バーニング・オーシャン(2016年アメリカ)

Deepwater Horizon

2010年に実際に発生したメキシコ湾の石油採掘現場での炎上事故について、
当事者たちの証言に基づいて、ドラマとアクションの両面を展開させたノンフィクションの映画化作品。

監督は『ベリー・バッド・ウェディング』や『ハンコック』などのピーター・バーグですが、
現時点で本作はベストな出来と言っていいでしょう。これまでのどこか消化不良というか、粗っぽさというか、
悪い意味での中途半端さというものが本作には無い。あんまりヒットしなかったようだけど、これは結構面白かった。

どこまで実話なのかは分かりませんが、これは企業経営についても考えさせられる作品だろう。

映画はBP社という石油販売の大企業が、新たな油田開発を目指して、
メキシコ湾の新たな掘削現場で作業を進めるための、セメント・テストをしっかりと実施していないことに
憤慨した掘削請負業者の現場主任が、セメント・テストを実施するように強硬に主張する。
テスト割愛を指示していたBP社の連中も、渋々、テストを実施することに同意するものの、
次第に掘削請負業者とBP社の溝は広がっていく。テスト中に異常の兆候を読み取っていながらも、
BP社の主張に押し切られるように、作業を継続した結果、現場はトンデモない事態に見舞われる姿を描きます。

結論的に言えば、この映画で描かれた内容は人災である。
BP社の連中は、おそらく本社から指示されてのことだろうが、工期遅れによる多額の費用増を懸念して、
セメント・テストを割愛するように現場に勝手に指示していたし、現場の勘を無視して、座学で勉強した知識だけで
安全性を軽視した論理展開を主張して、作業を続行するよう半ば強要しているような立ち振る舞いである。

ただ、僕はこの映画を観ていて、BP社の社員の態度は最初っから気に食わないが、
この場合では正しいかどうか分からないBP社の楽観的な論理展開に対して、論理的に反証したり、
疑義を呈したりする材料が、請負業者にも無かったことは残念に思える。確かに現場で働いている人々の勘って、
時に何よりも頼りになり正しいこともあるし、命を賭けて日夜働いている彼らの言葉を蔑ろにすべきではなかった。

ただ、費用の増大は避けたいので、とにかく早く掘削を進めたいBP社の思惑と、
何も根拠はないが雰囲気的に不安に感じるという請負業者の主任。言わば、お互いの感情論のぶつかり合いになる。

勿論、人間同士がやり合うことなので、最終的には感情ということになるのだろうが、
請負業者側にも何かしらの経験に基づいたデータや、論理展開があれば事件の顛末は変わっていたかもしれない。
僕はなんでもかんでも数値化できるものだとは思っていないし、無理矢理、こじつけたような指標として妥当性のない
数字が独り歩きして、それが判断材料になるというのは危険な状況だと思うけど、現場を預かっている人間であれば
感情論で主張しても、現代では通用しない。根拠がない、独りよがりで頑固な主張だとされれば意味はないのです。

とは言え、とても大事な事業であり、掘削を請け負ってもらわなければ事業が成り立たないという
発注元の大企業であれば尚更、BP社の連中は現場の肌感覚を無視してはならなかった。これは致命傷になる。
請負業者以上に現場の安全確保や、周辺環境への悪影響を気にしなければならない立場であったはずだ。

それができなかった時点で、BP社が巻き起こした人災だと言われても、仕方がない出来事だと思う。
ジョン・マルコビッチ演じる現場に乗り込んできたBP社の重役は、現場で安易な判断を下して危険な状況に
陥らせたとして、故殺罪の罪に問われたようですが、ラストのテロップでは2015年に不起訴になっている。
彼の安全の主張は、現場の肌感覚を無視したものではあったが、一方で間違った論理ではないものだったようだ。

だからこそ、現場主任も黙りこくってしまったわけですが、BP社の闇を感じるのは彼だけに罪を着せたことだ。
別に彼を擁護するつもりはないが、彼もまた、BP社のトップの顔色を危惧して発言し、現場に乗り込んできたのも
経営トップらの指示によるものだったのかもしれない。そんな彼一人が暴走したかのような裁判結果にしたのは、
BP社が如何に大企業であったとしても、この会社の大きな闇の部分を感じさせる、腐った企業体質に感じる。

個人的には好きな言葉ではないけど、忖度って政治の世界だけでなく、企業にもありますからね。
って言うか...一般企業なんて、忖度の連続ですよね(笑)。企業の体系が大きくなればなるほど、そうでしょう。
例えば大企業の中小グループ企業の社長なんて、所詮は中間管理職ですからね。忖度しかないですよ(笑)。

