星の王子ニューヨークへ行く2(2021年アメリカ)

Coming 2 America

88年のエディ・マーフィの代名詞とも言える大ヒット・コメディの33年ぶりに製作された続編。

正直言って、なんでこんなに時間が経ってから続編が製作されたのか謎だったのですが、
第1作はスゴく面白かっただけに、本作がどういう内容で続編として製作されたのか興味がありました(笑)。

まぁ・・・結論から言いますと...正直、同窓会的な続編という位置づけにしかなっていないかな・・・と思った。
第1作が楽しくて楽しくて仕方がなかったという人にはオススメできるけど、そもそも続編製作の必要性を
本作では表現し切れておらず、そりゃエディ・マーフィは楽しかったでしょうけど、内輪の盛り上がりの域を出ない。
それでも、必死に盛り上げようと頑張っているのは分かるのですがね・・・。ただ、エディ・マーフィ自身に勢いが無い。

そのせいか彼自身がすっかり達観したような立ち位置になってしまっていて、どうにもパンチが無い。
ザムンダ王国の後継者を探すというテーマは、時間の経った続編としてはセオリー通りのような気がしますが、
ストーリーとしては成立していても、ここまで達観したように落ち着いてしまったアキームでは第1作には勝てない。

本作の全米での劇場公開時期がコロナ禍の始まりと思いっ切り被ってしまい、アメリカ全土での映画産業が
ピンチに陥って、その時期に劇場公開になり製作費を回収できないという事態になり、ネット配信が中心になるという
不運にも見舞われてしまいましたが、個人的にはそれが無くとも、映画の出来自体が少々苦しかったのでは?と思う。

正直、エディ・マーフィのマシンガン・トークを期待すると肩透かしを喰らうので、
エディ・マーフィが絶好調だった頃のコメディのクオリティを期待しない方がいいです。それには遠く及ばないので。
むしろ、本作にはエディ・マーフィなりの世代交代への期待が込められていると解釈した方が、適していると思います。

エディ・マーフィ演じるアキームがザムンダで国王になって、それはそれで感慨深いのですが、
このザムンダ王国が直面する“お世継ぎ”の問題を描いていて、アキームに娘しかいないことを危惧した父親が
30年前にアキームがニューヨークに行ったときに、実は婚外子を設けていたということを嗅ぎつけることに端を発し、
そこから始まる騒動を描いています。そこでアキームは彼の息子が、次代として相応しい人材かをテストします。

このテストがザンムンダ王国に彼を連れてきて、ライオンの毛を切ってくるとか、典型的なアフリカン・スタイル(笑)。

“ムリゲー”な課題もクリアしてきながらも、結局はアキームの息子。しっかり遺伝子を継いでいたようで、
この息子も与えられた花嫁候補ではない女性とのピュアな恋愛に目覚めて、父と同じような姿を見せていきます。

まぁ・・・結局はありがちなストーリー展開の続編になっていくわけですが、
映画の中心にいるのはエディ・マーフィとアーセニオ・ホールの名コンビ。ただ、この2人も達観したような立ち位置で
アキームの息子の成婚を見守るという感じで、時折繰り出すギャグという塩梅なので、映画に爆発力が無い。

結局は前述したように、同窓会的なノリで映画を撮ったせいか、前作のファンに向けられた“ご褒美”的な
作品という域を出なかったという印象で、見守るスタンスのエディ・マーフィがたまにギャグを繰り出すだけでは
さすがに映画としては面白味に欠けるというのが本音。それでも、エディ・マーフィがこの続編の企画に参加したのは
やはり彼にとっての世代交代を表現したかったのでしょう。そうであれば、もっと息子は目立たせて欲しかったなぁ。

そういう意味では、本作も不変的なことを描いていて、婚外子とは言え、結局はアキーム自身が若い頃に
自分の父親に反発したように、同じことを息子にされる。遺伝というわけではないのだろうが、不思議とそうなるもの。
これは万国共通のことだろうし、おそらく本作でエディ・マーフィが最も強く描きたかったことなのではないだろうか。

こういう言い方は申し訳ないけど...正直、アキームの息子を演じたジャーメイン・ファウラーではパンチ不足。
この結果はエディ・マーフィにとっても心外かもしれませんが・・・この企画は彼が目立たないいけなかったはずだ。

それがエディ・マーフィとアーセニオ・ホールの2人が中心となって描かれたことだけではなく、
対立する隣国のしつこい指導者ウェズリー・スナイプスを助演に据えたおかげで、より息子が目立たなくなった。
久しぶりにウェズリー・スナイプスがここまで大きい役で出演しているのは嬉しいけど、少々チグハグに映ってしまう。

前作で下町の床屋に集まる老人を一人で複数演じて「あれもこれもエディ・マーフィ!」という
宣伝文句がありましたが、本作でもこの老人たちを前作と同様に演じていて、これは前作のファンにたまらない。
一緒になってアーセニオ・ホールまでも前作に続いて老人に扮しており、これもまた何とも懐かしい感じで嬉しい!

