オーメン2/ダミアン(1978年アメリカ)
Damien : Omen U
76年に製作され、世界的大ヒットとなった名作『オーメン』の続編で、
第1作完成時点で三部作とすることは決定していたらしく、その期待に応えるべく作られたシリーズ第2作。
前作で監督したリチャード・ドナーは『スーパーマン』を監督する仕事をバッティングしていたため、
本作では俳優出身で『新・猿の惑星』を撮ったドン・テイラーに監督は交代。これが裏目に出たのか、映画は少しB級。
前作でソーン大使役を断ったウィリアム・ホールデンが、グレゴリー・ペック演じるソーンの弟役で出演し、
相変わらずベテラン俳優を主演にキャストする企画となりましたが、正直言って映画の出来は前作に遠く及ばなかった。
ショッキングな演出や、映画の基本的な構成は第1作を踏襲しているので、目新しいものは無くなってしまいましたね。
ただ、そうなだけにドン・テイラーの演出に前作のリチャード・ドナーほどの新しさが無くなってしまい、
三部作になることが決定していただけに、前作の良さを殺さないようにしようとする意図ばかりが強くなったように思う。
これは正しい選択だったのでしょうが、一方では前作を超えることが果てしなく難しいアプローチになってしまいました。
第1作ほどのグロテスクさは感じられませんが、悪魔の申し子であるダミアンが青年期に差し掛かって、
自身の運命を自覚して、それからは結局は邪魔者を能力を使って排除していく姿を、どこか物悲しく描いている。
アイスホッケーしていた氷結した湖で、一緒にホッケーしていたオッサンが湖に氷が割れて転落してしまい、
必死になって子供たちも助けようとしますが、ドンドン氷の下を流されていく描写なんかは、地味に恐怖感抜群だ。
そして、前作の首チョンパを模したように、本作ではダミアンの血液検査結果に疑問を持った医師が病理診断を行い、
ダミアンの非人間性を発見してしまいエレベーターで、トンデモないことになってしまう残酷描写もショッキングではある。
でも、どこか映画の雰囲気のせいなのか、第1作の二番煎じ感が強くなってしまったのか、安っぽく見えてしまう。
贔屓目に言えば、この時代なりのB級感というわけですが、この辺は作り手の意図だったのかは疑問に思えてしまう。
ヒッチコックの『鳥』ばりにカラスが襲い掛かるシーンなんかも、頑張ってはいるけど・・・
その全てが結論としては、第1作のインパクトを超えることがなかった。これは宿命的なものかもしれませんが、
僕は映画の方向性として第1作を無理に踏襲しようとしない方が良かったのではないかと思ったというのが本音でした。
やっぱりドン・テイラーなりの新しさ、というのを求めるべきだったと思うし、
オカルト・ホラーな空気感も必死に出そうとしているのは分かるけど、大きな特徴を打ち出せずに終わってしまった。
これならば、映画史に残る“イナゴの大群”のシーンを撮った『エクソシスト2』のジョン・ブアマンの方が偉かったと思う。
まぁ、強いて言えば、この映画の特徴と言えば最後のドンデン返しとも言うべき、驚愕の真実なのかもしれない。
このオチは読めなくもないのだけれども、用意周到に作り込んだラストでもあって、この流れは良かったと思います。
個人的には第1作にはあって、本作以降の続編で無くなってしまったのは、ダミアンの無邪気さだと思う。
実は第1作はそのダミアンの無邪気さこそが観客に恐怖を植え付けていたわけで、狙いがよく分からない恐怖に
何を考えているのか分からない幼児期のダミアンの笑みなど、映画の随所でダミアンの無邪気さを利用していました。
ところが本作以降はすっかり“そんな感じ”ではなくなってしまい、どちらかと言えば、ダミアンも苦悩するようになります。
まぁ、ある種のダミアンの成長をテーマとして扱っているので、それは人としては自然なことなんだけれども、
何をしでかすか分からない、超常現象をも起こすダミアンの邪悪な部分を観客に意識させているからこそ怖いので、
それが青年期に差し掛かって苦悩気味に葛藤するダミアンという設定になってしまうと、どうしても難しくなってしまう。
ですから、本作でもダミアンは義理の家族に育てられて、経済的にも愛情的にも満たされた生活の中で
同じ年の従兄弟と生活を共にするようになり、自身の運命を知ってしまって動揺し、彼なりに苦悩する姿が描かれる。
クドいようですが...これはダミアンが普通の人間ならば、それで良かったと思うのです。
しかし、ホラー映画としての側面としてダミアンは普通の人間ではないわけですから、これがメインになると苦しい。
まぁ、第3作への伏線でもある作品ですので、当然として大人になる前にダミアンの契機となる出来事を描くのですが、
僕は映画のベースとしては、あくまでダミアンの無邪気さと紙一重な狂気を感じさせる表情を生かして欲しかったなぁ。
密かにダミアンが入学する陸軍士官学校の教官役としてランス・ヘンリクセンが出演していますね。
どこか不気味で表情に乏しい教官という設定で、何か“裏”がありそうな雰囲気でそこそこインパクトがあります。
