デッドマン・ウォーキング(1995年アメリカ)
Dead Man Walking
この映画とどう向き合うかは...自分にとっては、スゴく難しかったなぁ・・・。
正直に白状すると、僕は死刑制度に反対というわけではない。
そのせいか、若干のバイアスがかかった見方になっているのか、本作があまり中立的なものに見えなかった。
いや、とは言え...映画の出来としては悪いものだとは思ってないので、それで向き合うことの難しさに直面する。
ただね・・・僕はどうしても本作が描いたことに賛同できないんですよ。た
それは死刑囚の最期を敢えて描くこと。これは衝撃作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も同様だったのですがね。
ただ、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とは主旨が異なっていて、本作の場合は“限りなくクロ”という死刑囚ですからね。
凄惨な犯罪に遭った被害者がいるというのに、このように死刑囚の最期を敢えて描き、
強いメッセージを発するあたりを見ると、どうしても政治的にも扇動的な映画だなぁという印象が拭えない。
勿論、死刑囚にも家族がいて、人権もあるということは分かっている。しかし、被害者がいることを忘れてはならない。
いろんな被害者家族がいて、死刑制度に反対する人もいるだろうし、死刑執行を直視できない人もいると思う。
死刑執行によって被害者が帰って来るわけではない。しかし、法治国家のもとで許される最大の刑罰でもあるのだ。
冤罪はあってはならないし、裁判もしっかりとやって、拙速に死刑を判決することもできないと思う。
特に昨今の裁判員裁判などを見ていても、被告人に死刑を宣告するというのは、とても重たい判断だと思う。
それゆえ、誰でも簡単に出来る裁定ではない。よく言う、“見せしめ”にもならないと思う。特に殺人は感情で動くから。
加えて言うなら、刑罰が厳しい国が必ずしも“見せしめ”が機能して、犯罪率が低いかと言われる、そうでもない。
それでも僕は死刑制度自体は残すべきだと思う。ハッキリ言って、被害者遺族の想いに報いる刑罰として
死刑制度が残っているのならば、まだ納得性はある。それで遺族の気持ちが晴れるわけではないが・・・。
監督は俳優のティム・ロビンスであり、本作は92年の『ボブ★ロバーツ』に続く彼の第2回監督作品である。
死刑囚に寄りそうシスターを演じたのは、ティム・ロビンスの私生活のパートナーであるスーザン・サランドンだ。
彼女はキャリアの長い女優さんでしたが、本作での熱演が認められて、初のオスカーを受賞することになります。
確かにスーザン・サランドンもショーン・ペンも賞賛に値する芝居だとは思います。
ただ、どうしても僕には限りなくクロであるように描かれ自供も伴った、死刑囚の死刑執行をそのまま描くことは
受け入れ難いのですよね。どうしても作り手の死刑反対の主義主張、強いメッセージ性だと感じ取ってしまうから。
僕は死刑制度反対を主張する意見も全否定はしません。「死をもって償う」ということも論理的だとは思わないし、
例えば人の命を殺めた殺人犯を、死刑に処する刑罰として人を殺めることを容認するジレンマも感じることはある。
それでも自分が死刑制度は残すべきだと考えるのは、どこまで被害者感情に拠れるのかということだ。
できるだけ、自分の信条でバイアスがかかって、映画を観ることは避けたいといいのが自分の本音なのですが、
あらためて本作を観て感じたのは、どうしても死刑囚の最期を描く映画というのは、自分には受け入れ難いということ。
ただ、ティム・ロビンスは彼なりにできるだけ死刑制度の是非について中立的に描こうとしていたとは思う。
それは犯罪被害者の本音に強くクローズアップしており、一方的な視点で描かないように配慮しながら、
この被害者の意見も否定的には描いていない。ですので、少なくとも映画の終盤までは中立的に描いている。
ヒロインのシスターと妻と離婚するに至ってしまった被害者の父親との交流などは、結構良かったと思うのでね。
だからこそ、映画の終盤に死刑執行を真正面から描いてしまうことで、この中立性がブレてしまったように見える。
それは主人公でもあるシスターが、彼女の本意までは分からないけれども、
死刑囚から乞われて、彼の精神カウンセラーとして活動することになるわけで、死刑執行の日はずっと一緒にいる、
という死刑囚に寄り添う立場になるという姿を描くわけですから、最終的には偏らざるをえない部分があったはず。
なので、僕は死刑執行を敢えて描かずにヒロインがどう彼と接し、どう感じたかだけを描いた方が良かったと思う。
クライマックスの死刑執行シーンはティム・ロビンスなりに力を入れたシーンだったのだろうけど、
これが逆に足枷になってしまって、余計なバイアスがかかってしまう結果になってしまった気がしましたね。
本作の原作者である修道女のヘレン・プレジャンが、死刑反対論者なので余計にそう感じてしまうのかもしれませんが。
矛盾したようなことを言いますが、映画の出来としては優れたものだと思っています。
ティム・ロビンスは優れた演出手腕が持っていることを証明したと思うし、主演俳優2人のぶつかり合いを
見事に引き出したとも言えますし、もっと評価されていい作品だとは思います。本質的には魂の救済を描いており、