その他にも前作の未公開シーンなのか、新たに撮影したのかは分かりませんが、
少しずつ前作には無かったシーンが追加されたりしているのも、前作を楽しんだファンにも嬉しいところですが・・・
結局、これらは前作の延長戦上の楽しみというか...やっぱり前作の同窓会的なノリにしか観えないところがツラい。

しかも、タイトルは“アメリカへ行く”というニュアンスなのですが、本作は前作とは反対にほぼザムンダ王国が舞台。
これも結果的には寂しいなぁ。やっぱり、この話しはアフリカ小国の王子がアメリカに来るから面白いのだと感じる。

言ってはアレですけど、よくあるタイプのカルチャーギャップを楽しむコメディ映画なわけで、
そういったギャップがあるからエディ・マーフィのキャラクターも引き立つわけで、やっぱり彼がアメリカに行かないと。
監督のクレイグ・ブリュワーは06年の『ブラック・スネーク・モーン』などで監督経験のあるディレクターでしたが、
本作は事実上、エディ・マーフィの意見力が強かったのかもしれず、なんとも微妙な立場だったのかもしれませんね。

どちらかと言えば、ザムンダ王国での生活に慣れたアキームらが憧れたニューヨ−クでのシティライフに圧倒され、
カルチャーギャップを感じるというのと反対で、本作ではニューヨークに暮らしていたアキームの婚外子らが
ザムンダ王国にやって来て、そのリッチな暮らしぶりに圧倒されるという展開でしたが、前作に比べるとパワーダウン。
もう少しこのカルチャーギャップをギャグにする流れは欲しかったなぁ。この辺も前作の方がハッキリしていましたしね。

それから、アキームの妻の父親が経営するハンバーガーショップがザムンダ王国でも開店している、
という設定は悪くないと思ったけど、この店の大手バーガー・チェーンをパロティしたギャグももっと前に出して欲しい。
時代も変わって、方々からクレームが入るのかもしれませんが、前作と比べると全体にトーンダウンしてしまっている。
(この辺を観ると、「やっぱりジョン・ランディスが監督しないとダメなのかぁ?」と思ってしまった・・・)

しかし、それでも本作のスゴさはそういった同窓会的なノリを生み出せた原動力として、
33年前の第1作のキャストをできる限り集めたことだろう。どうやらエディ・マーフィとアーセニオ・ホールらが
この続編に出演すること自体、スムーズに決まったわけではないようですけど、多くの同じキャストが集まりました。

これは何気にスゴいことだと思いますし、前作のイメージを壊すことなく続編を製作できた強みがある。
それゆえ、同窓会的なノリになってしまったことはマイナスに働いた部分もあるけど、これはこれでスゴいことだと思う。

アキームの父親である病気がちな国王を演じたジェームズ・アール・ジョーンズも再び出演していますが、
彼自身が望んで盛大な生前葬を催してもらい、その最中に最期を迎えるという出来過ぎた展開を迎えてしまう。
実際に本作が映画出演としてはジェームズ・アール・ジョーンズの遺作になってしまったのですから、インパクト絶大だ。
まぁ、ジェームズ・アール・ジョーンズだからこそ、このザムンダ王国は統治できたのだろうと思える存在感ですからね。

結果的に、続編という位置づけではあるものとは言え...前作のスピンオフのような感覚でした。
こうなってしまうと、33年の年月を経て続編を製作した意義が弱いんだなぁ。開き直って、前作のギャグ路線を踏襲して
エディ・マーフィのパワーを見せつけるというベクトルの方が、続編としての意義もできたし面白くなったのではないか?

そういう意味では、コメディ映画に定評がある人が撮った方が良かったのかなぁと思えてならない。
前作のキャストをほぼほぼ集められたという時点で、スゴい企画だったと思えるので、そういう意味では勿体なかった。

前述したように、コロナ禍真っ只中に劇場公開されて、思うようなプロモーションもできずに興行収入が低迷し、
配給元のパラマウントが権利を手放して、すぐにネット配信にシフトしてしまったという不運もあったけれども、
この出来ではさすがにコロナ禍ではなかったとしても、興行的には大ゴケしてしまっていたのではないかと思えてしまう。
残念ながら、エディ・マーフィの復権とまではいかず、往年のコメディ映画のパワーは十分に発揮できませんでしたね。
(まぁ、正直・・・エディ・マーフィも若い頃と比べたら体型的にもかなり肥えてしまいましたしねぇ・・・)

繰り返しになりますが...本作を観る前には、絶対に第1作を観ておいた方がいいです。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 クレイグ・ブリュワー
製作 ケビン・ミッシャー
   エディ・マーフィ
脚本 バリー・W・ブラウスティン
   デビッド・シェフィールド
   ケニヤ・バリス
撮影 ジョー・ウィリアムズ
編集 ビリー・フィックス
音楽 ジャーマイン・ステガル
出演 エディ・マーフィ
   アーセニオ・ホール
   ジャーメイン・ファウラー
   レスリー・ジョーンズ
   トレイシー・モーガン
   ウェズリー・スナイプス
   キキ・レイン
   ジェームズ・アール・ジョーンズ
   シャーリー・ヘドリー
   ポール・ベイツ
   モーガン・フリーマン
   グラディス・ナイト 

2021年度アカデミーメイクアップ&ヘアメイク賞 ノミネート