星の王子ニューヨークへ行く(1988年アメリカ)

Coming To America

ヤバイ...これは何度観ても、凄い楽しい(笑)。

この頃はエディ・マーフィがハリウッド・スターとして地位を固めようとしていた時期で、
ハッキリ言って、何をやらせても“当たる”時期の出演作で、ストーリーの原案も彼によるものである。

特殊メイクを駆使して、一人で何役もこなしているのは有名な話しで、
原案も彼であることを考慮すると、確かに彼の願望を具現化させただけのような気もするけど、
何より当時のエディ・マーフィにしか達成できなかったであろう、底知れぬ勢いが映画を支配している。
これは何物にも代え難い、映画にとっては奇跡的な産物と言っても過言ではない感覚だと思う。

監督のジョン・ランディスもエディ・マーフィのことはよく分かっていたようですが、
おそらく本作ぐらいになると、かなりの部分の裁量をエディ・マーフィに持たせていたのでしょうね。

一人で何役もこなすエディ・マーフィに刺激されてか、
本作でセミを演じたアーセニオ・ホールまでもが、特殊メイクを駆使して一人で何役もこなし、
あたかもエディ・マーフィに対抗するかのように、ギャグ合戦になるのが嬉しいですね。

映画の話しは単純明快で、
アフリカのとっても裕福な国“ザムンダ”の王位継承権を持つ王子が、
自分の故国以外を知らないことを恥り、親が操る強引な結婚を強いられる直前に、
小間使いのセミと一緒に、ニューヨークで遊び回る許可を得て、ニューヨークで“花嫁探し”をするという話し。

まぁ良く出来た映画という感じではないし、無論、完璧な映画とも言えない。

強いて言えば、タイトルにもなっていることなのですが...
何故、世界の数ある大都市の中から、アメリカのニューヨークに選んだのか、
この辺はご都合主義が幅を利かせることができる部分ではありますが、
あくまで本作に限っては、ひじょうに重要な部分ですので、もっと強い意味合いを持たせて欲しかったですね。

ましてや彼らは“花嫁探し”をする目的で渡米してくるわけなのですから、
何かしらの理由を付けて、まるで運命に引き寄せられるかのようにニューヨークへとやって来たという流れを
より説得力あるものとして描いて欲しかったですね。このままでは、チョット動機が弱いです。

さりとて、前述した勢いが映画を支配しているせいか、
そんな弱さがあっても、全てがカバーされてしまうのが、こういった絶対的な勢いを持つ役者が
主役を張っている映画の強みですね。例え同じエディ・マーフィが演じていても、
この時期のエディ・マーフィだからこそできた芸当だと思います。
あと3年、ズレていたら...おそらく映画はここまでの強さを出せなかったでしょうね。

細かいギャグではありますが、
主人公がニューヨークのクイーンズ地区に移り住んできて、アルバイトするハンバーガー屋が
“マクドナルド”をネタにしたパクりで、“マクドウェルズ”という店名で、ありとあらゆる商品が
“マクドナルド”のパクりであるという設定が面白く、更に勝手にライバル店と敵視しているのが面白い。

これは日本であっても、いつ訴えられてもおかしくない商法で、
仮に訴訟文化の根付いているアメリカでこんなことをやったら、裁判になるのは至極当然だろう。
勿論、これもまたエディ・マーフィなりのジョーク。“マクドナルド”がギャグのネタにされるのも、時代を感じます。

真の自分を愛してくれる女性を探しに行くという大きなテーマがあるのですが、
この映画、チョット弱いのがアキームが一目惚れするハンバーガー・ショップの娘が
どこまで真のアキームを理解して、どこまで彼のことを愛していたのか、今一つ明確ではない点だ。

彼女のボーイフレンドで、“ソウル・グロー”とかいうヘアスプレーのCMに出演する男が
あまりに最低最悪な男という、強烈な比較対象を出すことでクリアしているのですが、
これがあまりにステレオタイプ過ぎて、アキームの魅力の掘り下げが甘いのが残念ですね。
確かに今回、エディ・マーフィが演じたアキームという男は、マシンガン・トークをブチかましたり、
毒舌家であったりするわけではなく、庶民の生活をホントに渇望する穏やかな男だ。

但し、それでもどんな事情があるとは言え、アキームと結ばれる運命にあるというほどの
強い愛情というものは感じられないし、それを裏付けるアキームの魅力も表現し切れていないと思うのです。

ちなみに本作でエディ・マーフィの特殊メイクを担当したのは、リック・ベイカー。
エディ・マーフィはアキームで持ち前の芸当を披露することができないので、
この特殊メイクにより実現した複数の登場人物を演じることにより、このストレスを解消しています。

映画の終盤で、バーガーショップの経営者の邸宅でのシーンは今でも印象的ですね。

何とかしてアキームを呼び止めようとするものの、
娘の婚約者という“邪魔者”が玄関のインターホンを鳴らしまくるので、苛立ちながら玄関へ急行します。
このときの急ぎ具合というのが、それまで無かったコミカルさでここで明確に笑いをとりにきます。
この辺はジョン・ランディスのテンポの良い演出が活きており、ひょっとしたら映画のハイライトかもしれません。

何回もテレビで放送していた作品なせいか、
何故か僕の中では懐かしい感覚にさせてくれる、不思議な一本なんですよね。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・ランディス
製作 マーク・リップスキー
    レスリー・バルツバーク
原案 エディ・マーフィ
脚本 デビッド・シェフィールド
    バリー・W・ブラウスタイン
撮影 ウディ・オーメンズ
編集 ジョージ・フォルシーJr
    マルコム・キャンベル
音楽 ナイル・ロジャース
出演 エディ・マーフィ
    アーセニオ・ホール
    シャーリー・ヘドリー
    ジェームズ・アール・ジョーンズ
    ジョン・エルモス
    マッジ・シンクレア
    ポール・ベイツ
    エリック・ラ・サル
    アリソン・ディーン
    サミュエル・L・ジャクソン

1988年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1988年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート