暴力脱獄(1967年アメリカ)

Cool Hand Luke

これは思ったよりも、ニューシネマ寄りな内容の映画だったなぁ。

戦争から帰還した主人公ルークが、酔っ払って街のパーキングメーターを破壊した、
器物損壊の罪で2年間投獄されることになって、毎日、灼熱の田舎で肉体労働に勤しむ日々に
希望を持てずに、幾度となく反抗的態度をとって、型にハメられた更生プログラムの一部となることを拒否し、
命知らずの脱獄を試みるようになるものの、看守側は強烈なシゴきを繰り出して、押さえつけようとする姿を描きます。

大前提として、人道的なことを言えば、罪を犯した人間が罰を受け、
そこで罪を償うための期間(罰)を全うし、更生するということは当たり前のことです。これだけで被害者への贖罪には
なりませんけど、冤罪でないのであれば、一つの指標になるし、ある意味ではやり直すためのチャンスでもあるわけで。

犯罪者でありながら、「型にハメようとするなよ」と反抗するというのは、理解し難いものを感じる。
実際に直接的な被害者がいるのであれば尚更のことで、被害者感情はケースバイケースで違うものだろうし、
どうすれば贖罪になるかなんてのは分からない。行いを悔いて更生することが、唯一できることなのかもしれない。

べつにこの題材じゃなくてもいいような気はするけど、
要するに本作で描きたいことって、社会のシステムの一部に組み込まれることへの反抗ということなのだろう。

まぁ、囚人であっても非人間的な扱いを受けていいとは言えないし、虐待や不当待遇を与えていいことにはならない。
ただ、この映画で描かれている囚人たちは、不当な扱いや一方的な暴力を受けているわけではないんですよね。

あんまり今まではアメリカン・ニューシネマにカテゴライズされる作品とは思っていなかったので、
僕の中ではほぼノーマークの映画だったのですが、内容的には管理体制への反抗というニューシネマ。
但し、べつに囚人たちが酷い扱いを受けているわけではないあたりが、なんだか本作、タチが悪い(笑)。

そもそも、映画の冒頭でルークがパーキングメーターを切断するところを検挙されるわけですが、
いくら公共のものを器物損壊したとは言え、裁判の詳細も描かれずに、2年の懲役刑というのは異様に厳しい。
(まぁ、この冒頭のカット割りが特徴的で、思わず「おっ!」と感じさせるオープニング・カットではあるのだけど)

刑務所には色々な不思議なルールがあって、それにルークはなかなか馴染めない感じで、
完全に刑務所から押し付けられたルールに諦めてしまっているような周囲の雰囲気に飲み込まれず、
ルークはルークでゴーイングマイウェイ。その時々で状況判断しながらも、ルークは自分を貫こうとします。

本作で最も強いインパクトを残すのは、屈強な囚人仲間のドラッグを演じたジョージ・ケネディでしょう。
本作でジョージ・ケネディはオスカーを獲得しましたが、映画の序盤にルークと殴り合いの対決をすることになり、
腕っぷしの強いドラッグは次々とルークにパンチを浴びせることで、ルークは体力を失い、血だらけになりますが、
ルークはなかなか降参せず、殴り疲れたドラッグも疲弊し、ルークの身体の強さと精神力を見直すようになります。

そんなドラッグの一目置くことが決定的となったのは、灼熱の炎天下の中での肉体労働で
道路の舗装をするというミッションの中、延々と続く道の舗装にヤル気を失う周囲をよそに、「こんなもんか」と
ルークが周囲を鼓舞しながら、驚くようなスピードで作業を進め、人間らしさを取り戻させようとするシーンだろう。

こういう姿を観ると、本作はさながら『カッコーの巣の上で』の60年代版だった、という見方もできなくはない。

そして、何に目的があったのかは分からないが、卵を1時間で50個食べられるとルークは豪語し、
それに賭けたドラッグがなんとかルークを鼓舞しながら、文字通り命がけでルークは卵50個を飲み込む。
世界観としては典型的な昭和(笑)。強い精神力、何に目的やメリットがあるのかはよく分からないルークの
孤軍奮闘の姿をドキュメントし続け、ルークがもたらした強い影響を描きますが、それを刑務所側は潰しにかかります。

刑務所側とすれば、それは当たり前のことだ。ルークは何度も脱獄を試みているわけで、
しかも囚人たちを改心させることに刑務所長は自信を持っている。ところが、その力が及ばず、改心させられないと
判断したときには、刑務所側は脱獄して逃げるルーク相手にライフルを持ち出して、彼を“消そう”とするわけです。

そんな非情な刑務所側の象徴として、サングラスで全く肉眼が見えない看守の存在がとても良い。
こういうまるでサイボーグのようで、感情が表に出ない存在は脅威でしかなく、描写としてとても秀逸だと思った。

監督のスチュワート・ローゼンバーグは60年の『殺人会社』で監督デビューしたディレクターですが、
あまり細かい器用さがあるタイプではないとは言え、ひとクセある映画を撮ることができるディレクターだし、
ポール・ニューマンとは75年に『新・動く標的』でもう一度組んでいて、70年代までは定評のある人でしたね。
(実質的な遺作となった『ハリー奪還』が、いわゆる“アラン・スミシー”クレジットとなってしまいましたが・・・)

