007/ダイヤモンドは永遠に(1971年イギリス)

Diamonds Are Forever

前作『女王陛下の007』のクライマックスでブロフェルドの襲撃を受け、
復讐に燃えていたボンドが、盗まれたダイヤモンドを追跡する過程でブロフェルドへの
復讐の機会を得て、再びブロフェルドに闘いを挑む姿を描いた、人気シリーズ第7弾。

前作で高慢な振舞いで撮影スタッフやプロダクションの顰蹙をかってしまった、
2代目ボンドこと、ジョージ・レーゼンビーが降板させられ、再びショーン・コネリーが戻ってきたわけですが、
これは確かに観ていて、ツラくなってくるぐらい、かなり無理して頑張ってるショーン・コネリーがいますね(笑)。

今回の主題歌はシャーリー・バッシーで、あまり今回の主題歌のインパクトは強くないかな。
(但し、映画ファンの間ではこの主題歌は結構、人気があるみたいだ・・・)

まぁ最低の出来にはなっていないとは思うのですが、
個人的には映画の冒頭でブロフェルドが整形手術を駆使して、自分の替え玉を幾人も作っていた
エピソードはもう少し丁寧に描いて欲しかったなぁ。どことなくボカして描いた感じがあって、
映画のクライマックスでのブロフェルドの結末も含めて、全体的に不透明な印象が拭えない。
ブロフェルドの替え玉にしても、あまりに乱発し過ぎると、映画が“何でもアリ”状態になっている感じで、
シリーズの魅力を大きく削いでしまう結果になってしまっているのが、僕にとっては残念でなりなせん。

さすがにショーン・コネリーも撮影当時、40歳を超えていたせいか、
67年の『007は二度死ぬ』の頃と比較しても、どことなく年老いてしまったようなシルエットで、
彼が直接的に絡むような格闘シーンも減ったような気がするのは、なんだか寂しい。

たぶん、今回は予算的にも大盤振る舞いだったようで、
爆破シーンがやたらと多く、市街地でのカー・チェイスなど、次から次へと見せ場が連続します。
シリーズ2回目のメガホンを取ったガイ・ハミルトンの演出はサービス精神旺盛で、
やはりこの映画では、映画の中盤にあった、ボンドが運転する車を“片足ウィリー走行”させるシーンが印象的。

ブロフェルドが取り入った民間企業の研究施設の社長の自宅に行ったボンドが、
何故か下着姿の女性2人に手荒な歓迎を受けて、まるで喜んでいるかのようなボンドがいたり、
アムステルダムのアパートを訪れて、自分が成り済ましている張本人が登場してきて遭遇しそうになると、
暗がりのアパートの入口で、一人で抱き合うカップルを装うなど、笑えてくるシーンが満載です。

前作はボンドの結婚まで描かれた異色作でしたが、
本作ではただのスケベオヤヂみたいなショーン・コネリーに戻されましたが(笑)、
それまでの片っ端から女性をクドき落とし、任務より性欲を優先させる活力は無いみたいですが、
本作のボンドガールを演じたジル・セント・ジョンは、おそらくこれまでのシリーズで一番、露出度が高いだろう。
(ちなみにジル・セント・ジョンは俳優ロバート・ワグナーの実生活での妻)

ブロフェルドに対する復讐心に燃えるボンドですが、
この映画ではオープニングから随分と直情的にバイオレントなボンドがいて、いきなり女性への暴力も躊躇しない。
『007は二度死ぬ』を思い出させるように、冒頭に何故か日本人が登場してきて、ボンドにボコボコにされる。
言ってしまえば、よっぽど『女王陛下の007』を忘れたかったのか、明らかに路線変更を図っています。

まるでコメディ映画のようなニュアンスもあったりして、これは従来のシリーズにはありませんでした。
やはりこの辺を観るに、本作の作り手は明確に『女王陛下の007』とは、決別したかったのでしょうね。

しかし、敢えて『女王陛下の007』と比較するとすれば、
ブロフェルドを演じたテリー・サバラスが降板してしまっているのは、たいへん残念ですね。
いや、と言うのも、僕は『女王陛下の007』は好きな映画なんですが、テリー・サバラスの存在は大きかった。
残念ながら本作でブロフェルドを演じたチャールズ・グレイも頑張ってはいますが、冷徹に悪役キャラクターに徹した、
『女王陛下の007』でのテリー・サバラスの名演と比べると、やはり及ばないことは否定できないかなぁ。

加えて言えば、やはり映画のクライマックスでのブロフェルドの対決が、
カリフォルニアの海上に浮かぶ油田で行われるのですが、これが第1作の二番煎じのように感じられるかな。
やっぱりクライマックスの攻防のロケーションに関しては、もっとこだわって欲しかったですねぇ。

監督のガイ・ハミルトンは『007/ゴールドフィンガー』以来の起用ですが、
さすがにテレンス・ヤング、ルイス・ギルバート、ピーター・ハントと作風が微妙に異なるディレクターが
代わる代わるメガホンを取っているせいか、どことなく作品によって作風が変わっていくのが興味深いなぁ。
それと、さすがにこの頃からプロダクションも薄々気づいていたのかもしれませんが、シリーズは迷走を始めている。

苦肉の策なのか、ボンドを無理に暴力的に描いたり、コメディ路線に走ったり、明らかに試行錯誤しています。

既に本作を撮影していた頃には、次作『007/死ぬのは奴らだ』の制作が決定しており、
前作だけで降板したジョージ・レーゼンビーの後継者を探すことが急務であったはずだ。
本作でボンドに返り咲いたショーン・コネリーは、凄まじいギャラを本作のオファーに用意したため、
当初から彼はあくまで“つなぎ”的立場であり、次作以降は出演しないことは織り込み済みでした。
(その証拠にエンド・クレジットで次作を予告していますが、ショーン・コネリーが演じるとは告知されていない)

今回のボンドも棺に閉じ込められたり、デカい配管に埋められ、地中に閉じ込められたり、
市街地でカー・チェイスに発展したり、月面車でピンチに陥ったり、ピンチの連続なのですが、
どことなく本作は緊張感に欠け、最後の最後まで盛り上がらなかった作品という感じで終わってしまいます。

まぁジョージ・レーゼンビーがイマイチに感じられた人には、
ショーン・コネリーが戻ってきた作品ということで自信を持ってオススメできるのですが、
いかんせん前述した通り、ショーン・コネリーが完全にオッサンな映画なので(笑)、
これまでのショーン・コネリーが演じてきたボンド像を、悪い意味でブチ壊す結果になってしまうかもしれません。。。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ガイ・ハミルトン
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 トム・マンキウィッツ
    リチャード・メイボーム
撮影 テッド・ムーア
音楽 ジョン・バリー
出演 ショーン・コネリー
    ジル・セント・ジョン
    チャールズ・グレイ
    ラナ・ウッド
    ブルース・キャボット
    ジミー・ディーン
    ノーマン・バートン
    バーナード・リー
    ロイス・マクスウェル
    デスモンド・リュウェリン

1971年度アカデミー音響賞 ノミネート