コンペティション(1980年アメリカ)

Competition

もう若くはないピアニストが、最後のチャンスを賭けて全米デビューのキッカケとなる、
中西部ピアノ・コンクールに出場に集中する姿を、ライバルとの恋愛を絡めて描いたヒューマン・ドラマ。

思いのほか、中途半端な形で映画が終わってしまうことに驚いてしまったのですが、
これは恋愛映画や音楽映画としてよりも、幾重の困難を乗り越えて成功する人々の姿を捉えた、
言ってしまえばサクセス・ストーリーとして、堅実に描けた作品として評価に値すると思います。

そんなに悪くない映画であるだけに、一つだけ個人的な要望を言いたい。
この映画、2010年10月にMHK−BSのハイビジョン放送で放映されたのを鑑賞したのですが、
DVD化もされておらず、マスター・テープがそうとうに劣化しているためか、かなり画質が悪い。
ハイビジョン放送であるにも関わらず、正直言って、かなり画質が劣化しているのが分かりました。

ですから、一刻も早くリマスタリングしてデジタル・メディアで残して、
できる限り高画質で観れるようにして欲しいですね。未発売とは、あまりに勿体ない作品です。

77年に当時、史上最年少でアカデミー主演男優賞を『グッバイガール』で受賞した
リチャード・ドレイファスが本作の主演であり、ピアノの演奏シーンを演じるなど、
随分と気合が入った芝居を見せてくれるのですが、当時、本作での芝居は酷評されたみたいですね。

まぁ彼は栄光と挫折を味わったアクターとして今は有名ですが、
本作での酷評は効いたでしょうねぇ。本作の後、1本だけ映画に出演した後は表舞台から5年ほど消えます。

その間、彼は重度のアルコール依存症とドラッグ中毒を併発し、
泥酔状態で運転し、大きな交通事故を起こし、自身も大怪我を負っただけでなく、
精神的な錯乱状態は深刻な状態で、周囲はほぼカムバックは無理だと思っていたらしいです。

85年、『ビバリーヒルズ・バム』に出演したことをキッカケに、
以前の風貌を一変してしまいましたが、コメディ映画を中心にハリウッドに戻ってきます。

何が彼の歯車を狂わせたかと言えば、70年代中頃から終盤にかけては、
彼自身が想像していた以上に猛烈なスピードでスターダムを駆け上がり、
挙句、最年少でアカデミー主演男優賞という栄誉も加わり、頂点を見てしまったことが大きいと言われています。
(これは実に数多くのスターが経験しており、実際に転落の人生へと変容してしまった人もいる・・・)

本作出演当時のリチャード・ドレイファスがどんな状態だったのか、
その詳細は僕にもよく分かりませんが、どことなく精彩に欠ける印象があることは否定できません。

で、映画の方はというと...
前述したように、恋愛映画としてよりサクセス・ストーリーとして楽しめる一本だ。
あくまで恋愛映画という枠組みで考えると、全体的な尺が長過ぎて、中盤でかなりダレているのが致命的だ。

オマケに映画のラストでのゴタゴタが、まるで映画的ではなくって、まとまりがついていない。
確かに現実的には映画で描かれたような悶着になるのかもしれませんが、これは映画的ではない。
何故かと言うと、あくまで上映時間内にオチを付けて、映画に説得力を持たせなければならない中で、
本作の終盤で描かれた悶着を作ってしまうと、主人公2人の恋愛がまるで収拾がつかない状態になる。
事実、本作は収拾がつかない状態になってしまったために、ラストシーンにまるで説得力がない。
これでは恋愛映画という側面に於いては、僕はこの映画を支持できないんですよね。

別に頑なに古き慣習に固執する気はありませんが、
恋愛映画としての側面を持つ以上、恋愛に説得力を持てなければ、映画は片手落ちでしかないと思いますね。
これは数多い、映画製作のセオリーの中では、明らかに変えてはならないセオリーの一つなのです。

もうこうなってしまうと、映画の終盤で右往左往するエピソードが余計なんですね。
僕はこの映画、肝心の演奏会に突入してからは、ストレートに映画を終わらせるべきだったと思う。

圧巻なのは、何度か登場するピアノ演奏シーンで、複数のピアニストが演奏するのですが、
いずれもまるでホントに弾いているかのようで、どういう風に撮影したのか気になって仕方がありません。
(どうもリチャード・ドレイファスは撮影前に数ヶ月間、猛レッスンを受けたとか・・・)

これって、並大抵の練習ではできない芸当だと思うんですよね。
そういう意味では出演者にピアノ演奏を徹底したジョエル・オリアンスキーの功績はデカいですねぇ。

正直言って、演出は平凡かつ無難な感じで面白味に欠けるのですが、
この徹底した演奏シーンに対するこだわりは、本作の大きな魅力であり、武器にもなっていると思いますね。
これだけできるのですから、個人的には恋愛やドラマ描写についても強い一貫性を持って欲しかったなぁ。
やはり、こういう映画を観ると、演出や映画の作りの重要性を痛感しますね。

どうでもいい話しですが...
エイミー・アービング演じるハイディが映画の序盤、しきりに主人公のことを
「(髪の毛の)生え際が後退している」とか「髪の毛がアヤしい・・・」とか連呼してるのが気になる(笑)。

いくら自虐的にネタにしているキャラだったとしても、
さすがに異性にこんなに言われるのは、ショックだと思うのですがねぇ(苦笑)。

ちなみにこの頃のリチャード・ドレイファスはそこまで薄くないんですけどね・・・。
(彼の頭髪が本格的に薄くなるのは、私生活でトラブルを発生させた後です...)

(上映時間125分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョエル・オリアンスキー
製作 ウィリアム・サックハイム
原案 ジョエル・オリアンスキー
    ウィリアム・サックハイム
脚本 ジョエル・オリアンスキー
撮影 リチャード・H・クライン
音楽 ラロ・シフリン
出演 リチャード・ドレイファス
    エイミー・アービング
    リー・レミック
    サム・ワナメーカー
    ジョセフ・カリ
    タイ・ヘンダーソン
    ジェームズ・B・シッキング

1980年度アカデミー作曲賞(ラロ・シフリン) ノミネート
1980年度アカデミー編集賞 ノミネート
1980年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(リチャード・ドレイファス) ノミネート