デス・トゥ・スムーチー(2002年アメリカ)

Death To Smoochy

まぁ、これはダニー・デビートらしい大人のためのブラック・コメディ。

子供向け番組のスターだったランドルフという中年のオッサンが、FBIによる囮捜査で収賄の容疑で逮捕され、
番組を降板せざるをえなくなったことから、番組スタッフが新たな主役をランドルフより若いスムーチーという
男性を抜擢したことから、嫉妬したランドルフがあらゆる手段でスムーチーの新番組を妨害しようとする。

そんな中で、子どもへのメッセージを重要視する中で、スポンサーの宣伝を番組内で入れることを主張する
女性プロデューサーと意見が対立する中で、バークという代理人を立てて、番組に自分の意見を反映できるように
画策しますが、実はバークは裏で悪党たちとつながっていて、スムーチーは次第に命を狙われる立場になる。

子供向け番組をメインに据えた作品ではありますが、
結構なブラック・コメディになっているので、映画の雰囲気とは裏腹に、映画の内容は完全に大人向け。

ロビン・ウィリアムス、エドワード・ノートン、キャサリン・キーナー、ダニー・デビートと
当時のハリウッドでもクセ者なキャストを集めた、結構豪華な企画だったのですが、なんと日本劇場未公開作。
これは確かに日本では、ヒットが見込める内容とは言い難いなぁ。この映画で描かれるスムーチーの世界が
そもそも子供ウケするように見えないとか、映画の本筋と関係ないところで疑問に思っちゃうと、もうダメですね。

そういう細かい部分については、求められるとツラい映画だと思います。
逆に言えば、少々ラフな部分を残しつつ、ブラック・ユーモアを中心に攻めるあたりがダニー・デビートらしい。
ただ、例えば89年の『ローズ家の戦争』なんかは映画監督ダニー・デビートとしての真骨頂だとは思いましたが、
あれくらい突き抜けて徹底したものがあれば映画は光り輝くのですが、本作はそこまで徹底したものが無い。

だから、「これはあくまでコメディ映画だから・・・」という開き直りが必要な映画であって、
ダニー・デビートっぽいブラック・ユーモアの良さが分からないと、チョット厳しい企画だと思うのですが、
如何にもアメリカンなギャグやアプローチが主体なので、日本人の感性には響かないタイプの作品のように思います。

女性プロデューサーのノラを演じたキャサリン・キーナーなんかも、もっと出来る女優さんなのですが、
本作ではあまり見せ場を作ってもらえていない感じで、なんだか勿体ないですねぇ。これはなんとかして欲しかった。
せっかくの演技派俳優エドワード・ノートンとの共演だっただけに、ホントにこれは勿体なかったですねぇ・・・。

ロビン・ウィリアムスも丁度、『インソムニア』や『ストーカー』のようにダークな悪役を演じることを
敢えて積極的に行っていたように思える時期だったので、本作のようなキャラクターを演じることになったのでしょうが、
本作は少々、中途半端に映ったかな。もっと突き抜けたようなところがあっても良かったし、いかんせんラストは
ロビン・ウィリアムス演じるランドルフも優しさに触れて、突如として善人になってしまうのだから、突き抜けないのです。

個人的には、もっとドギツく執着する部分があっても良かったと思うし、不条理な結末の方が合っていたと思う。
それが妙に収まりの良いラストに帰結してしまうのだから、なんだか拍子抜けしてしまったというのが本音。
いや、映画の題材としてはダニー・デビート監督作品らしいのですが、もっと突き抜けていて良かったと思うのですよね。

どうせブラック・ユーモアで構成される映画なのですから、最後の最後までブラックに突き抜けて欲しかった。

対照的に従来では、サイコパスを演じることが多かったエドワード・ノートンが、
一転して子供番組への並々ならぬ想いを込めている善人を演じているという、まるで正反対のキャスティング。
これは作り手も狙っていたことでしょう。イメージ的には、主演2人はまるで正反対のキャスティングですからね。

彼が演じたスムーチーを中心に映画が進んでいきますが、
どこかエドワード・ノートンが演じていると、一筋縄でいかないキャラクターのようにも思えて(笑)、
ホントにどこまで純真な男なのか推し量ることが難しいのですが、子供のまま大人になったようなギャングの息子に
優しく接して、渋々ながらもギャングの母親に負けて承諾した、この息子の出演もプラスに変える要領の良さ。
番組で歌うのは、子供たちへの正しいメッセージとなるように本気で会議で主張したりと、徹底した正義漢である。

