告白(2010年日本)

これはとても居心地が悪い映画だ。

序盤はそうでもなかったのですが、次第に本性が露わになってくる作品で、
中学生同士で人間のイヤな部分をぶつけ合うような内容で、劇場公開当時、大きな話題となった作品で、
少年犯罪との絡みもあって、話題性が大きな作品でしたが、映画の出来はともかく、よく頑張ったなぁと思います。

いや、別に上から目線になって言いたいわけではなくって(笑)、
これは描くのに、とても勇気のいる内容であり、これはハリウッドではできない芸当かもしれませんね。

ある意味では、日本映画ならではの内容であり、
この陰鬱さ、陰湿な感覚を堂々と真正面から描くというのは、日本映画だからこそできたのかもしれません。
海外でも上映され、高い評価を得たというのは、やはり日本映画だからできた作品だったからでしょう。
ただひたすら無感情かつ冷淡な芝居に終始した、松 たか子の存在感もなかなか良かったですね。

映画は、とある中学校に勤務するシングルマザーだった女性教諭の一人娘が、
学校のプールで溺死したことをキッカケに、驚愕の真相に隠れた中学生たちのダークな心にスポットライトを当て、
用意周到に計算された女性教諭の退職直前の終業式でのセリフに翻弄される、生徒たちの“告白”を描きます。

少年犯罪を題材した映画なのですが、よく少年法に関することが話題となります。
本作でも触れられているのですが、実名報道がされないことに加え、実刑を受けることなく、
少年法によって守られる存在になるため、凄惨な少年犯罪が起こるたびに、このことは大きく話題になります。

本作で登場する“少年A”にしても、こういった少年法のことを理解した上での凶行で、
言ってしまえば、本作の原作者が描いたストーリーとして、被告である“少年A”が犯罪を犯しても、
結果的には少年法で守られることを理解して犯罪者となったわけで、そういった被告を反省させるためには、
素性や性格を把握した上で、被告が一番嫌なことをするという仮定を描いているわけで、これは真理かもしれない。

被害者感情として許すことは難しい犯罪に対して、これまでの発想には無かった復讐を試みるミステリーを
描いているのですが、この湊 かなえの原作は08年に発売されたもので、映画化後にも話題となりました。

但し、映画の出来としては首を傾げたくなる部分も少なくない。
次から次へと生徒たちの“告白”を描くのはいいけど、エピソード同士のつなげ方があんまり上手くない。
色々とメリハリをつけるために工夫しているのは理解できるけど、どうして映画の流れを壊すことをするのだろう?

こういう言い方をしては申し訳ないが、木村 佳乃演じる“少年B”を溺愛する母親の視点から描いた“告白”は、
どうして生徒たちの“告白”の間に挟んだのか、その意図が分からず、映画の流れを阻害している気がします。
それだけでなく、全体的にまとまりの無い映画になってしまった印象が残り、テンション高いクライマックスまでの
流れをお膳立てすることができず、結果的にはクライマックスで盛り上がり切っていないのも、残念に思います。

おそらくこれらは作り手含めて、編集の段階で気づくはずだと思うのですが、
僕は単純に松 たか子演じる女性教師と、生徒たち(“少年A”と“少年B”、“少女A”)の“告白”に注力した方が
映画としての流れは確実にできたと思うし、作り手の主張もよりクリアになって良かったのではないかと思う。

自分の能力を評価され、親からの褒められたいという一心の強さ。
これは親からの愛情不足が原因とされがちですが、家庭環境はとても大切なものと実感しますね。
そんな子供としては当然な感情に端を発し、やがては少年犯罪へとつながるわけですが、
一方で本作は人間の奥底に眠る偏見を描いている側面もあり、特にクラスメートが“少年A”に向ける感情は、
思春期で色々なものに興味があり、行動力も大人と遜色ない彼らが、実に残酷なことができてしまうということの
証明をしているかのようで、こういったエピソードの積み重ねこそが、本作の居心地の悪さにつながります。

とても残酷で見たくもないというのが僕の本音だけど、これが現実だと思う。

誰しも他人から認められたいとする欲求はあると思いますが、
成長と共にそのあり方は変わっていきます。しかし、子供のときの承認欲求は、また特別なものです。

おそらく必要な時期に、全く注がれないと子供にとっては
愛情が注がれないということになり、逆に認められたいという思いが強くなるあまり、
親の愛情を得るため、親に認められるためには、どんなことでも躊躇しないという偏ったことになってしまう。
やはり少年犯罪の一部には、育てられた環境から既に問題があったことが認めれてきており、とても重要なんですね。

僅かではありますが、そういった家庭環境の重要性についても言及している点には感心なんだけど、
欲を言えば、多少、脚色してでも、もう少し平凡な核家族であるように描いてみたら、もう少し複雑な部分ができて、
“少年A”や“少年B”の生い立ちを含めて、事件の背景を深く掘り下げて描くことができたと思うんですよねぇ。
(2人とも、如何にも少年犯罪の背景になりそうなコンプレックスを抱えていて、少し類型的な印象も・・・)

おそらく内容的には賛否両論でしょう。
しかし、僕は前述したように、日本映画にしかできない境地にある作品だと思うので、
本作の頑張りは評価されるべきだと思うし、難しい原作の映画化にチャレンジしたことも賞賛されるべきだとは思います。

あとは、この映画の切り込むべきところに切り込めなかったことと、
作り手の姿勢の問題だと思います。僕はこの映画を観ていて、まるで「実は・・・だったんだよ」と語るような
ニュアンスになっている部分が多くって、それが気になって仕方がなかったですね。これはあまり印象が良くない。
あくまでミステリーとして考えると、「実は・・・だったんだよ」とタネ明かしすることは仕方ない部分もあると思うんですが、
映画のほとんどの部分をこういうスタンスで語ろうとしてしまっているのが気になって、あまり良い印象を持てなかった。

そういった、作り手の姿勢を象徴したセリフは...“少年A”がよく言う、「なぁーーんてね」だろう。

正直言って、僕はこの映画で描かれる善悪や正義感については、どうでもいいです。
作り手の狙いは、観客に居心地の悪さ、ある一定のストレスを与えられるような内容にすることだろう。
でも、そうであるからこそ、僕はもっと堂々と真正面から描いて欲しかった。その方が、ずっと映画らしい。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−15+]

監督 中島 哲也
製作 島谷 能成
    百武 弘二
    吉田 眞市
    鈴木 ゆたか
    諸角 裕
    宮路 敬久
    喜多埜 裕明
    大宮 敏靖
企画 川村 元気
原作 湊 かなえ
脚本 中島 哲也
撮影 阿藤 正一
    尾澤 篤史
美術 桑島 十和子
編集 小池 義幸
記録 長坂 由起子
装飾 西尾 共未
録音 矢野 正人
出演 松 たか子
    木村 佳乃
    岡田 将生
    西井 幸人
    藤原 薫
    橋本 愛
    天見 樹力
    一井 直樹
    伊藤 優衣