本作で、実際に親子関係(継父)にあたるカート・ラッセルとケイト・ハドソンが初めて共演しましたが、
カート・ラッセルが主人公の実質的上司にあたる現場主任で、ケイト・ハドソンが主人公の妻という設定がニクい。

映画の終盤に、カート・ラッセルとケイト・ハドソンは抱擁するシーンがあって、
この親子共演にとっての見せ場になりましたが、この抱擁は意味深長で、多くの命を預かって大所帯の現場を
預かっていた主任には、おそらく11名の犠牲者を出したという事実は重たかっただろうし、厳しい言葉もあっただろう。
その結果責任と向き合わなければならなかっただろうし、実在の主任は事件後も掘削会社で働いている事実も重い。

本作のハイライトは、何と言っても映画の終盤の掘削現場で凄まじい圧力で泥水やメタンガスが噴き出て、
アッという間に掘削基地が炎上してしまって、社員が命からがら燃え盛る基地から逃げ出すシーンですね。
延焼することが原因で次々と燃えるハシゴや階段などが、頭上から落ちてくる迫力があまりに凄まじい緊張感。

文字通り、現地はパニック状態で想像を絶する地獄絵図であることが巧みに表現されている。
上手い具合にCGも使われており、災害を描いたパニック映画として、近年では出色の出来であると言っていいと思う。
この辺はピーター・バーグもよく研究したのでしょう。燃える海に飛び込むなんてシーンもスゴい臨場感ですが、
この状況では確かに生きて脱出する方が難しい。BP社の連中が先んじて勝手に救命艇で脱出するなんて、
言語道断なシーンには閉口するが、これだけの大事故で11名の犠牲者に留まったというのも、どこか奇跡的に感じる。
(まぁ...事故で亡くなった人がいるという時点で、11名に留まったという言い方も不適切ではあるが・・・)

実際、本作で描かれたような事故現場に居合わせてしまったら、瞬時の判断が重要でしょうね。
咄嗟の行動も含めて、危険を察知して命を守るための瞬時の判断が、生死を分けることが連続するのでしょう。

本作でも火に包まれた採掘基地の中で逃げ場を失った男女が、階上へ逃げていきながらも
絶望的な状況の中で所々、火が上がる海の中へ飛び込むか否かでもめるシーンがありますが、
現実的にはその判断が遅れたり、間違えたりすると命を落とすことにつながりかねない、過酷な状況でしょう。
本作はそういった現場の臨場感や緊迫感といったものが、特に映画の終盤でとっても良く描けていると思います。

正直、この映画を観て、ピーター・バーグがかなり映像作家としてステップアップしたように映りましたね。

映画のラストは静かに、事故の無念さや無情感を物語るように幕を閉じます。
ベタな演出ではありますが、実際にこの事故で命を落とした職員たちの生前の写真がなんとも切ない。
事故から僅か6年後の映画化ということもあって、当事者や遺族から映画化に反対の声が上がらなかったのか、
個人的には気になりましたが、どちらかと言えば、遺族の感情として事故を風化させないための映画化という理解が
メインにあったのかもしれませんね。そうでなければ、このラストの写真の数々は提供されることはなかったでしょう。

僕が勤務する事業所も、ゼロ災職場を目標に掲げて、ゼロ災継続日数などを継続していますが、
それでも災害が発生することがあります。事業者の監督責任が強く問われる現代に於いて、
労働災害が多い職場はあらゆる面で信用を無くします。働いてくれる人はいなくなり、取引にも支障がでます。
コンプライアンス重視の現代社会なので取引先のポイントになりますが、大きな労災で供給が止まる可能性があります。

そうなると、サプライヤー管理上、やはり労災が多い職場との取引は控えたいとなるのです。
そういう信用できない労働安全軽視のサプライヤーと取引すること自体がリスクですからね。
本作で描かれたようBP社のようなスタンスは、現代社会の風潮では間違いなく嫌われ、事実上、淘汰されていきます。

災害は思いがけない瞬間、そして忘れかけた頃に起こるものです。今一度、気を引き締めなくては・・・。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ピーター・バーグ
製作 ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ
   マーク・ヴァーラディアン
   マーク・ウォルバーグ
   スティーブン・レビンソン
   デビッド・ウォマーク
原案 マシュー・サンド
脚本 マシュー・マイケル・カーナハン
   マシュー・サンド
撮影 エンリケ・シャディアック
編集 コルビー・パーカーJr
   ガブリエル・フレミング
音楽 スティーブン・シャブロウスキー
出演 マーク・ウォルバーグ
   カート・ラッセル
   ケイト・ハドソン
   ジョン・マルコビッチ
   ジーナ・ロドリゲス
   ダグラス・M・グリフィン
   ジェームズ・デュモン

2016年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
2016年度アカデミー音響編集賞 ノミネート