彼が二度愛したS(2008年アメリカ)

Deception

なんか...映画始まって、すぐは2人でマリファナ吸ってゴキゲンな映画かと思いきや、
ひょんなことから足を踏み入れた会員制の高級秘密クラブの世界を描いていかがわしい映画だなぁと思ったら、
中華街でのミシェル・ウィリアムズの妙に切ない表情をしているのを観て、純愛映画かと勘違い(笑)。

正直言って、最後の最後まで焦点が絞り切れない内容で、
僕はこの映画の見せたいものが一体何なのか、よく分からずじまいでしたね。
そりゃ確かにワイアットの犯罪を描いているのは確かなのですが、全体的にどっちつかずの傾向が強いですね。
(言葉悪く言えば...これは節操の無い映画と言われても仕方ないと思います)

それと、どーでもいい話しなんですが...
ミシェル・ウィリアムズって、この映画撮影当時は28歳だったんですね。10代なのかと思ってた(苦笑)。

まぁ・・・細かいことを突っ込んでも仕方のない内容ではありますが、
色々と謎なエピソードが多くて、特に映画の終盤の展開など、やや納得性に欠けるかもしれません。
そう、意外性の高いストーリー展開というわけではありませんが、やや設定や展開の甘さがあるのは否めない。

ヒュー・ジャックマンが珍しく悪役に挑戦しておりますが、
製作も兼務しているところを見るに、おそらく彼にとって本作は大きな挑戦だったのでしょうが、
残念ながら彼は本作で本来、出すべきであったアブノーマルな魅力を発揮し切れてはいないですね。
彼の役柄は、夜の生活も華やかで、数々の女性遍歴を持っていたわけで、口々に女性も彼のことを良く言う。
ところが具体的に映像として表現されていないため、よく分かんないんですよね、彼がどれぐらい凄いのか(笑)。

劇中、会員制の高級秘密クラブの女性会員として、複数名の女優陣が出演しておりますが、
正直言って、ベテラン女優シャーロット・ランプリングが登場してきたのには驚いた(笑)。

併せて言えば、ナターシャ・ヘンストリッジが最初にお相手する女性として登場してきますが、
さすがに以前のイメージと変わっていて、時の流れを感じてしまいましたねぇ。。。
これからの彼女も、こういった大人の女性としての魅力を活かしていくのでしょうか。

キャスティングも豪華な割りには、イマイチ機能的でないところが悔やまれるのですが、
本作が監督デビュー作となったマーセル・ランゲネッガーはまだまだ課題が多く、発展途上という気がします。

まず、この手のサスペンス映画として画面の緊張感が希薄であるというのは致命的です。
特に映画の後半にある、ジョナサンが某会社の裏金を盗み取るシーンでの緊張感の欠如はいただけない。
一応は音楽で盛り上げようとしてはいますが、これはもっと撮り方や編集で工夫の余地があるところ。
やっぱりサスペンス映画なわけですから、このシーンはもっと手に汗握る展開にしなければなりませんね。

ここで緊張感が出なかったものですから、終盤の本来はスリリングな展開になるべきであったはずの、
ジョナサンとワイアットの攻防も、ハッキリ言って不発なままで終わってしまっていますね。
これではさすがに、本作はアプローチの時点で間違っていたのではないかと疑わざるをえませんね。

そのせいか、ミシェル・ウィリアムズ演じる“S”の心の揺れ動きもひじょうに分かりにくい。
表面的には悪女のように見えても、実は・・・みたいな感じなのかもしれませんが、
どことなく映画を最後まで観ていて感じるのは、一癖も二癖もあるような描かれ方をしているということ。

それは映画の意味ありげなラストシーンのせいなのですが、
どうも彼女の描き方についても一貫性が無く、不透明感があるのが気になりますね。
僕は“S”の役どころが、悪女なのか否か、微妙なラインで描くことは極めて難儀だろうと思います。
(この辺は描き方の方向性を決め切れていないディレクターの問題が大きいと思いますね・・・)

もう一点、気になることは映画全体としての色気に欠けること。
確かに女性から見ると、ヒュー・ジャックマンはセクシーなスター俳優なのでしょうが、
女優陣にもフェロモンがムンムン漂っているような、インパクトの強いシーンを演じて欲しかったですね。

これは別にベッドシーンを見せろとか、そんな下世話なことを言っているわけではなくって、
例えば92年の『氷の微笑』のシャロン・ストーンの足を組みかえるシーンとか(笑)、
75年の『さらば愛しき女よ』のシャーロット・ランプリングの誘惑シーンみたいな、
ある種、映画の見せ場となり得る、インパクトのあるシーンが一つぐらいあっても良かったですね。
ギリギリのところで、モラルに挑まないという、優等生的なポジションを守ったのは面白くなかったかな。

敢えて言うと、この映画はユアン・マクレガー演じるジョナサンの孤独性は良かったかも。
大都会のオフィスで勤務することが多いものの、会計監査員という立場上、他人のオフィスで働くことが多く、
所属する会計監査会社に行くことは少なく、直属の上司も面識が無いという有様。

それに加えて、私生活に於いても友人がほとんどおらず、
アパートの管理人も彼の存在をよく知らない。だからこそ彼は孤独を癒したいわけですね。
そんな心の隙間を上手く表現できていたと思うし、このテーマはもっとクローズアップしても良かったですね。

まぁこの企画はもうチョット経験豊富なディレクターが監督した方が良かったかもしれませんね。
いろいろな意味で、初監督作としては難しい題材の企画だったのではないかと思いますね。

特にニューヨークのジョナサンのアパートでの出来事の後日談は、
前述したように納得性に欠ける部分が多く、もっと上手く撮ることができたと思えるだけに残念ですね。

本作はヒュー・ジャックマンが設立したシード・プロダクションズの第1回製作作品らしいのですが、
これからも映画をドンドン、企画・製作していくようで先々、楽しみですね。
次回は本作の反省を活かして、もっともっとレヴェルの高い作品を見せてくれるものと期待しています。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

日本公開時[PG−12]

監督 マーセル・ランゲネッガー
製作 ヒュー・ジャックマン
    アーノルド・リフキン
    ジョン・パレルモ
    ロビー・ブレナー
    デビッド・ブシェル
    クリストファー・エバーツ
脚本 マーク・ボンバック
撮影 ダンテ・スピノッティ
編集 クリスチャン・ワグナー
    ダグラス・クライズ
音楽 ラミン・ジャヴァディ
出演 ヒュー・ジャックマン
    ユアン・マクレガー
    ミシェル・ウィリアムズ
    リサ・ゲイ・ハミルトン
    マギー・Q
    シャーロット・ランプリング
    ナターシャ・ヘンストリッジ
    ブルース・アルトマン