろう(笑)。

ただ、個人的には養子縁組のエピソードは必要なかったような気がしますねぇ。
確かに夫婦生活の中で、不妊問題は大きな問題だし、特に子供を望む夫婦にとっては深刻な問題だろう。

しかしながら、映画のテーマはもっと本作の場合はシンプルに作って欲しかったし、
あまりシリアスなテーマは不釣合いな印象を受けましたねぇ。そして、養子縁組のエピソードが
本作の中で活きていれば良かったんだけれども、あまり大きく反映されませんでしたね。
これならば、もっと違うテーマにすれば良かったのに・・・とは思いましたね。

それと、主人公夫妻がどれだけお互いに仕事ができるのかは、
もっと強く描くべきで、特にヒュー・グラント演じるポールがホントに有能な弁護士なのか疑わしい(苦笑)。

あくまで日本人的な考え方ではありますが...
仕事の成功には人脈の強さ、周囲からの信頼の厚さも大きなポイントであると考えられるのですが、
映画で観る限り、妻メアリーにしてもホントに不動産仲介業で独立して儲けているセレブリティなのか、
疑わしく思えるぐらい、性格的に難があるというのが、この映画にとっても大きなネックになっている。

おそらく本作は『セックス・アンド・ザ・シティ』のヒットで息を吹き返した、
サラ・ジェシカ・パーカーがそのまんまのキャラで、映画に出演してきたみたいな感じで、
ハッキリ言って、便乗した映画ではあるのですが、チョット全体的にはノリ切れませんでしたね〜。

ひじょうにどうでもいい話しではあるのですが...
主人公夫婦が匿ってもらう湖畔の家付近で、熊が出てくるのですが、これは怖すぎる(笑)。

最近、自分の身近な問題になったせいもあるのですが(苦笑)、熊と対峙したら背を向けて、
走って逃げるのは自殺行為らしく、好奇心旺盛な熊はまるで狩りを楽しむかのように追ってくるらしいです。
しかも熊がハンティングの本気を出して走り出すと、時速50km/hぐらい出るそうで、
とてもじゃないけど人間が走って逃げ切れるスピードではなく、その執念深さも半端じゃないそうです。

まぁ物語の本題であるはずの殺人事件の犯人も
隠遁先まで追ってくるという、お約束の展開ではあるのですが、あまりに犯人がお粗末過ぎるせいか、
どうにも熊の方が怖いという印象しか残らないという、微妙な結果に陥ってしまいました。

無難にこなした、及第点の映画とは言える作品ではあるのですが、
もっとしっかり作り込めていたら、もっと違った結果になっていたであろうと思えるだけに、少し残念かな。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マーク・ローレンス
製作 マーティン・シェイファー
    リズ・グロッツァー
脚本 マーク・ローレンス
撮影 ブロリアン・バルハウス
編集 スーザン・E・モース
音楽 セオドア・シャピロ
出演 ヒュー・グラント
    サラ・ジェシカ・パーカー
    サム・エリオット
    メアリー・スティーンバーゲン
    エリザベス・モス
    マイケル・ケリー
    ウィルフォード・ブリムリー
    セス・ギリアム

2009年度ゴールデン・ラブベリー賞ワースト主演女優賞(サラ・ジェシカ・パーカー) ノミネート