だからこそ、死刑囚の最後に寄り添い、被害者家族と共に教会で祈るのだろう。一見すると、矛盾する行動だ。
だが、これは矛盾ではなく、ティム・ロビンスがホントに描きたかったのは死刑制度の是非ではなく、
人々の精神にどう寄り添うかということであって、魂の救済ということにフォーカスしたかったのだろう。
だからこそ、僕にはどう見ても、クライマックスの死刑執行シーンが余計なものにしか見えなかったのですよね。
共犯者が死刑になっていない不条理があるとは言え、この死刑囚は犯行を自供しているので尚更のこと、
それでも死刑執行を描くとなれば、どうしても死刑反対の方向にバイアスがかかってしまうことを避けられない。
ヘレン・プレジャンの原作の映画化ですので、ここは変えられなかったのかもしれませんが、僕の中ではとても大きい。
タイトルになっている“Dead Man Walking”とは、死刑執行の際に看守が言う定番の言葉らしくて、
この看守の台詞が映画の中でも響き渡ってましたが、まるで殺人者であるかのように描かれているように見える。
仕事とは言え、看守や刑務所職員だって、死刑執行を進んでやりたい人なんて少ないだろうし、躊躇だってするだろう。
精神的に負担の大きな仕事であるけど、それでも法制度として存在し、犯罪被害者の処罰感情がある以上、
彼らだって覚悟を決めて仕事に臨んでいるのだろう。バランスを整えるなら、こういう部分も描いて欲しかった。
こういう映画は偏った内容の映画だという印象を与えてしまうと、やっぱり僕は勿体ないなぁと思うのですよね・・・。
しかし、このアプローチはティム・ロビンスも勇気のいるアプローチだったと思いますよ。
半ば自暴自棄になったように粗暴に振る舞い、反省の無い態度や言動であった死刑囚に寄り添うということ自体、
なかなか共感を得られることではないし、死刑制度の是非については世界的にも多く議論されていますしね。
この内容は本国アメリカでも賛否が分かれる内容だと、製作当初から容易に予想されることだったでしょうしね。
日本でも本作に対して多くの議論がなされ、死刑制度の是非について考えた観客も多くいたことでしょう。
個人的に本作を観ていて気になったのは...
ヒロインの修道女が死刑囚からの手紙にどう思って精神カウンセラーを務めようと思ったのだろうか?ということだ。
本作は具体的には言及してませんが、彼に冤罪の可能性があると思って依頼を受けたのか、なんとも言えないですね。
政治的な主義主張が強い映画になると、シスターが自ら犯罪の中身を調査し始めたりするのでしょうけど、
本作は決してそのようなストーリー展開には陥らず、あくまで淡々と修道女と死刑囚の交流を描いています。
そんな中で周囲には強がっていた死刑囚も、少しでもヒロインと連絡がとれなくなったら、精神的に不安定になります。
同じ刑務所に収容されている他の死刑囚の処刑が、次々と執行されていく現実に恐怖すら感じているようです。
確かに実際にも、こうして死刑囚も少しずつ精神的に追い詰められていくことはあるようです。
要するに、自分の死刑執行がいつになるのか、突然訪れることへの恐怖。これも含めて、言わば刑罰なのだと思う。
心の準備ができないことへの苛立ちを隠せず、死刑囚はヒロインにカウンセラーになるように依頼したのです。
しかし、これを引き受けることはヒロインにとっても大きな挑戦であり、半端な覚悟では出来ないはずです。
だからこそ、ヒロインが何故この依頼を引き受けたのかは、実は本作の大きなポイントになるべきことだったと思う。
ところでヒロインが被害者遺族の話しを聞きに行きたいと、女の子の被害者の夫婦の家に行きますが、
この被害者の夫婦はてっきりヒロインが精神カウンセラーの依頼を断わるものだと思い込んで自宅に上げたのに、
実はそうではないと知り、態度を豹変させる父親を演じたのは『フルメタル・ジャケット』のR・リー・アーメイなんですね。
どこかで観たことがあるような気がすると思っていたのですが、なかなかすぐには結び付きませんでした(苦笑)。
(上映時間122分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 ティム・ロビンス
製作 ジョン・キリク
ティム・ロビンス
ラッド・シモンズ
原作 ヘレン・プレジャン
脚本 ティム・ロビンス
撮影 ロジャー・A・ディーキンス
音楽 デビッド・ロビンス
出演 スーザン・サランドン
ショーン・ペン
ロバート・プロスキー
レイモンド・J・バリー
R・リー・アーメイ
セリア・ウェストン
ロイン・スミス
スコット・ウィルソン
ロバータ・マクスウェル
ジャック・ブラック
1995年度アカデミー主演男優賞(ショーン・ペン) ノミネート
1995年度アカデミー主演女優賞(スーザン・サランドン) 受賞
1995年度アカデミー監督賞(ティム・ロビンス) ノミネート
1995年度アカデミー主題歌賞(ブルース・スプリングスティーン) ノミネート
1996年度ベルリン国際映画祭主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
1995年度インディペンデント・スピリット賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