晩秋(1989年アメリカ)

Dad

妻頼りの毎日を送っていた78歳の老人男性が、妻が心臓発作で倒れたことに強いショックを受け、
その様子を心配した家族が付きっ切りで老夫婦の生活を共にするようになり、
家族の絆を再確認しようと看護や介護に奮闘する姿を描いた感動のヒューマン・ドラマ。

確かに、映画としてやや「あざとい」という印象を持つという気持ちも分からなくはない。
しかし、個人的には終末医療に興味があるということもあってか、ひじょうに意義深い作品でした。

勘違いしてはいけないのが、この映画は主人公の家族を決して美化して描いているわけではないし、
ましてや主人公の運命を哀れんだり、美化しようとしていたりするわけではないということ。

むしろ逆である。この映画は、ひじょうに厳しい客観的なスタンスをとっていると思う。
ネックなのは、この映画の中身があまりに真に迫り過ぎていて、客観的に観れなくさせる力が
もの凄く強いことなのですが、それは作り手があくまで客観的に撮り続けたことが要因だろう。

主演のJ・レモンは若くはありませんが、特殊メイクを駆使した更なる老け役にチャレンジで、
その卓越した演技力で、実に説得力があり、そうとうなリサーチがあったのだろうか、
あまりこういう言い方は好きじゃないのですが、かなりリアルな芝居だ。
生気の感じられない表情、実体のない恐怖に怯える姿、束の間の喜びに浸る表情...。
その全てが、とってもリアルだ。実際、認知症となった患者の多くは、似たような表情をします。

スピルバーグ主宰の“アンブリン”が製作会社として協力していますが、
まぁ社会的なテーマを掲げるのが好きなスピルバーグらしく、老人医療に対して一石を投じています。

その他にも自宅介護の問題やインフォームド・コンセントなど、
90年代になってから表面化した社会問題をいち早く取り入れており、
ひじょうに終末医療を考える上で、内容の濃い映画であると言えると思います。

今の日本も高齢化社会が進んでいますが、
生活が豊かであるが故、パートナーを喪失してしまうことへの恐怖、そして自らの死に対する恐怖、
近親者として人の死にどう接するべきなのかという悩み、親に対する深い愛情、
そして過去への後悔、未来への不安など、実に根深い問題が散在している。

ウォール街で働くビジネスマンの立場から見れば、父親の最期に際してどのように接するか迷い、
そして離れて生活する息子とのコミュニケーションを模索していきます。
正に親子三世代にわたる心の交流なのです。それも、その時にしか分からない感覚なのかもしれません。

「父の生きた証を知りたい」とビジネスマンは言い、
仕事を休んで付きっ切りで看護しますが、仕事に全てを捧げていた一人の男がこれだけ変わるというのは、
やはり肉親の死というのは、一生を左右しうる大きな出来事であることを象徴しているのでしょう。
まだ僕は体験していませんが、順当にいけばいつかは体験する出来事なわけで、
この映画を観て、何だか感慨深くなりましたねぇ。人は皆、老いて、いつかは死ぬものなのですから。

監督のゲイリー・デビッド・ゴールドバーグはあまり監督経験がないようなのですが、
誠実な語り口と感情的になり過ぎない抑制の効いた演出で、ひじょうに上手いですね。
是非とも、もっと他の監督作品を観てみたいと思いましたね。

よく「親孝行はできる時にしなさい。親孝行したいと思っても、もう親がいないということもあるんだよ」なんて
言いますが、この映画を観て全くその通りだと思いましたね。

まぁ自分が孝行息子かどうかはさておき(笑)、
人間はいつか死ぬわけで、それが何時やってくるかは自分で選択はできない。
だからこそ生きているうちにしか出来ないことがあるわけですから、後で後悔しないようにしたいですね。
「あぁ...あの時に親孝行していれば・・・」なんて思わないように。。。

ジャック・レモン演じる老人が気丈な妻に言う台詞が印象的ですね。

「死ぬことは別に罪じゃない。生きないことが罪なんだ」
これは自殺を否定した見解だと思うし、同時に余命を宣告されて死に急ぐかのように
ネガティヴな考えを持ってしまうことをも否定していると思いますね。
確かに死は誰だって怖いと思う。しかし、だからと言ってその事実からは逃げられないだろう。
安直な考えなのかもしれないけど、不幸にも病に苦しみ、生きることへ希望を感じなくなっている人がいたら、
是非ともこのメッセージを届けたいし、周囲の人も助けてあげて欲しいと切に思います。

驚いたことに、
まだ役者としてブレイクする前のケビン・スペイシーとイーサン・ホークが出演していますね。
ケビン・スペイシーは義母に常に厄介者扱いされる義理の息子の役で、
イーサン・ホークは大学に通う孫の役で、それぞれ出演していますが、若いですねぇ〜。
まぁケビン・スペイシーはあまり今と大差ありませんが(苦笑)。。。

ともあれ、一度は観てみる価値がある作品だと思いますね。
特に近親者の看護に際して観てみると、ひじょうに考えさせられる作品です。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ゲイリー・デビッド・ゴールドバーグ
製作 ゲイリー・デビッド・ゴールドバーグ
    ジョセフ・スターン
原作 ウィリアム・ウォートン
脚本 ゲイリー・デビッド・ゴールドバーグ
撮影 ジャン・キーサー
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ジャック・レモン
    テッド・ダンソン
    キャシー・ベイカー
    オリンピア・デュカキス
    イーサン・ホーク
    ケビン・スペイシー
    J・T・ウォルシュ

1989年度アカデミー最優秀メイクアップ賞 ノミネート