ロサンゼルス(1982年アメリカ)

Death Wish U

74年に製作され、大きな話題を呼んだ衝撃作『狼よさらば』の続編。

前作で妻子を暴行され、まるで自警団のように単独で私刑を実行するポールを主人公に
前作の惨劇が起きたニューヨークから引っ越し、新たな居住地であるロサンゼルスでも再び悲劇に見舞われ、
ポールの復讐心に火が点く様子を描きます。約8年ぶりの続編で、チャールズ・ブロンソンの代名詞となりました。

何故か音楽をレッド・ツェッペリン≠フジミー・ペイジが担当したことで話題となったようですが、
映画の出来もさることながら、正直言って、ジミー・ペイジの音楽もそこまで印象には残らず、全てが勿体ない。

そもそも個人的には続編として必要だったのかが疑問で、なんとも企画自体が微妙だったなぁという印象。
本作で勢いづいたのか、更に3本の続編が製作され、合計で5作が作られる一大シリーズになりましたが、
シリーズが進むにつれて、ドンドンと映画のB級化が進んでいきましたが、これはメナハム・ゴーランの影響かな。

相変わらずポールの境遇は、あまりに悲惨で直視し難い現実に苛まれている点で同情しますが、
警察は最初っからアテにする様子がなく、まるで運命のように単独で工作活動をして、犯人グループを抹殺していく。

映画で描かれるロサンゼルスが、凄まじく治安が悪い街として描かれてて、
当時のロサンゼルス市長とかから、よく怒られなかったなぁと感心するレヴェルですが、これは絶対に住めない(笑)。
言葉は悪いですが、ポールに絡みにいくチンピラ・グループがあまりに無法者過ぎて、ハッキリ言って狂っている。
多少の集団心理もあるのかもしれませんが、何でもアリな連中で世紀末感が漂う。これは前作と共通する悪役である。
(ちなみにそのグループの中に、駆け出しの頃のローレンス・フィッシュバーンが出演している)

そんな酷い目にあったので、ポールの復讐も情け容赦ない感じで、まるで仕事人のように片付けていく。
それなりに達成感はあるかもしれないが、建築設計士のポールがこうも簡単に“仕事”するのは、少々信じ難い(笑)。

監督のマイケル・ウィナーは、前作『狼よさらば』に続いての監督となりましたが、全体に雑に見えるなぁ。
前作のインパクトに負けないように、過激な描写を採り入れていますがハッキリ言って、それだけって感じがする。
本作ではポールが既に自警的に行動するというよりも、殺しの準備をするために古いアパートを借りたりして、
用意周到に行動を起こしているため、もはや単なる殺し屋のようにしか見えず、ラストにカタルシスを感じることもない。

何が不満かって、ポールの苦しみやジレンマみたいなものが全く描かれていないことですよ。
ポールは殺人鬼でもスーパーマンでもない、平凡な人間であり、ただのサラリーマンであるはずなわけですよ。
そんな彼が怒りにかられたとは言え、ヤバそうな連中を“片付けて”いくわけですから、相応の苦悩はあったはずだ。

それが前作では、怒りにかられて出た行動ではあったものの、いざ殺人を犯したという現実に
突如として嘔吐してしまうという、ギャップが描かれていたのですが、もう一度、同じ反応を描くべきとは言わずとも、
少なからずとも動揺するような描写は欲しかった。そもそもポールが復讐を決断することも早過ぎるように見えたし、
例え警察を頼らずに、単身で復讐することを決意したとしても、それなりの心のギャップやジレンマがあったはずだ。

そういうポールの人間臭い部分を描いてこそ、この物語は成立すると思うのですが、
本作ではすっかり“仕事人”ぶりが板に付いたかのように行動し始めているので、これでは訴求するものも無い。

ストーリーとしても、前作とほぼ全く同じ展開としているので、中身的にも舞台となる都市が違うだけで、
あまり変わり映えがしないわけですから、この第2作にも続編としての特長が欲しかったところですが、
それが映画の冒頭のポールの家の家政婦が強姦されるシーンだとか言われると、それは首を傾げたくなる。
ただ、少なからずともマイケル・ウィナーにその意識があったのではないかとも思えるので、余計な邪推をしてしまう。

相変わらず、私生活での妻だったジル・アイアランドと共演して、ウットリするチャールズ・ブロンソンが印象的だ。
かなりの出演作品でジル・アイアランドと共演しているところを見ると、これはチャールズ・ブロンソンの意向だろう。
『狼よさらば』では彼女は出演していなかったのに、続編になると登場するというのも意外な気がしますけどね・・・。

しかし、個人的には『狼よさらば』の二番煎じどころか、ほぼほぼコピーみたいな内容で
同じことをただリピートするだけの続編に、どんな意味があったのかは疑問ですね。作り手は何を狙っていたのだろう。
おそらくチャールズ・ブロンソンにとっても、思い入れの強い作品だったのだろうから、この出来は勿体ないですね。

