戦争のはらわた(1975年西ドイツ・イギリス合作)

Cross Of Iron

確かにこれは鮮烈なフィルムではあるのだけれども...
サム・ペキンパーの熱狂的な支持者の間では、異様に人気の高い一本ではあるのですが、
実は僕、そこまで本作のことを良いとは思っていないせいか、この映画はあまりオススメできないかな。
まぁサム・ペキンパーの映画が好きでたまらない人であれば、必ず観るべき一本には入るだろうけど。

映画はあまりに強烈な反戦映画だ。
特にかの有名なラストシーンでの、ジェームズ・コバーンの笑い声があまりに強烈なメッセージ性を帯び、
おそらく本作を観た数多くの人の脳裏に焼き付くことだろうし、確かにショッキングな内容ではある。

特に次から次へと繰り広げられる残酷描写の連続は圧巻の一言で、
特にスローモーションを多用したシーン演出は、正しくサム・ペキンパーの真骨頂と言えるでしょう。

ただーし!(笑)
この映画、基本的にこのスローモーション加工を使い過ぎているんですよね。
これが持ち味だから仕方ない反面、“散り際の美学”や“撃たれる美学”を追究していたサム・ペキンパー流の
表現技法として、その最たるものであるスローモーションを、戦争映画で使うというのは疑問が残りますね。
いや、中身的には反戦映画であることは明白なのですが、これが一概に適材適所とは思えないのですよね。

従って、僕は同じサム・ペキンパーの監督作という意味でなら、
もっと他に良い映画があるとは思っています。ひょっとしたら、カメラマンの違いも大きいのかもしれないが。。。

とは言え、過剰なまでにまるで各兵士がゴミのように扱われ、
次から次へと死んでいく様子を真正面から描いたというのは、圧巻の描写としか言いようがない。
血しぶきが乱れ飛ぶのは当たり前、内臓は飛び出す、鉄柵に体が突っ込みブッ刺さる、
これらの描写に加え、局部を女性に食い千切られる兵士など、人間の愚かさも同時に描きます。

そう、本作の主題は、むしろ人間の愚かさなのかもしれません。
そもそも戦争を始めること自体、人間の愚かさではあるのですが、主人公のスタイナーとはまるで対照的な
“鉄十字章”を授与されるという、名誉欲にとりつかれたシュトランスキー大尉を観れば、それは明らかだ。

シュトランスキーは“鉄十字章”を授与されない限り、戦争に出征した意味はないと考えます。
しかし一方で、戦争の英雄的存在として名をはせるスタイナーはまるで“鉄十字章”に興味がありません。

シュトランスキーはまず、スタイナーに“鉄十字章”を与えるよう上層部に進言します。
彼の計算高さはしたたかで、スタイナーに“鉄十字章”を与えれば、スタイナーが常にシュトランスキーに
味方するようになると考えているのです。しかし、そんな程度のことでスタイナーの信念は揺らぎません。
そこで面白くないのはシュトランスキーです。何故なら、スタイナーがむしろ反抗的な態度をとるからです。

そこでシュトランスキーが企てる策略がまた滑稽で、敢えてスタイナーを危険な任務に就かせ、
ロシア軍に殺してもらおうと思ったが上手くいかず(笑)、結局、自分の部隊に密殺を指示するなんて、
ある意味、後年に多く作られる戦争の狂気を描いた映画のモデルとなったと言っても過言ではありませんね。

そうやって、執拗なまでにシュトランスキーの愚かさを描いているのですが、
面白いことに劇中、スタイナーから「何故、そこまでして“鉄十字章”が欲しいのですか?」と質問されても、
明確な答えを出せずに、シュトランスキーは黙りこくってしまします。彼自身、本当の価値は分からないのです。

そしてスタイナーはクライマックス、堂々とした態度で男らしく勇壮に言い放ちます。
「よォーし! “鉄十字章”を取る、闘いを見せてやる!」と。この台詞は、映画史に残る名台詞かも(笑)。

そんなスタイナーを演じるジェームズ・コバーンが渋くカッコ良いことは勿論のこと、
シュトランスキーを演じるマクシミリアン・シェルの表向きだけの振る舞い、貴族の威厳が良いですね。
それと、さり気ないですが、サム・ペキンパー映画の常連、デビッド・ワーナーも忘れ難い。
このデビッド・ワーナーが演じたキーズリー大尉の存在も実に面白くって、凄く皮肉の利いた存在だ。

彼は彼でおそらく有能な軍事だろうし、軍上層部から大きな期待を受けた存在であることは間違いない。
しかし、普段はまだ若いにも関わらず、まるでリタイアした軍人であるかのように、昼間っから酒を飲み、
タバコをスパスパ吹かし、目の前の戦場のことをまるで人ごとのように話し、現実感が感じられない。
上官からは「君の唯一の欠点は、タバコを吸い過ぎることだ」と言われたのが、そうとう面白くなかったのか(笑)、
軍上層部からキーズリーだけに避難令が下り、キーズリーがパリへ赴くことになった日などは、
まるで上官を裏切り者と言わんばかりの視線でバイクのサイドカーに乗り込み、タバコを吹かす有様。

この映画でのサム・ペキンパーは脇役キャラクターを大切にしているということが、よく分かると思います。

長らく本作はDVDが廃盤のままとなっており、再販が熱望されておりましたが、
めでたく2010年、再販が実現し、素晴らしい画質となっており、素晴らしい時代になったことを実感します(笑)。
まぁ熱狂的なファンがいるせいか、この映画の再販を待ち望む声が多かったため実現したのでしょうが、
画質面だけで言えば、これは申し分のない出来で、あとは映像特典を付けてくれれば...(苦笑)。

内容的には立派な反戦映画。
しかしながら、前述したように個人的にはスローモーションの多用は自重した方が良かったと思います。
やはり、こういった従来の暴力描写には、サム・パキンパーなりに本来は違う目的があったはずなのです。

チョット変わった、戦争映画を観たいという人にはオススメできるかな。

(上映時間127分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 サム・ペキンパー
製作 ウォルフ・C・ハルトウィッヒ
原作 ウィリー・ハインリッヒ
脚本 ジュリアス・J・エプスタイン
    ハーバート・アスモディ
撮影 ジョン・コキロン
音楽 アーネスト・ゴールド
出演 ジェームズ・コバーン
    マクシミリアン・シェル
    センタ・バーガー
    デビッド・ワーナー
    ジェームズ・メーソン
    クラウス・レーヴィッチェ
    アルトゥール・ブラウス