デイズ・オブ・サンダー(1990年アメリカ)

Days Of Thunder

正しく命がけでスピードを競うストックカー・ドライバーの壮絶な闘いを描いた、アクション映画。

88年の『デッドカーム/戦慄の航海』を観てニコール・キッドマンに一目惚れしたトム・クルーズが、
本作のヒロインとして自らご指名したようで、私生活でもその後、結婚するという展開になりました。
以降、トム・クルーズとニコール・キッドマンの夫婦は、離婚するまでに3作品で夫婦共演することになります。

本作は典型的なトム・クルーズの映画という感じですが、僕はこれはこれで好きですけどね。
確かに『トップガン』ほどエキサイティングな映画というわけではないし、スケジュール通り撮影できた映画ではなく、
色々とトラブルに見舞われて予算が大幅に超過した作品だったようですが、そこそこ面白いですけどね・・・。

かつてベテランの名ドライバーが事故死してしまったことをキッカケにリタイアしていた
名うてのレーシング・カーの整備士ハリーが、農家に転じていたところ、自動車ディーラーのティムから、
ストックカー・レースの整備士としての復帰を打診されるところから、映画が始まります。
ハリーが依頼されたドライバーは、色々なトラブルに見舞われて、フォーミュラーカーのレーサーとしての
道を閉ざされた若きレーサーのコール。車のことは全く分からないが、運転の腕はピカイチでとにかく速い。

車の能力の限界を知ってこそと考えるハリーは当初、無茶な運転しかしないコールと対立し、
コールも幾度となく激怒しますが、いつしか分かり合えた2人は名コンビぶりを発揮し、ライバルのラウディに肉薄する
レース展開に持ち込むことができるようになり、有望視される存在となっていくものの、あるレースでラウディと共に
大クラッシュを経験し、コールもラウディも重傷を負います。そこでコールは担当医の女医ルイッキに一目惚れ。

レーサーとしての復帰の判断がルイッキに一任されたことで、一気にコールとルイッキの距離は縮まります。
一方、家庭ある身のラウディは体調の異変に脅え、再検査に応じなかったことで、事態が悪化していきます。

90年代後半以降のトニー・スコットの監督作品であれば、トリッキーな映像表現とスピード感溢れる演出で
独特な仕上がりとなっていたことでしょうが、本作はオーソドックスというか、『トップガン』のカー・アクション版って感じ。
奇をてらった部分はないし、割りと落ち着いたカメラワークに徹していて、良い意味で画面がうるさ過ぎない。
『トップガン』の二番煎じと言われれば、それは否定できないけど、僕はこれはこれで良いのではないかと思います。

脚本がロバート・タウンという意外な人が書いた筋書きということもあってか、
映画が始まった後は、単にコールがストックカー・レースでハリーの整備のもとに腕を上げて、
嫌味な性格のライバル、ラウディを倒すことだけに執着する映画なのかと思えるところを、途中から恋愛も絡めて、
いつしかラウディと精神的な落ち込みを共有し、ラウディの夢を託され、彼のためにレースに出るみたいな
熱い友情をベースにした映画に変貌していくというのが、僕の中では予想外の展開で、これは楽しかったですね。

コールとルイッキのロマンスに関しては、僕の中ではマイナス。
と言うか、これは必要ないでしょう。この手の映画と言えば、派手なアクションと美女との恋愛みたいな
ハリウッドの悪しき教科書に洗脳され過ぎているのか、ただ単にトム・クルーズがニコール・キッドマンと
イチャつきたかっただけなのか、真相はよく分かりませんが、ルイッキの存在が男性でも映画は十分に成立する。

そういう意味では、ダメなんで、僕の中ではイーブンなところがあるかな。
ニコール・キッドマンもハリウッド・デビューができるから良かったのかもしれませんが、よくこんな役で怒らなかったなぁ。

まぁ・・・この映画はトム・クルーズとロバート・デュバルの絆を描いた作品なのだろうから、
この2人が目立つことは当然ですが、助演陣としてラウディを演じたマイケル・ルーカーがなかなか印象的だ。
元々の顔のせいでもあるけど、どこか意地悪い性格で、コールを挑発して公道でもレースしちゃう不届き者だ。
でも、映画の終盤では自らの状況の現実をなんとか受け止め、コールに自身の想いを託す姿がなかなか熱い(笑)。

