デトロイト・メタル・シティ(2008年日本)

大分県の田舎町から、甘いラブソングをオシャレに歌うポップシンガーになることを夢見て、
東京の大学へ進学するため上京した若者が、大学のサークル活動の中で自身の音楽観を熱く語り、
同じサークルの後輩から強い支持を得ながらも、意を決して自らの音楽を売り込みに行った、
音楽会社の女性社長の策略で、デス・メタル系バンドのヴォーカルとしてデビューさせられ、
自身の意に反して、デス・メタル・バンドのヴォーカルとして絶大な人気を博してしまう姿を描いたコメディ。

劇場公開時、凄く話題になっていた作品で、
久しぶりに勢いを予感させるプロモーションの内容だっただけに、僕も結構、期待していました。

まぁ・・・観る前の想像ほど、笑えるようなギャグは皆無だったけれども、
徹底して観客の笑いのツボを敢えて外したかのような映画の作り方に、逆に好感を持ちましたね。
そりゃ、これだけ笑いのツボを外したような映画を堂々と作ってしまうと、さすがに観ていてツラい(笑)。

コメディ映画のセオリーなんぞ、完全に無視した作品だし、
主人公の破天荒な行動の全てが、万人ウケする内容とは言い難いと、僕も思っている。
でも、僕はこの映画、実は失敗した部分が多いのだけれども、実に「愛すべき失敗作」だと思いますけどね。

主人公が徹底して夢見ていたポップスターにチャレンジしようとするときの、
言わば彼が本来的にやりたい音楽を続ける姿と、デス・メタルの王道のような“クラウザー”の対比は面白い。

わざわざお金をかけて、KISS≠フジーン・シモンズを出演させたり、
無駄に随分とお金をかけた企画でしたし、コミックが原作のせいか、エピソードそのものに物足りなさがあり
おそらくそういった空気を懸念していたせいか、上映時間も比較的、短めで編集していましたね。
でも、僕はこれぐらいの分量が丁度良かったと思いますね。これ以上、長くなると、少々、キツかったかも。。。

主人公がクラウザーになってしまってからのステージ・パフォーマンスも奇抜ではあるのですが、
ギターを歯で弾くのはジミヘンだし、客席にダイブするあたりは、まんまイギー・ポップだ(笑)。
正直言って、デス・メタルというより、色々なパフォーマンスの融合なのですが、そこがまた良いのだろう。

原作を読んでいないので、細かいところはよく分かりませんが、
何故、“デトロイト”かと言うと、そりゃイギー&ザ・ストゥージーズ≠ェデトロイト出身のバンドだからでしょう。

映画の本編とは関係ありませんが、
今や“パンク・ロック界のゴッドファーザー”と呼ばれるイギー・ポップは、今尚、凄過ぎる爺さんです(笑)。
クラウザーのようなパフォーマンスの元祖であるわけなのですが、かつては体を傷だらけにして、
敢えて上着を全て脱ぎ捨てて、マイクを体に巻きつけて歌い、最後はステージから客席へ向けてダイブという、
70年代初頭当時としては、かなり前衛的で過激なパフォーマンスを堂々とし、今尚、このスタイルを貫いています。
(但し・・・最近はステージ・ダイブで負傷した教訓を生かして、ステージ・ダイブは自重してるらしい・・・)

クラウザーのようなパフォーマンスの元祖って、
やっぱりパンク・ロックの原型みたいなところにあったんでしょうねぇ。
そういうルーツを探っていくと、結局、ジョン・ケイルやトニー・ヴィスコンティといったニューヨークで、
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド≠フ活動に関与していた面々にぶつかるんですよね。

今一度、後世の音楽に良い影響を与えた彼らの存在について、再評価を促したいところですね。

一方、本作では主人公の根岸が憧れていた、“渋谷系”について言及しています。
実際、この映画は大々的に渋谷付近でロケ撮影を敢行しており、僕は全く詳しくはないのですが、
渋谷系を代表するカジヒデキが音楽を提供しており、挙句の果てには根岸が体をくねらせて歌う、
『甘い恋人』は気持ち悪いポップソングの代表であるかのように描かれており、とても酷い扱いだ(苦笑)。

まぁ・・・よくこういう使い方をされることを認めたもんだと変に感心してしまいましたが、
松山 ケンイチの好演のせいもあってか、確かにナヨナヨした気持ち悪いポップソングに聴こえるから不思議だ。

かつて“シブカル”として注目を集めた渋谷ですが、
僕もたまに渋谷をブラブラするたびに、相変わらずの人の多さに圧倒されてしまいますね。

そういう意味では、この映画、全面的にタワーレコードのサポートを受けているらしく、
主人公が常に口にする、「NO MUSIC, NO DREAM」も“タワレコ”のコピーのマネである。
(ちなみに“タワレコ”のコピーは「NO MUSIC, NO LIFE」、音楽のない生活なんて考えられないという意味)

映画の中でも、2012年夏に移転していまいましたが、
懐かしのタワレコ渋谷店の旧店舗の1階(?)で撮影されており、何故か懐かしい想いにさせられます。
そう、以前は東京出張があると実は僕、必ずと言っていいほど、タワレコ渋谷店に行っていました(苦笑)。
(まぁ・・・品揃えは特段、札幌のタワレコと変わらないんですがね。。。)

本音を言うと、映画の出来としてはそこまで良くはないと思います。
個人的には、主人公が渋谷のインストア・ライヴとデートを掛け持ちするシーンなんかも、
もっとコミカルに上手く描いて欲しかったし、観客の笑いをとれるシーン自体も少なかったような気がします。
但し、松山 ケンイチの頑張りが大きくって、主人公のキャラクターを大切にしていることに好感を持ちましたね。
やはり個人的には、面白い映画を撮るにあたっては、こういう主体性のある姿勢は不可欠だと思うんですよねぇ。

少しずつ物足りないのは、クラウザーのカリスマ性を描き切れていない点で、
特に映画の序盤で、主人公がデス・メタルのカリスマになる過程を完全に放棄したことは残念かなぁ。

やはり彼がポップスターを目指しながらも、
何故かデス・メタルのカリスマとしての才覚に目覚めてしまうにあたっては、
彼自身、それまでの嗜好を吹っ切るのに大きな隔たりがあったはずで、苦労もしたはずです。
僕は少しだけでもいいから、その“目覚め”はキチッと描いた方が、ずっと映画に説得力が出たと思うのです。
このままでは松雪 泰子演じる、所属音楽会社の社長も彼のどこに目を付けたのか、よく分からないのですよね。

というわけで、まだまだ映画を面白く見せる余地はあったと思う。
但し、中途半端に「ハジけてみました」みたいな映画を観るより、こっちの方がずっと健全のような気がします。
ですから僕は、敢えて本作が登場したことの意味を、いろいろな方々にもっと深く考えてもらいたいんだなぁ。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 李 闘士男
製作 島谷 能成
    堀 義貫
    永井 英男
    北川 直樹
    島本 雄二
    板橋 徹
    山崎 浩一
    細野 義明
    石井 博之
    喜多埜 裕明
    宮路 敬久
    大宮 敏靖
企画 川村 元気
原作 若杉 公徳
脚本 大森 美香
美術 安宅 紀史
衣裳 高橋 さやか
編集 田口 拓也
音楽 服部 隆之
出演 松山 ケンイチ
    加藤 ローサ
    秋山 竜次
    細田 よしひこ
    大倉 孝二
    岡田 義徳
    高橋 一生
    美波
    大地 洋輔
    大谷 ノブ彦
    松雪 泰子
    宮崎 美子
    マーティ・フリードマン
    ジーン・シモンズ