まだジェームズ・キャメロンの監督作品などで名バイプレイヤーとして知られる前ですから、これは貴重な作品ですね。
どうせなら、ランス・ヘンリクセンはもっと存在感を発揮しても良かったとは思うのですが、あくまで脇役でしたね。
映画としては、ジワジワ迫りくる恐怖とか、ショック描写を次から次へと繰り出すわけでもないせいか、
インパクト自体はやはり第1作には勝てなかったし、作り手もなんとか第1作を超えようと胴体チョンパを
強引に描いたり、なんだか不釣り合いなほどにアンバランスな演出になりつつも、結局は強いインパクトは残せない。
そんな物足りなさが本作の最終的な印象となってしまっていて、この辺はドン・テイラーにはもっと頑張って欲しかった。
『新・猿の惑星』のようなB級SF映画というわけにもいかなかった企画だったでしょうから、
撮る前にどういうことを描いて、第1作のインパクトを超えるための戦略というものを練って欲しかったなぁと思う。
三部作としてはやり切った部分はあったシリーズでしたけど、この第2作はスゴく大事な作品だったと思うんですよね。
それが結果として失敗してしまったので、予定されていた第3作はより苦しい作品になってしまったことは否めない。
ダミアンが自らの出自を含めて、自分の正体や運命を知ってしまい大きく動揺するというコンセプトは良かったと思う。
言うなれば、本作で描かれるのはダミアンの最終形態を決定づける時期であるわけで、とても重要な一部分でもある。
個人的には陸軍士官学校でも何かダミアンにとって大きな出来事が起こるという展開も期待していたけれども、
そもそも義理の父親も大会社の社長という設定をとり、実はダミアンの周囲にダミアンの協力者がいたという展開。
これはこれで面白いとは思いました。実はダミアンが成長する過程で、ジワジワと周囲が固められていたという恐怖。
ある意味では、ダミアンが無意識的に運命に抗って成長しないことを“見守って”いたのかもしれないし、
人々が気付かないうちに、ダミアンが守られているかのような環境が出来上がっていることはホラーでしかない。
こういったことに周囲が気付いたときには既に手遅れ、というセオリーとも言うべきストーリー展開は悪くないと思った。
ただ、第1作では色濃く残っていたはずの宗教色が本作ではほぼ無くなってしまったように感じられるのは残念。
オカルト的な雰囲気の高揚も含めて、この第2作はどこか物足りない。ドン・テイラーの興味はそこには無かったようだ。
でも、第1作を思うと反キリスト的な考えの暴走っぷりって、結構大きなテーマだったと思うので、残すべきでしたね。
宗教的なニュアンスはほぼほぼ無くなっていて、ダミアンが戸惑いながらも自身の能力を発揮していく。
その過程でダミアンを従兄弟を手にかけようとするシーンがあって、これはほとんどギャグにしか見えなかった。
(この従兄弟もウィリアム・ホールデンの息子という設定も、年齢的に結構な無理を感じるけど・・・)
どうしても第1作と比較してしまうのですが...前作では野犬に襲われるシーンが衝撃的ではありましたが、
やっぱり本作でも野生動物に襲われるシーンがあって、本作ではベタな発想ではありますが、カラスが襲撃します。
これはまるでヒッチコックの『鳥』を思いっ切りパクったとしか思えない演出なのですが、一羽が人を散々追い回して、
挙句、道路で交通事故死というのは現実にありそうですね。いつぞやのドラレコの映像で、似たようなのを見ました。
このシーンをはじめとして、ダミアンにとって都合の悪い人々が映画の前半から猛スピードで殺されていく。
それは、映画の序盤にあるダミアンを殺すための剣をソーンに渡したブーゲンハーゲンにしても同様なのですが、
このブーゲンハーゲンに襲い掛かるパニックは、本作で最も宗教色が強いというか“魔力”を感じさせるシーンでした。
個人的には、全体的にチープな雰囲気が支配し過ぎてしまい、映画が安っぽくなってしまったので、
この宗教色というのは色濃く残した方が、映画に良い意味でアクセントを付けられたのではないかと思えたのですが、
ドン・テイラーの狙いは違ったのかもしれません。なんか、ラストのボイラーの爆発もあまりに唐突で安っぽいしなぁ。
第1作が良過ぎたというのもあるだろうけど、もう少し何とか頑張って欲しかったというのが本音。
(上映時間108分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 ドン・テイラー
製作 ハーベイ・バーンハード
メイス・ニューフェルド
脚本 スタンリー・マン
マイケル・ホッジス
撮影 ビル・バトラー
編集 ロバート・ブラウンJr
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 ウィリアム・ホールデン
リー・グラント
ジョナサン・スコット・テイラー
ロバート・フォックスワース
レオ・マッカーン
ニコラス・プライアー
ランス・ヘンリクセン
エリザベス・シェパード
ルー・エアーズ
シルビア・シドニー