しかし、そんなコールもラウディの挑発に乗って、公道でレンタカーがボロボロになるまで走らせるし、
愛するルイッキを助手席に乗せて、後ろからクラクションを鳴らしてきたタクシーに激怒して我を忘れて、
タクシーを猛スピードで追い回して、車をぶつけるなど、現代で言う反社会的な行動に出てしまう身勝手さがある。

これはルイッキも激怒しますが、あれだけコールが暴走して、それでも警察に突き出さないのは、なんだか変(笑)。
まぁ・・・それでは映画が成立しないのでしょうけど、現代の感覚からいけば、完全に“アウト”な行動ですからねぇ。

だって、まんま煽り運転だし、典型的な危険運転ですからね。ましてや車、容赦なくぶつけていますし。。。
あれだけ目の前でコールの蛮行を見せつけられたルイッキが、一度は怒ったものの、何故にそんなにすぐに
気が変わってコールに歩み寄るのかは理解できませんが、その辺がトム・クルーズの映画ということなのでしょう。

そう思って観ると、やたらとニコール・キッドマンが積極的にトム・クルーズにキスするシーンがあるので、
それだけ、そこそこの腕の女医で充実した生活を送るルイッキが、ワイルドなコールに惚れていたということなのかな。

それにしても、映画の中ではレーサーの特殊事情にも触れられている。
やはり常に死と隣り合わせにいるという職業柄、一度強いトラウマを持つと、なかなか克服できない。
それを乗り越えてこそ...なのだろうけど、本作ではそのトラウマを乗り越えることの難しさについては語られている。

それから、これはハリーが言っていたことで、現実にそうなのは知りませんが、
レーサーは葬儀に参列したがらないということ。「明日は我が身」という思いから、他人の葬儀に参列できる
精神状態ではないようだ。これは確かにそうなのかもしれない。怖さを知っているからこその、レーサーの現実でしょう。

おそらく本作でトニー・スコットは、そういった死との境界線に生きるレーサーの孤独と、
それを乗り越えてゲットする勝利の尊さについて、エンターテイメント性を持って描きたかったのでしょう。
ジェリー・ブラッカイマーもドン・シンプソンも、ハリウッドで羽振り良くやっていた頃のプロデュース作品ですしね。
でも、それは不完全燃焼。「一歩間違えたら死ぬ」という究極な緊張感と闘うドライバーというのは、チョット甘い。
エンターテイメント性に関しては、さすがに申し分のないところなので、もっとダークな部分は描いても良かったと思う。

僕はストックカー・レースという競技自体を、あまり強く意識して観ていなかったせいか、
後からピクサー・アニメの『カーズ』とかもそうなんだと気づきましたが、彼らが抱く恐怖と孤独というダークサイドは
あまり考えたことがなく、過去の映画の中でも本作がここまで言及してきたのが、初めてなのかもしれません。

ただただトム・クルーズのアイドル映画というだけではなく、十分に楽しめる内容ではありますし、
やはりスピード感を表現するという意味では、トニー・スコットがトップレヴェルの手腕であったことを証明してますね。
幾度となく登場する、ストックカー・レースのシーンではアウトから果敢に抜こうとするスリルが実に秀逸なものだ。
編集の上手さもあるとは思うけど、やっぱりこういう映画を撮らせたら、トニー・スコットの右に出る者はいないですね。

まぁ・・・悪い映画ではないと思うのですが、いかんせん順番が悪かった。
僕は本作がトニー・スコットとトム・クルーズのコンビで撮った映画という前提で考えると、
仮に『トップガン』より先に本作が撮られていたら、本作に対する評価は違っていたのではないかと思っている。
(本作に『トップガン』ほどのカリスマ性はないので、「また、一緒に映画を作ろうぜ!」とはならなかったかも...)

ただ、どうでもいい疑問なのですが...
いくらレーシング・ドライバーはあくまで、運転のプロとは言え、何も車のメカニックなことが分からないとか、
どうしたらエンジン・トラブルにつながる運転なのかを理解していない、という設定は“有り”なのだろうか?(笑)

普通に考えたら、命がけのレース競技の参加者として、ありえないと思うんだけれども。。。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 トニー・スコット
製作 ドン・シンプソン
   ジェリー・ブラッカイマー
原案 ロバート・タウン
   トム・クルーズ
脚本 ロバート・タウン
撮影 ラッセル・ウォード
音楽 ハンス・ジマー
出演 トム・クルーズ
   ロバート・デュバル
   ニコール・キッドマン
   マイケル・ルーカー
   ランディ・クエイド
   ケーリー・エルウェス

1990年度アカデミー音響賞 ノミネート