狼よさらば(1974年アメリカ)

Death Wish

オイオイ、どんだけ治安が悪いんだよ、ニューヨークは(笑)。

とまぁ・・・初っ端からいきなりツッコミの一つでも入れたくなる内容ではあるのですが、
後にチャールズ・ブロンソンが半ばライフワークのように大切に育み続けた(笑)、
妻と娘を無残に殺害された建築家ポール・カージーのシリーズ、記念すべき第1作。

銃社会に対する強烈なアンチテーゼのように、尚且つ自警主義の考え方も提示した作品なのですが、
確かにこれはシリーズの後作でドンドン、アクション映画と化していったのと比べると、
第1作は予想外なほどにシリアスかつ、ドンヨリとした空気が漂う映画と言ってもいいと思う。

67年に“ヘイズ・コード”が撤廃され、ハリウッドでもかなり過激な描写が可能となり、
本作でも冒頭にかなり衝撃的なレイプシーンがあったり、とにかく容赦がない。
それはチャールズ・ブロンソン演じるポールの自警主義とも言える、強盗に対する情け容赦ない対処にも
まるで同等のことが言えて、とにかく過剰なまでの暴力的な描写が映画にショックを与えます。

それにしても、強盗など街のゴロツキを退治する目的があるとは言え、
故意に危険な地帯に無防備を装って出没し、毎度のように襲われるポールって、なんだかスゴい(笑)。

特に地下鉄でのシーンなんかは、他にも数人の一般人が乗車しているにも関わらず、
何故か新聞を読んでいる彼がターゲットとして選ばれるなんて、ある意味で強運の持ち主だ(笑)。
最初は戸惑いながらゴロツキをやっつける彼も、次第に感覚が麻痺したかのようになります。
まぁ逆説的に言えば、そんなポールの変貌ぶりから、暴力の恐ろしさも描いているんですよねぇ。

問題提起性の高い社会派映画として製作されたようですが、
前述した後年のシリーズ化を考慮すると、作り手はよもやアクション映画と変貌するとは、
本作製作当時は思ってもいなかったでしょうね。ちなみに第2作製作まで、
10年近いブランクがあったということは、続編製作の予定は無かったのでしょうね。

ちなみに本作のラストシーン、シカゴの空港でのチャールズ・ブロンソンの笑顔のショットが印象的だ。

何故か82年製作の第2作ではロサンゼルスが物語の舞台となっているのですが、
ニューヨークで自警主義を提起したポールはシカゴへの転勤を余儀なくされます。

犯罪統計上の考え方の詳しい部分は僕には分からないのですが(苦笑)、
こういった自警主義によって、犯罪発生件数が激減するという現象は理にかなっているような気がします。
経済情勢などのにも影響されるのだろうとは思いますが、警察がアテにならないと悟ってしまったら、
僕も自警主義のような過激な風潮というのが、肯定される社会が誕生する可能性はあると思いますね。

こういったアメリカ社会の病理をイギリスから渡ってきたマイケル・ウィナーが撮ったというのも面白い。

併せて、特にアメリカ社会が抱えている人種差別の問題も微妙に絡んできます。
何故かポールが対峙する犯罪者に黒人が数人登場してくるだけに、
一部の人々はポールがマスコミから称される「アマチュア警官」のことを差別主義者と言います。

音楽はハービー・ハンコックが担当しており、こちらはかなり斬新だ。
映画に合っているか否かは、かなり賛否が分かれそうな気がしますけど(苦笑)、
当時のハービー・ハンコックはマイルス・デイヴィスに影響されて、かなり電子楽器に傾倒しておりましたので、
それまでのアコースティック・ピアノを使った“ド・ジャズ”な楽曲ではなく、かなり斬新なスコアを提供しています。

ちなみにハービーは76年からV.S.O.P.クィンテット≠フプロジェクトを始めていますので、
電子楽器への極端な傾倒はこの時期、特有の現象ではあったのですがねぇ。

この映画の難しいところは、ポールがただ単に報復のために行動しているのではなくって、
絶望してしまったことによって、衝動的にゴロツキを殺害するという理由なき制裁に出るところなんですね。
いや、“理由なき”と言ってしまうと誤解されるかもしれないのですが、妻子に危害を加えられたことに対する
報復行動というわけではないのですよね。これがこの映画をより難しくしていると思います。

誰しも危害を加えられたら、僕は報復願望って必ず生じるんじゃないかと思うのですが、
この映画の主題ってそこにはないんですよね。あくまで犯罪に対する予防的措置というニュアンスが強くて、
誰もできないことを隠密に行って、結果として過激な自警主義という考え方に行き着いているんですね。

日本ではおそらくチャールズ・ブロンソンと言えば、本作でのイメージが強いのではないでしょうかね。
それぐらいに強烈な一作であり、決して売れるのが早くはなかったチャールズ・ブロンソンが役者として、
高い知名度で晩年まで愛されるスターとなる原動力となった作品とも言えると思います。
(事実、チャールズ・ブロンソンが映画スターとして有名作に出始めたのは、40歳前後から)

正直言って、映画の出来はそこまで高くはないと思うのですが、
それでもチャールズ・ブロンソンを語る上では忘れてはならない作品であり、
実際にそうファンに言わせるぐらい、日本でも影響力の強い作品であることに価値があると思います。

ちなみに映画の冒頭でチャールズ・ブロンソンがハワイのビーチで休暇を楽しむシーンがあるのですが、
ここで思わず勢い余ってムキムキの筋肉を披露してしまうチャールズ・ブロンソンが面白かった(笑)。

いくらなんでも、あんな建築技師...そうとう鍛えてる人以外にいないですって(笑)。
思わず、表向きは会社員、裏の顔は特殊部隊...みたいなワケありな人かと思っちゃうほどだ。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マイケル・ウィナー
製作 ハル・ランダース
    ボビー・ロバーツ
原作 ブライアン・ガーフィールド
脚本 ウェンデル・メイズ
撮影 アーサー・J・オーニッツ
音楽 ハービー・ハンコック
出演 チャールズ・ブロンソン
    ホープ・ラング
    ビンセント・ガーディニア
    スティーブン・キーツ
    ウェリアム・レッドフィールド
    キャスリン・トーラン
    ジェフ・ゴールドブラム
    オリンピア・デュカキス