ダーク・シャドウ(2012年アメリカ)

Dark Shadows

かつて全米で人気を博したTVドラマ・シリーズの映画化だそうですが、
これは個人的にはあまり楽しめなかったなぁ。やっぱりティム・バートン、チョット視点を変えて映画を撮って欲しい。

まぁ、酷い出来の映画というわけでないのだけれども、
どうも何もかも、ゴシック調の映画にしてしまうという時点で、多くの映画ファンに飽きられていることに加え、
例えば『ビートルジュース』や『シザーハンズ』の頃のように、純粋に楽しませようという意図よりも、
ある種のティム・バートンのブランド力に頼ったような映画というか、彼のファンだけに向けられた映画に見える。

70年代という刺激的な時代のメーン州の田舎町に、
200年の眠りから覚めたヴァンパイアが現れて、同じく200年前に対決した魔女と共に
暴れるという物語の設定自体は、なかなか面白いし、ユニークなものだったと思います。

けど、オリジナルを尊重しなければならないとは言え、ヴァンパイアと魔女の対決の舞台を
どうして200年前から続くお化け屋敷のような邸宅にしてしまったのだろう? そのまま素直に70年代の家を
舞台にした方が面白くなった気がするのですが、この辺がやっぱりティム・バートンの世界なのでしょうね。

そこに主演がお馴染みのジョニー・デップで、塩塗りのメイクでヴァンパイアを演じさせるのですから、
どこか既視感があるというか、良い意味で予想外の魅力が生まれた作品にはならなかったのが残念ですね。

それに、名家コリンズ家の屋敷を守るエリザベスにミシェル・ファイファーをキャスティングしたのに、
せっかくのジョニー・デップとの初顔合わせが、不発に終わった感じで残念。あまり2人の見せ場が無かったですね。
ジョニー・デップはティム・バートン監督作品の常連ですが、ミシェル・ファイファーとティム・バートンと言えば、
何と言っても92年の『バットマン リターンズ』であり、忘れられない名キャラクター、“キャットウーマン”だ。

そういう意味でも、ティム・バートンの中で本作の雰囲気にあう女優さんとしてイメージがあったのだろうけど、
どうせなら中途半端に演じさせるよりも、彼女にも魔女を演じさせて、ド派手に暴れさせて欲しかった(笑)。

ヘレナ・ボナム=カーター演じるホフマン博士にしても、あまりに中途半端な役どころで勿体ない。
思わず、結局は下ネタのために出演させたのかって言いたくもなるぐらい、扱いが悪いように思える。
私生活ではティム・バートンの長年のパートナーでしたが、2014年に破局したそうです。
まぁティム・バートンの監督作品の常連でもあったので、なんだか寂しいですが、いつも同じような役でしたからねぇ。

彼女は一時期、実力派女優として注目を浴びていたので、
正直、ティム・バートンの監督作品でいつも似たような役を演じるというのは、彼女にとっては勿体ないことだったかも。

エヴァ・グリーンは元々、注目されていた女優さんでしたけど、
映画最大の見どころは、ジョニー・デップ演じるヴァンパイアとのラブシーンというのもチョット・・・(苦笑)。
やっぱり、こういう女優さんたちを無理にティム・バートン色に染めようとしているように、どうしても観えちゃうんですよ。

なかなか存在感ある女優さんなだけに、今後の活躍に期待したいところですが、
本作はもう一人、コリンズ家のティーンエージャーの娘を演じたクロエ・グレース・モレッツに注目ですね。
70年代の雰囲気かと言われるとチョット違うとは思うけど、眼差しが印象的な女優さんですね。
ひょっとしたら、この後、スゴい女優さんになるかもしれない・・・と思わせられるぐらいのオーラを感じました。

但し、彼女に関する“秘密”は完全に蛇足。この“秘密”は描く必要無かったと思いますね。

というわけで、この映画のキャスティングはなかなか豪華だと思うんです。
ただ、やっぱりティム・バートンの“味付け”が単調、かつ既視感に溢れている感じで、どうもイマイチだ。
この辺は正直言って、もうずっとティム・バートンの監督作品で続いて感じられることなので、そろそろ打開したい。

それからもう一点。映画の方向性もどこかハッキリしないことも残念。
おそらくダーク・ファンタジーを基調として、それをコメディのエッセンスを交えて描きたかったのだろうけど、
どこか映画の最後の最後まで、ハッキリとしない感じで、全てに於いてどっちつかずで終わってしまった感じですね。

ヴァンパイアと魔女の戦いの構図は映画の序盤から明らかではあったのですが、
映画の序盤から前置きが長くって、終盤のクライマックスに入っていくまでが、異様に長く感じましたね。
映画のテンポも悪く、全体としてのスピード感に欠けたせいもあると思います。アリス・クーパーに本人役で
出演させたこと自体はスゴいけど、これもアリス・クーパーには悪いけど、ほぼ意味の無いゲスト出演なんだもの。
(もう少しインパクトのある、印象に残るシーンで登場させて欲しかったなぁ・・・)

それから、忘れてはならない漁師の名士を演じたクリストファー・リー!
残念ながら本作出演の後に他界されてしまいましたが、彼こそ元祖ヴァンパイアですからね(笑)。
撮影当時、かなりの高齢でしたが、ホントにいろんな人の生き血を吸って、生きているのでは?と
思えるぐらいの貫禄で、クリストファー・リーに出演してもらえたのは、ティム・バートンも嬉しかったでしょうね。

不老不死を得たヴァンパイアの生き血を輸血して、不老不死を得たがる人間に、
不老不死の魔法をかけられて、不老不死を捨てて人間に戻りたがるヴァンパイアというのは面白い。

僕自身、よく「自分が生まれる前、(自分は)なんだったんだろ・・・」と答えが絶対にでないことを
考え込んでしまうことがあるのですが、一方で「生物は死んだらどうなるんだろ・・・?」と思うことがある。
あまり深く考えすぎてしまうと怖くなるのでほどほどでやめますが(笑)、誰しも一度は考えたことがあるかと思います。

不老不死って、生物の進化論からするとありえないことだから、
おそらく達成することができない領域なんだろうけど、アンチ・エイジングって“その方向”の発想ですよね。
健康に生きているうちは、「死にたい」と思うことはないだろうけど、不死って、冷静に考えると恐ろしいこととも思う。

そら、自分なんか、「ついこの前まで自分は高校生だったのに・・・」と思っているような人間ですから、
老いることを内心、歓迎しているわけではないですけどね。でも、生物は命を宿した時点で死に向っていくわけで、
「始まりがあれば、必ず終わりがある」という自然の摂理に従っていくことには抗えないと思うしかありません。

この映画ではホフマン博士がヒッソリとヴァンパイアの血液を輸血しようと画策します。
仮に自分だけ不老不死をゲットしたとしても、それはそれで嫌なものだと思いますね。
だって、周囲が老いて死んでいく中で、自分だけ老いず死なないわけですから。次第に孤独になっていきますよね。

永遠のテーマとも言える不老不死ですが、いざゲットしたらしたで、大きな苦悩がありそうです。
終わりがあるからこそ、楽しみがあるという見方もできなくはないと思いますね。死生観って、国や宗教によって
違うものですが、どうしても残される者の論理で言いがちになるので、死を後ろ向きに捉えがちですが、
死を前向きに捉えることの尊さってあると思っていて、自ら命を絶つことを肯定するつもりはありませんが、
それでも人生を全うした者であるならば、死を前向きに捉えることは必要なことと思いますね。

そういう意味で、不老不死を放棄したくなるというのは、ごく自然なことなのかもしれません。
みんなが不老不死だったら、それは理想郷かもしれませんが、それ以上、人口は増やせませんね。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

日本公開時[PG−12]

監督 ティム・バートン
製作 リチャード・D・ザナック
   グレアム・キング
   ジョニー・デップ
   クリスティ・デンブロウスキー
   デビッド・ケネディ
原案 ジョン・オーガスト
   セス・グレアム=スミス
脚本 セス・グレアム=スミス
撮影 ブリュノ・デルボネル
編集 クリス・レベンソン
音楽 ダニー・エルフマン
出演 ジョニー・デップ
   ミシェル・ファイファー
   ヘレナ・ボナム=カーター
   エヴァ・グリーン
   ジャッキー・アール・ヘイリー
   ジョニー・リー・ミラー
   クロエ・グレース・モレッツ
   ベラ・ヒースコート
   クリストファー・リー
   ガリー・マクグラス
   ウィリアム・ホープ
   アリス・クーパー