星の王子ニューヨークへ行く(1988年アメリカ)
Coming To America
これは正しく、“アレもコレもエディ・マーフィ!”な映画で何度観ても、楽しいですね。
この頃のエディ・マーフィはノリにノッていて、ハリウッドでもコメディ俳優として最強のヒットメーカーでした。
盟友ジョン・ランディスの監督作品であり、エディ・マーフィの悪ノリも含めて、最高に楽しいコメディだ。
アフリカの小国の国王の世継ぎとなる息子が、強権的な父親が決めてきた花嫁を拒否するかのように、
世界を代表する大都市ニューヨークに出てきて、夢にまで憧れた自由恋愛をして花嫁をゲットしようと
大金と従者を連れて治安の悪い下町地区であるクイーンズ地区の安アパートで暮らし始める姿を描いたコメディ。
エディ・マーフィが変幻自在な役作りと特殊メイクを駆使して白人男性にまで成り済ますものだから、
調子に乗って主人公の付き人を演じたアーセニオ・ホールまでもが、複数人数を変装して演じているという怪作だ。
主人公が後ろ髪をカットする床屋は勿論のこと、主人公がハンバーガーショップの娘に一目惚れしてしまう、
怪しい宗教の集会の出演者、そしてナンパしに行ったディスコなどでも彼らは自由気ままに変装して演じてしまう。
これが自然に映画の中でフィックスされているなんて、相当に彼らに勢いがある時代じゃなきゃできませんよ。
エディ・マーフィにしても、87年に『ビバリーヒルズ・コップ2』も大ヒットしてマネーメイキング・スターの仲間入りをして、
日本でも大人気のコメディ俳優として一世を風靡しましたから、本作も大ヒットして彼の代表作の一つとなりました。
そのおかげか、僕もあまり知らなかったのですが...実はアマゾン・スタジオが権利を買い取って、
2021年に本作の続編が公開されていたのですね。丁度、コロナ禍に入ってタイミングは悪かったみたいですが・・・。
アメリカを代表するハンバーガー・チェーンである“マクドナルド”パロディにして、
「実は店のロゴが似ているから訴えられているんだ」と言い放つ店主を父に持つ女性に恋する国王の息子。
彼にとっては、初めての異国の地であり、初めて庶民の暮らしを身近に感じることはとても貴重な時間だということだ。
そりゃ、自分の知らない日常だろうし、ましてや何するんでも不自由だった生活から、自由のある一人暮らしになる
ということは、豊かな人間になるためには必要な経験でしょう。バーガー・ショップでアルバイトを始めるのも良いことだ。
エディ・マーフィも『ビバリーヒルズ・コップ』のアクセル刑事とはチョット違うキャラクターではありますけど、
本作ではどこかにプリンスとしての風格を残しながらも、なんとか恋を成就させようとする青年という設定がベースだ。
映画が進むにつれて、恋愛色が強くなっていき、映画の終盤ではギャグが炸裂するシーンは少なくなってしまいます。
まぁ、それでも・・・僕にとっては良く出来た、とっても忘れ難い内容のコメディ映画という印象なんですよね。
当時のアメリカ社会を考えれば、黒人コメディアンがメイクをして白人の爺さんを演じるなんて、
かなりキワどいギャグだったような気がするんですよね。それも黒人の白人化として描くというわけではなく、
どちらかと言えばエディ・マーフィのギャグとして、白人の爺さんを茶化すような感じで演じるわけですから、尚更のこと。
もっとも、当時のエディ・マーフィの勢いは、そういったことをしても許されるだけの勢いがあったということなんでしょう。
そして、撮影現場ではそんな様子を笑いながら見ていたのではないかと想像できるくらい
陽気な白人のジョン・ランディスが監督していたわけですから、70年代以前のハリウッドでは考えられなかったことだ。
そう、いつもエディ・マーフィの映画であれば過激なギャグも交えた、マシンガン・トークが彼の“売り”なんだけど、
本作は主人公が口八丁手八丁なキャラクターではなく、あくまでピュアな恋愛に憧れる若者という設定なので
ほぼほぼマシンガン・トークは無いし、キワどいジョークで観客の笑いをとりにくるようなタイプの映画ではありません。
これが一つの試金石になったのか、マシンガン・トークがないエディ・マーフィというのも新境地になった気がします。
しかし、強いて言えば、それまで贅沢三昧でリッチに暮らして育ってきた国王の息子が
自由を謳歌したいと庶民の暮らしをニューヨークまで出てするところまでは理解するとしても、ピュアな恋愛を求めて、
「自分を見てもらいたい!」と一般家庭の娘にアピールし始めて、本気の恋に落ちるというのは少々クサ過ぎる(笑)。
自分の国では召使のような女性たちに囲まれて、まるでハーレムのように暮らしていたことを思うと、
ピュアな恋愛に憧れるということ自体、なんだか分かるようで分からない展開で、主人公が汚れた心を持たない、
という前提条件が僕にはどうにも受け入れ難かった(笑)。ましてやエディ・マーフィなら、そんなことはないだろう・・・と
偏見の塊のような見方をしてしまったので、映画の最初は汚れた心を持っていたけど、ニューヨークで暮らすうちに
主人公の心が洗われていくというストーリー展開の方が、僕の中ではスンナリと受け入れられたのかもしれません。
何気にTVシリーズ『ER −緊急救命室−』シリーズに出演していたエリック・ラ・サルが