映画は終盤、脱獄を試みた罰として過酷な懲罰を受け、「改心した・・・」と言ったところから、大きく動く。
このラストの展開はスチュワート・ローゼンバーグの演出も実に上手くって、あれだけ「ゴマすりなんてイヤだね」と
言っていたルークが観念して、亀を撃ったサングラスの看守におべっかを使うように、媚びを売りまくって、
ササッと行動する姿を見てしまうと、ルークがホントに改心したのかと観客にも思わせることができていると感じる。

あんな土を掘れと言われて、炎天下の中、一人長時間かけて穴を掘り起こしたというのに、
完成しそうになったら「お前、何やってんだ!?」と因縁をつけられているように、「穴を埋めろ!」と言われ、
埋められそうになったら、「なんで指示に従わないんだ!」と怒られると、過酷な仕打ちを受ける罰は強烈だ。
あれをやられれば、誰だって降参状態になるかもしれない。これを見せることは、他の囚人への見せしめにもなるし。

しかし、全体的に冗長な傾向はあると思う。正直言って、この映画はあと15分は短く出来る。
前述したように、冒頭のカットはスゴくカッコ良いのに、それが長続きしない。すぐにルークが収監されるのですが、
ここからは引き締まった演出が影を潜めてしまう。そこから、ルークが改心するラスト・シークエンスまでが長い。

女性に飢える囚人たちというテーマも分かるけど、刑務所の近隣の家で車の洗車する女性のセクシーさを
延々と映すシーンがありますけど、映画を最後まで観通して真っ先に思ったのは、このシーンいる?ってこと。

劇場公開当時、評判は決して悪くはなかったようですが、それでも傑作とまでは称されませんでした。
結局、その理由はどこにあったのかと言われると、この冗長さでしょう。もっと大胆に編集して、省略しても良かった。
説明過多だとまでは言いませんが、一つ一つのエピソードが悪く言えば、ダラダラと描かれている印象は受けてしまう。
まぁ、良く言えば執拗に描いて説得力を上げることに貢献しているのですが、もう少し省略しても良かったと思います。

しかし、器物損壊は反社会的な行動であり犯罪で、良くないことではあるけれども、
これで実刑2年というのは、相当重たい刑罰と感じるし、それで看守たちに徹底反抗して脱獄まで試みて、
何度もペナルティを重ねられ、看守たちに執拗な体罰を加えられるなんて、まったく割に合わず、真似できない(苦笑)。

冷静に考えると、大人しくして刑期を全うした方が賢いように見えるし、
それが正しい姿だとは思うけれども、それでもルークは自分を貫き通すことを抑えられずに、行動するわけです。
その向こう側に何があるかも分からず、脱獄を試みてもすぐに捕まっている現実を思うと、彼は罰を逃れるために
自分を押し通しているわけではなくって、彼なりに不当に感じる刑務所内の体制に対しての抗議ということなのだろう。

そういうアンチ・ヒーローを演じるに、当時のポール・ニューマンはよく似合いますね。
そこに絡むジョージ・ケネディの男臭さも最高で、お世辞にも逞しい肉体とは言えないが、暑さのあまり彼らの
だらしない肉体を晒して肉体労働に勤しむ姿を映すのですが、この汗臭そうでむさ苦しさが画面いっぱいに炸裂する。

そして、マスター・フィルムの状態も良かったのかもしれませんが、
本作は特にコンラッド・L・ホールのカメラも抜群に素晴らしく、個人的にはもっと評価されても良かったと思う。

出番は少ないものの、若き日のデニス・ホッパーもチョイ役として出演しており、
その他にもハリー・ディーン・スタントンが映画の序盤に出演しており、まだバイプレイヤーとして評価される前でしたが、
すぐに彼らだと分かる表情でなんだか嬉しい。しかし、それでもドラッグ役のジョージ・ケネディが最も強い存在感ですが。

ちなみに意図がよく分からない邦題のおかげで、本作がバイオレンス映画のような印象を
持ってしまうけれども、内容的にはバイオレンスはほとんど無い。当時は何故、こんな邦題をつけたのだろうか?

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 スチュワート・ローゼンバーグ
製作 ゴードン・キャロル
脚本 ドン・ピアース
   フランク・ピアソン
撮影 コンラッド・L・ホール
音楽 ラロ・シフリン
出演 ポール・ニューマン
   ジョージ・ケネディ
   ルー・アントニオ
   ストローザー・マーチン
   J・D・キャノン
   ジョー・ヴァン・フリート
   クリフトン・ジェームズ
   ハリー・ディーン・スタントン
   デニス・ホッパー
   アンソニー・ザーブ

1967年度アカデミー主演男優賞(ポール・ニューマン) ノミネート
1967年度アカデミー助演男優賞(ジョージ・ケネディ) 受賞
1967年度アカデミー脚色賞(ドン・ピアース、フランク・ピアソン) ノミネート
1967年度アカデミー作曲賞(ラロ・シフリン) ノミネート