そんなスムーチーでも、自分の命が狙われる謎の真相を知ると、
つい冷静になり切れず、感情的になって怒ってしまう。ここで彼のサイコパスな一面が出るかと“期待”したが、
この怒りも極めてアッサリしたものである。ブラック・コメディなので、この辺はもっと利用しても良かったかなぁ・・・。

そういえば、キャサリン・キーナー演じる女性プロデューサーのノラとの恋愛は違和感いっぱいだった。
この辺がダニー・デビートの不器用さなのかもしれませんが、このノラがどれだけ本気でスムーチーに恋したのか、
なんだか不透明な感じでして、映画の前半ではなんとか見つけた代役であるスムーチーが番組の会議の中で、
“自分”を見せてきたことに嫌気がさして、フリスビーのようなものを追わせて、部屋から追い出すというくらい
対立していたのに、ノラの予想以上にスムーチーの上半身が勇ましかったからといって、突然、恋するというのは変だ。

僕はこのストーリー展開自体が、ブラック・ユーモアなのかと思っていたのですが、
映画の最後の最後まで観ても、なんだかノラがの魂胆が見えない終わり方になっているので、
これはブラック・ユーモアというわけではなかったのかもしれない。とすると、余計に謎がストーリー展開で
観終わった後に、映画全体を考えると、ノラとスムーチーのロマンスはホントに必要だったのか?と疑問に思う。

まぁ・・・日本で言えば、今の“E−テレ”の番組の裏側を描いたような作品だ。
僕が子供のときも、当時は“NHK教育テレビ”と呼んでいましたが、たくさんの幼児向け番組をやっていましたし、
午前中にやっていた15分番組は、何回か小学校の授業中に教室のテレビで見させられた記憶があります。

この映画で描かれたほどに、内幕がドロドロとした人間模様があるのかは分かりませんが、
現実には色々とあるのでしょう。実際に素人の子どもがテレビに映るところで遊ぶみたいな番組もありましたしね。
我が子が出演するのであれば、どの位置でどれくらいの時間映るとかで、もめることもあったのかと思います。

出演者同士のイザコザよりも、むしろこういうママドルなどの主張の強い親が絡んで起こる騒動を描いた方が
映画としては面白くなったかもしれませんね。あくまでコメディ映画であるということを踏まえると、尚更のこと。

まぁ、映画の出来は今一つな部分も多くあり、この贅沢なキャスティングも活かし切れてはいないけど、
それでも日本劇場未公開作の扱いで終わってしまったのは残念だ。このキャスティングだけでも人が呼べるのに。
前述したように、もっと突き抜けたものが欲しかった。映画自体に効果的なインパクトが無くって、どこか物足りない。
嫉妬したランドルフがもっと真剣にスムーチーの命を狙わないと、映画はグッと盛り上がってこないですよね。

同じダニー・デビートの監督作品の『ローズ家の戦争』は、夫婦ゲンカがいつしかエスカレートし、
お互いの命が危機に瀕するほどの激しい闘いになるというのをブラック・ユーモアを交えて描くという、
言わば大人同士の子供っぽい争いを真剣に真正面から描いたことで、ブラック・ユーモアが映えたと思うのです。

でも本作で描かれるスムーチーに嫉妬したランドルフの姿には、そこまでの激しさはないし、
何よりバチバチ、ヒリヒリとした緊張感が漂う瞬間もないのですよね。これが無いと、コメディ・パートも映えない。

そういう意味では、やはり監督のダニー・デビートの狙いが、僕には今一つ見えてこなかった。
それでいて、サブ的なエピソードにもさほど魅力的なものはなく、どこか表層的な印象を受けたことは否めない。
ただ、あくまで企画として、これだけの豪華キャストが集まったのは、ダニー・デビートの人徳だと思うんですよね。
だからこそ、勿体ない作品だと思う。正直言って、監督は他の人に任せれていれば、映画は変わっていたと思う。

これでオシャレな映画だとか、洗練された会話劇だとかならまだしも、そんな映画でもないしなぁ〜。。。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ダニー・デビート
製作 アンドリュー・ラザー
   ピーター・マクレガー=スコット
脚本 アダム・レズニック
撮影 アナスタス・N・ミコス
音楽 デビッド・ニューマン
出演 ロビン・ウィリアムス
   エドワード・ノートン
   キャサリン・キーナー
   ダニー・デビート
   ジョン・スチュワート
   パム・フェリス
   ハーベイ・ファイアスタイン
   ビンセント・スキャヴェリ
   ロバート・プロスキー