ハンバーガー・ショップの娘のカレシを演じていて、スゲー性格の悪いキャラクターで“ソウルグロー”とかいう、
謎の整髪剤で髪をギトギトにしていて、彼の家族も“ソウルグロー”を付けて、椅子に跡が残るのが面白いですね。
有名なシーンではありますけど、サミュエル・L・ジャクソン演じる強盗がライフル持って、
ハンバーガー・ショップのレジ係を脅すというシーンがあって、掃除係だった主人公が剣術を駆使して応戦しますが、
怯えて静かにしていた、このカレシも「オレも攻撃のタイミングをうかがっていた」と後になって主人公に凄んだり、
とにかく性格的にイヤなキャラクターに徹していて、彼は利いている。そして、“ソウルグロー”のCMに出演していて、
経済的にリッチだからというだけでヒロインの親父に好かれていたのに、終盤では凄まじく雑な扱いを受けてしまう。
こういった一連のギャップが映画を面白くしているのは間違いないし、まだ下積み時代だったのでしょうけど、
本作のエリック・ラ・サルはエディ・マーフィの引き立て役として、結構良い仕事していたと思うんだけどなぁ。
彼の性格の悪いキャラクターが恋敵というのは、ストーリー的には単純に構成した方が良いとの判断だろうし、
エディ・マーフィを引き立たせるためでしょうね。なんせ、本作はエディ・マーフィが原案の映画ですからね。
ある種、エディ・マーフィ自身の当時の理想としていた恋愛劇を具現化しようとしたのが本作なのではないかと思う。
(そういうことができるだけの実力が、当時のエディ・マーフィにはあったということだから、それはそれでスゴい)
強いて言えば、ラストはもう少し丁寧に描いた方が良かったかもしれませんね。
ヒロインとの結婚に国王が反対しているという展開で、それを主人公の本音を聞いて王妃が説得するのですが、
ラストシーンにつながるまでの一連の流れが少々強引で、どうしてヒロインが心変わりしたのかも不明瞭なままだ。
アーセニオ・ホール演じる主人公の付け人にしても、「自分が国王の跡継ぎなんだ」とウソついていて、
それが最終的にはバレたのですが、これも中途半端に片付けられてしまったようで、もっと面白くして欲しかったなぁ。
そういう意味では、本作はラストへのまとめ方があんまり上手くない。まぁ、お約束なラストに帰結するわけですけどね。
何もかもが満たされた生活を送っていたとしても、やはり生まれながらにして自由が無いというのは
誰しも嫌なもので、風呂で体すら自分で洗ったことがないという生活では、“普通”に憧れるものなのかもしれません。
みんな簡単に「金も物も満ち足りた生活を送って、何が不満なんだ!?」と言い放つ人もいますけど、自由が無いって、
金や物とは引き換えにできないくらいの不満を抱くものなのだろう。生まれながらにして不自由な人も多くいるものだ。
僕自身も自分に置き換えて考えると、いくら満たされていたとしても、自由の無い生活はイヤだなぁというのが本音。
いくら華やかに暮らしていても、何かにつけてマスメディアに取り上げられ、SNSで叩かれたりするのは拷問です。
まぁ、なんでも「ほどほどが良い」なんて言いますけどね...本作の主人公も成長の過程で
そういった人生に憧れていったのだろう。これは運命に逆らうことを批判する人もいますけど、人間らしい面だと思う。
ある種の世襲で、国を背負うことが決まっているだけでも重たいのに、結婚相手も自分で決められないのは苦痛です。
そういう意味では、本作の“星の王子”は彼の親父が勝手に「種まきに行くのかぁ」と喜び始めますけど、
軽い気持ちではなく、普通の生活に憧れを持ってニューヨークへ行くと決心しただけに、親が用意したレールから
初めて外れて自分の足で歩もうと決めたということですね。それをコメディに変えてしまったエディ・マーフィもスゴい。
僕はてっきりアフリカの小国から出てきた主人公のカルチャー・ギャップで笑いをとるのかと思いきや、それは少ない。
やはり内容的に差別的にならないようにと、作り手もそれなりに配慮した結果だったのかもしれません。
とは言え、ジョン・ランディスの演出は快調、エディ・マーフィもやりたい放題に絶好調とゴキゲンなコメディ映画です。
クドいようだけど...最後のまとめ方がもっと上手ければ、傑作と呼んでいいくらいなんだけどなぁ〜。
(上映時間116分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 ジョン・ランディス
製作 マーク・リップスキー
レスリー・バルツバーク
原案 エディ・マーフィ
脚本 デビッド・シェフィールド
バリー・W・ブラウスタイン
撮影 ウディ・オーメンズ
編集 ジョージ・フォルシーJr
マルコム・キャンベル
音楽 ナイル・ロジャース
出演 エディ・マーフィ
アーセニオ・ホール
シャーリー・ヘドリー
ジェームズ・アール・ジョーンズ
ジョン・エルモス
マッジ・シンクレア
ポール・ベイツ
エリック・ラ・サル
アリソン・ディーン
サミュエル・L・ジャクソン
1988年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1988年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート