デジャヴ(2006年アメリカ)

Deja Vu

ハリケーン、“カトリーナ”による凄惨な傷痕が残る、
アメリカ南部の都市ニューオーリンズを舞台に、兵士たちや子供たちを乗せた、
フェリーが車に積まれた大量の爆弾が原因で大爆発。多数の死傷者を出す。

この許し難い大量殺戮をも言える、テロ事件の捜査を担当した黒人捜査官が、
フェリー事故の近くで水揚げされた、一見するとテロ事件の被害者と見える女性の遺体に注目し、
国家機密で研究が進められていた、監視カメラの映像を使って、過去を視覚的に再生できるシステムを利用して、
事件の関係者を捜索していながら、テロリストの犯行を止めようとする姿を描いたSFサスペンス。

かなりと言っていいほど、強引な映画の設定でこれは賛否が分れそうですが、
それでも、さすがはトニー・スコットの監督作品ですね。キッチリ楽しませてはくれます。

主人公のダグが、テロ事件の被害者と見えた女性クレアの遺体に触れて、
まるでストーカーばりに彼女に執着し始めるという、チョット異常な執着心が怖いけど(笑)、
まるでそれが彼にとっての運命であると言わんばかりに、映画は力強く進んでいくのが結果的には良かった。

かつて批判を浴びまくった、ジェリー・ブラッカイマーのプロダクションの映画ではありますが、
さすがにここ数年は、すっかり彼の金儲け主義も薄まったようで、クライマックスの展開なんかは
ジェリー・ブラッカイマーのお得意のパターンかと思いきや、実にアッサリしたクライマックスで少し拍子抜け(笑)。

トニー・スコットらしく、無理矢理にでもカー・チェイスが描かれるのですが、
この映画のカー・チェイスは、過去の再現映像を再生させるために、過去と全く違うシチュエーションで
同じ道路を爆走していくという発想がなかなか面白くって、これは他作品にはなかなか無い設定。
演じるデンゼル・ワシントンも上手くって、何故にそこまでクレアに執着するのかよく分からないものの、
まるで彼自身が「この想いに理屈なんて、必要か?」と言わんばかりに暴走する姿が板に付いている(笑)。

この発想の素晴らしさだけで、この映画にはそこそこ価値があるとは思いますね。
ゲーム感覚で描けそうな感じもあるのですが、ゲームのような映像で主人公が見ていても、
観客には決してゲーム感覚でチェイス・シーンを表現するわけでなく、あくまで真剣勝負。
正しく手に汗握る見事なチェイス・シーンになっており、如何にもトニー・スコットらしい実に鮮やかな仕事ぶりだ。

正直言って、トニー・スコットの監督作品としては、映画の出来そのものがそこまで良くないかな。

彼の卓越した手腕から言えば、この題材であればもっと面白い映画にできたはず。
しかしながら、それでも最低限の面白さを提供してくれたのは、やはり彼だからこそできた技であり、
上手い具合にジェリー・ブラッカイマーの資金力を使って、実に経済的にも優れた能力を発揮していますね。

やはり結果的には、過去の再現映像を、決められた範囲内であれば、
例え厚い壁の向こう側であっても、実に鮮明に映像として再現できるソフトウェアをアメリカが
国家予算を投じて開発していて、それを捜査の中で運用しているというのは、チョット安易過ぎたかな。

ハッキリ言って、これがアリだったら、なんでもアリになっちゃいますからねぇ(笑)。
個人的にはここまで都合の良いアイテムを使って捜査を進めるよりも、もっと地道な姿も描いて欲しかったですね。

再現映像を構築するには、最低でも4日はかかるという設定があるせいか、
再現映像の構築と現実世界の時間が同時進行型で進むせいか、ストーリーの進み方も遅い。
いつもスタイリッシュな映像感覚で、スピード感をもって映画を作るというスタンスのトニー・スコットらしくない。
この辺が本作の苦しさで、全米では興行収入面で苦戦したという理由が、なんとなく表れてる気がします。

タイトルになっている、“Deja Vu”とは日本語で言うと、既視感のことですが、
本作で描かれるテーマって、既視感って言うより、完全にタイムトラベルだと思うんですよね・・・。

確かに主人公が既視感を感じていたからこそ、クレアに執着したという見方もできるし、
タイムスリップしてから、既視感を利用してクレアの運命が変わることを確認するなんてこともあるけど、
やはり主人公が自ら志願して、タイムスリップする転送マシーンに入るシーンから、飛躍し過ぎている気がします。

最初っから、こういう映画だったのなら理解はできるのですが、
全体的に力技で映画を乗り切ろうとするトニー・スコットの演出が、どことなく違和感を覚える。
(まぁ・・・それでも、平均点レヴェルは越えるのですから、ホントに凄い職人監督ですが...)

強いて言えば、この映画は編集が優れている。
おそらく編集が上手くいったからこそ、この映画は救われた部分が大きかったのだろうと思う。
常に主人公の記憶を意識させるような仕掛けを作っているのだが、それが過剰でないのが良い。
いや、これは簡単に言ってしまうけれども、おそらくそうとうに難しいテクニックだと思う。
優れた編集者でなければ、このバランス感覚を本作に与えることはできなかっただろう。
これ以上に、主人公の記憶を観客に意識させるために、フラッシュ・バックを使うと、映画がクドくなるだけです。

それを考えたら、ホントにこの映画は編集に救われているようにしか思えないんですよね。

欲を言えば、クライマックスの対決シーンはもう少し盛り上げて欲しかったところかな。
一応、銃撃戦が描かれているのですが、どことなく盛り上がりに欠けるのが残念ですね。
この辺はトニー・スコットらしくないというか、なんか元気がないのが気になるところですね。
かつてのトニー・スコットであれば、こんなに中途半端な銃撃戦にはしなかったはずです。

久しぶりにスクリーンの世界で観たバル・キルマーも、最終的にチョイ扱いで哀しいですね・・・。
映画の序盤を観た限りだと、てっきりもっと重要な役どころかと思っていたのですがねぇ〜。。。

というわけで、あくまでエンターテイメントとしては十分に役割を果たした作品かと思いますが、
トニー・スコットの監督作品として見れば、少し物足りない部分も大きいなぁと感じざるをえません。
もう少し映画全体として、スピード感ある演出ができていれば、全体的にタイトな映画に形作れたでしょうね。

どうでもいい話しですが・・・
オフィスビル内にあるウォータータンク前で、紙コップを使ってデンゼル・ワシントンが
歯を磨くシーンがあるのですが、実際にこれをやったら、顰蹙(ひんしゅく)をかうでしょうね(笑)。。。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 トニー・スコット
製作 ジェリー・ブラッカイマー
脚本 テリー・ロッシオ
    ビル・マーシリイ
撮影 ポール・キャメロン
編集 クリス・レベンソン
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 デンゼル・ワシントン
    ポーラ・パットン
    バル・キルマー
    ジム・カビーゼル
    アダム・ゴールドバーグ
    エルデン・ヘンソン
    エリカ・アレクサンダー
    ブルース・グリーンウッド
    エル・ファニング
    マット・クレイブン