ハッキリ言って、物語の舞台がニューヨークからロサンゼルスに移っただけって感じなんですね。
もう少し変わり映えするものが欲しかったのですが、作り手に言わせれば、それはポールがプロの殺し屋の如く、
手際良くチンピラどもを片付けるようになった変貌ぶりが、変化点なんだと言われそうな気がしますけど、
これはこれで違和感がある。せめて、何かしらの訓練をするシーンや勉強するシーンがあっても良かったと思う。

まぁ、前作の時点でポールがやったことは堅気の人間じゃなくなってはいるのですが、
それでも淡々と夜の街を徘徊するようにして、チンピラを見つけては“片付けていく”姿はサラリーマンじゃないですもの。

そんなポールのことを見守る(?)かのように、前作に続いて友情出演的に登場してくるのが、
前作でポールの境遇を知り、彼の自警を悟ったニューヨーク市警のオチョア刑事を演じたビンセント・ガーディニア。
わざわざロサンゼルスまで出張してくること自体、少々、無理矢理な登場に見えましたが、なんか中途半端だったなぁ。
もう少しポールとの絡みが見たかったし、銃撃戦への加わり方もあまりに唐突で、この見せ方はなんだか勿体ない。

そもそもオチョア刑事もポールの恋人の部屋に、勝手にカギを開けて入るとは、ブッ飛んでますよね(苦笑)。

やっぱり第1作の『狼よさらば』が評価された理由って、それなりに社会性あるテーマを内包していたからだと思う。
マイケル・ウィナーがそこまで細かいことを考えていたかは分かりませんが、平凡なサラリーマンが突如として、
直視し難い凄惨な事件に巻き込まれた結果、妻を殺され娘は精神を病むという悲劇に見舞われ、警察がアテにならず
苦悩しながらもひょんなことをキッカケにして、タガが外れたようにチンピラどもを殺し、復讐心を満たす姿を描きました。
どこかドライな空気感に包まれた映画でありながらも、徐々に主人公ポールの中でメラメラと復讐心が燃え始めて、
悩みながらも抑え切れずに行動に出る姿を通して、犯罪被害者の過酷な境遇を描くという社会性があったはず。

それが本作では、完全に凡庸なアクション映画になってしまったようで、
前作のインパクトに負けないようにと過激な描写でインパクトを持たせようと、空回りしているように見える。
だって、前作とほぼ同じことをやる映画で、且つアクション映画というだけなら、ここまでの描写はいらないと思うのでね。

本作はイスラエルの映画製作会社であったキャノン・フィルムズが手掛けた作品であり、
一時期少しだけ流行りましたが、メナハム・ゴーランの半ば手段が目的化するようなアプローチで支持を得ることは
長続きせず、結果的に80年代後半にはキャノン・フィルムズはすっかり低迷してしまい、運営が難しくなりました。
本作なんかはキャノン・フィルムズのスタイルがまだウケていた時代だったせいか、それなりに評価されたのでしょうね。

まぁ、映画の出来は今一つだとは思いましたが、チャールズ・ブロンソンの代名詞とも言えるシリーズになり、
5作もシリーズ化されたということは、シリーズの熱心なファンがいるからこそで、チャールズ・ブロンソン自身も
このポール・カージーを演じることに、大きな意味を感じていたからこそ続いたシリーズということなのでしょうね。

とは言え、このシリーズは単純に悪い奴を見つけては有無を言わさず殺す。
このシンプルさから生み出される爽快感が魅力ということなのだろう。人権派の人には勧められない内容ですけどね。
ただ、治安が悪いとか、被害者感情に傾いて考えると、こういう考え方って全面否定はできないように感じる。
誰だって、ポールのような境遇になれば、自分の手で何とかしたいと考え、行動したくもなるでしょうね。

なんせ、ロサンゼルス市警にあっても、まったくアテにならなさそうな捜査力ですから。
それを悟ったのか、ポールも最初っからロサンゼルス市警の捜査には、あまり協力的な態度をとっていません。
既に復讐を決意していたというのもあるでしょうが、まるで警察の力に全く期待していないことを前提としているようです。

ところで唐突に映画の後半にポールが恋人に結婚を申し込むシーンがあるのですが、
これが正直、全く理解できなかった。この境遇で、いくら愛する女性とは言え、結婚する気になるのだろうか・・・?

(上映時間92分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 マイケル・ウィナー
製作 メナハム・ゴーラン
   ヨーラン・グローバス
脚本 デビッド・エンゲルバック
   マイケル・ウィナー
撮影 リチャード・H・クライン
音楽 ジミー・ペイジ
出演 チャールズ・ブロンソン
   ジル・アイアランド
   ビンセント・ガーディニア
   アンソニー・フランシオサ
   J・D・キャノン
   ロビン・シャーウッド
   ローレンス・フィッシュバーン