コンフェッション(2002年アメリカ)

Confessions Of A Dangerous Mind

実在のテレビ・プロデューサー、チャック・バリス原作による『危険な心の告白』を
ハリウッドを代表する人気俳優ジョージ・クルーニーが初監督に挑戦した、軽妙なサスペンス映画。

まぁ結論から言いますと、あまり映画の出来が良いとは思えなかったけど、
ジョージ・クルーニーの野心は並々ならぬものがることは否定できず、後に監督作品を重ねていった
経緯を考慮すると、やはりジョージ・クルーニーは当初から製作者を目指していたということでしょう。

一時期、流行していたハリウッド俳優が「とりあえず監督デビューしました」みたいな
作品の一端かなぁと思って、軽い気持ちで観ると、そういった軽いノリではないことを痛感します。

豪華キャストにも恵まれた作品で自身も出演しておりますが、
実在の人物チャック・バリスを演じたのは、サム・ロックウェルでハッキリ言って、脇役の方が豪華(笑)。
でも、この映画のサム・ロックウェル、よく頑張っています。これまでむしろ脇役の方が多かったですけど、
若かりし日のチャックと、次第に精神を病んでいく中年期にかけて、巧みに演じ分けております。

まぁ数多くの人気番組を手掛けたプロデューサーであるチャック・バリスが、
実は人気番組のプロデュースを担当しながらも、当時は30人を超える人数の人殺しを依頼され、
CIAとも接触していたなんて、にわかに信じ難いエピソードの映画化なのですが、
その信憑性はともかく、多少胡散臭い話しであっても、ジョージ・クルーニーは真面目に描き通します。

コメディ的なニュアンスがある作品でもありますが、
最後の最後までシリアスに真面目一辺倒で描き通したというのも、これはこれで一貫性があって良いです。

でも、この映画の残念だったところって、
演出上の緩急がイマイチ上手く使いこなせていないところで、映画の流れができそうできないところなんですね。
そのせいか、映画の前半から中盤にかけては、どうも映画にスピード感が生まれず、異様に長く感じる。
一見すると、サクサクとエピソードを紹介しているかのように見えるのですが、演出にメリハリが無く、
常に同じようなテンションなためか、映画がノリそうで乗らないという、全体的にも起伏に乏しい印象があります。

ひょっとすると、ジョージ・クルーニーは本作をコメディと思っている節はあるのかもしれませんが、
僕には真面目一辺倒に撮ったように感じられるのは、これが起因しているのかもしれません。
もっと起伏を付けて、映画にスピード感が生まれれば、映画の印象は大きく変わっていたのかもしれません。

本作が抱える大きな問題として、ここなんですよね。
ジョージ・クルーニーのビジョンが見えないことなんです。ハッキリとした、意図が見えないこと。

ホントに彼が真面目一辺倒に撮ることを意識的に行っていたのであれば、
僕は本作、もっと高く評価するに値すると思いますし、その一貫性に彼の演出家としてのスタイルを見ます。
でも、「ひょっとするとそうではないのかもしれない・・・」と思わせられてしまうのが、本作の弱いところ。
仮にこれをコメディだと思って撮っている節があるのであれば、それは映画としては失敗だと思う。
だって、このチャック・バリスの物語を観て、クスリとでも笑える部分があったかと聞かれると、
それはどうしても「No!」と答えざるをえないからで、あくまで映画が偶然の産物になってしまうからです。

不条理さを表現するシーンなんかでは、カメラのフレームワークは見事だし、
照明の使い方なんかも、もっと評価されても良かったと思います。でも、もう一つ。演出の意図が問題なんです。

今回は『マルコビッチの穴』などで知られるチャーリー・カウフマンが書いたシナリオなのですが、
特段、秀でた脚本だというわけではないだろう。気の利いた台詞があるわけでもないし、
ストーリー構成が奇抜というわけでもなく、どちらかと言えば、伝記をオーソドックスにシナリオにしたイメージだ。

でも、ひょっとすると、映画がどっちつかずな印象を残してしまった原因の一端は、
この脚本にあったかもしれず、チャーリー・カウフマンも『アダプテーション』のような開き直りがありませんね。

豪華キャストの中では、ヒロインのペギーを演じたドリュー・バリモアが際立つかな。
これだけアップショットで連続的に彼女を撮る決断をしたジョージ・クルーニーも凄いけど、
ジュリア・ロバーツを脇役に回してまでも、ドリュー・バリモアが演じ切ったあたりは、ある種の世代交代かな。
(10年前なら確実にペギー役はジュリア・ロバーツが演じていたでしょう・・・)

ちなみにジョージ・クルーニーは本作での反省を活かして、
05年に『グッドナイト&グッドラック』を撮っており、こちらでは見事に結果を残している。
個人的には『グッドナイト&グッドラック』の方が、ずっと出来の良い映画だとは思っているのですが、
それでも『グッドナイト&グッドラック』を撮るために、本作が必要だったと思えば、それはそれで価値ある作品。
やはり映画のスタンスとして、硬派にも軟派にも徹し切れなかった本作での反省を活かしてか、
『グッドナイト&グッドラック』では、“クソ”が付くほど真面目な路線で押し通し、エド・マローを描きました。

まぁこのにわかに信じ難い『危険な心の告白』という原作を
シナリオに起こすというのがチャーリー・カウフマンらしいのですが、オフビートに描くというよりも、
僕は思い切って、もっとブラックな笑いに満ち溢れた映画にしてしまった方が、ずっと健全で面白かったと思う。
さすがにこの路線では、「また、なんかの映画賞をください」と評論家に媚びた部分が見え隠れする気がします。

まぁチャック・バリスがまだ健在だっただけに、露骨に皮肉るのは無理だったのかもしれませんが。。。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[PG−12]

監督 ジョージ・クルーニー
製作 アンドリュー・ラザー
原作 チャック・バリス
脚本 チャーリー・カウフマン
撮影 ニュートン・トーマス・サイジェル
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 アレックス・ワーマン
出演 サム・ロックウェル
    ドリュー・バリモア
    ジョージ・クルーニー
    ジュリア・ロバーツ
    ルトガー・ハウアー
    マギー・ギレンホール
    ジェリー・ワイントローブ
    ロバート・ジョン・バーク

2002年度ベルリン国際映画祭主演男優賞(サム・ロックウェル) 受賞
2002年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞脚本賞(チャーリー・カウフマン) 受賞
2002年度ラスベガス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2002年度フェニックス映画批評家協会賞主演男優賞(サム・ロックウェル) 受賞