コールド マウンテン(2003年アメリカ)

Cold Mountain

南北戦争の最中、一途な愛を貫いた南軍の兵士インマンと、
チャールストンから転居してきた牧師の娘エイダの強き愛を描いた文芸大作。

監督は96年に『イングリッシュ・ペイシェント』で大成功を収めたアンソニー・ミンゲラで、
本作も大規模な戦争シーンや、豪華キャストの共演で話題となったのですが、
個人的には期待していたほどの出来ではなく、若干、消化不良で終わった感が残りますねぇ。

どうやら、チャールズ・フレイジャーの原作が全米ではもの凄く有名らしく、
確かに南北戦争の悲惨さ、特に南軍であった“脱走兵狩り”の残酷さを描いたという面では、
従来の戦争映画とは一線を画す部分があるのかもしれませんが、この映画には訴求力が無い。

もっとも、インマンとエイダの恋愛について、作り手も慎みを持って描いたでしょうが、
一瞬にして燃え上がったインマンとエイダの愛の強さが、どうにも伝わってこないというか、
インマンにしてもエイダにしても、僅かな時間でも十分に永遠の愛を誓い合うだけの強き愛になったという、
2人の愛の強さを象徴するものが、この映画の前半にないせいか、今一つ説得力がないまま映画が続く。

描写の程度は、慎みある恋愛映画として考えれば、これぐらいで丁度良いと思う。
しかし、僕が描くべきだったと思うのは、インマンが出征するまでにお互いが出会いに
強い衝撃を受けていたことを象徴させるシーン演出で、それが冒頭の最初に会話を交わすシーンだと言うのなら、
あまりに軟弱で、出征して瀕死の重傷を負いながらもエイダのもとへ帰ろうとするインマンの執念や、
何年も一人にさせられて、それでも飢えに耐え、一途にインマンを待つエイダの行動に納得性がないですよね。

これって、インマンとエイダの愛がメインの映画であるがゆえ、とても大事な部分だったと思うんですよねぇ。

まぁ・・・確かに、南北戦争の時代が舞台の物語ですので、
全てが全て、現代の感覚では語れないとは思いますがねぇ。とは言え、もう少し踏み込んで欲しかった。
そうでなければ終盤の慎みを重視した、抑制の利いたインマンとエイダの描写が活きてこないからなんですね。

映画のスケールはアップしたし、すっかりハリウッドの大作主義的な部分を踏襲した、
アンソニー・ミンゲラでしたが、これならば個人的には『イングリッシュ・ペイシェント』の方が
ディレクターとしては良い仕事をしていたと思うし、映画の出来自体もあちらの方がずっと良かったと思う。

この映画はとにかくロケーションが素晴らしかったと思う。
ジョン・シールのカメラも良いんだけど、物語の舞台となる土地柄や時代設定、
季節などに上手く合った画面作りができていて、これは有能なスタッフがいたからこそ成し遂げたワザだ。

撮影の大半はルーマニアで行われたらしいのですが、
おそらくアンソニー・ミンゲラも自身のイメージ通りの画面が撮れたという、実感があったことでしょう。

キャスティングにしても抜群に恵まれていて、
ジュード・ロウは00年代に入ると、ハリウッドでも知名度がトップクラスになっていたし、
ニコール・キッドマンは『ムーラン・ルージュ』でグールデン・グローブ賞を獲得したばかりで、
前年も『めぐりあう時間たち』で念願のオスカーを獲得するなど、評論家筋からも高い評価を受けていた時期。

加えて、レニー・ゼルウィガーも前年の『シカゴ』でニコール・キッドマンと
主演女優賞の部門でオスカー・レースを賑わせており、冷静に考えると、これは凄い企画だったと思います。

オスカー受賞と高く評価されたレニー・ゼルウィガーはホントに奮闘しており、
登場からいきなり、獰猛なニワトリを捕獲してはシメるという実にワイルドな役柄ですが、
独特な田舎訛りがある英語を操って、大自然に育てられたお転婆娘ぶりを見事に体現。
思わず、「レニー・ゼルウィガーって、こういう役も演じることができるのかぁ〜」と感心させられましたね。

ちなみに彼ら以外にも、フィリップ・シーモア・ホフマンやナタリー・ポートマンといった、
ビッグネームが出演していますが、彼らはあくまでチョイ役扱いなので、あまり期待しない方が吉(笑)。
(しかし...この2人までチョイ役扱いって、どんだけ贅沢な企画なんだ、この映画・・・)

さりとて、これだけ恵まれていた企画であったにも関わらず、
少し映画の出来が残念なんですね。ハリウッドでこれだけ真正面から純愛を描くということ自体が、
そこまで多くはないせいか、ひょっとしたらアンソニー・ミンゲラもどうアプローチしようか悩んでいたのかもしれない。

しかし、その慎み深さが良い方向に向かったかなぁと思えたのは、
映画の終盤でインマンとエイダが再会する場面で、ここは逆に過剰な演出でなくて良かった。
従来のクラシック映画の世界であれば、ここぞ盛り上げどころとばかりに過剰な演出に走りがちなのですが、
インマンとエイダの一途な愛であれば、むしろこれぐらい静かな再会という方が、感情的に盛り上がるでしょう。
しかし、本作の場合は力の入れどころが確実にあって、それが前述した映画の序盤の二人の出会いだったと思う。

主に映画の序盤にある、戦地でのシーンの描写もそこそこ悪くない。
勿論、それがメインの映画ではないので、戦地での緊張感に固執する必要があるかは微妙なところだが、
その分だけ、レイ・ウィンストン演じる義勇軍の存在を、常に観客にストレスを与えるものとして描き続け、
義勇軍の大義名分を超えて、半ば見せしめ的に命を狙われる恐怖を、巧みに描けていると思います。

特にブレンダン・グリーソン演じるルビーの父親が寒空の中、
焚火をして寝ていたところ、義勇軍の連中が割り込んでくるシーンの緊張感はなかなか優れている。

上映時間が2時間30分を超える、かなりのヴォリュームなので、
さすがに見応えは十分な作品ですね。欲を言えば、もう少しスリムにして欲しかったけれども、
有名な原作の映画化ということもあって、映画仕様に大胆な脚色は難しかったのでしょう。

しかし、この手の文芸大作に慣れていない人には、かなりの体力を要する映画でしょう。
各エピソードも結構、重たいせいか、ある意味では観る前に体調をベストな状態にしておいた方がいいかも。

好きな人には申し訳ないが、このヴォリュームにして映画が少し弱い。
厳しい見方かもしれませんが、これは平均点レヴェルの映画と言われても仕方ないかなぁと思う。
個人的にはアンソニー・ミンゲラには『イングリッシュ・ペイシェント』や『リプリー』を観て期待していたので、
本作を最初に観た時の落胆は大きかったが、彼が急逝してしまった今となって考えると、
こういう映画が撮れる映像作家も数少ないだけに本作についても、もっと寛容的に見るべきだったのかもしれない。

(上映時間154分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−15]

監督 アンソニー・ミンゲラ
製作 アルバート・バーガー
    ウィリアム・ホーバーグ
    シドニー・ポラック
    ロン・イェルザ
原作 チャールズ・フレイジャー
脚本 アンソニー・ミンゲラ
撮影 ジョン・シール
美術 ダンテ・フェレッティ
編集 ウォルター・マーチ
音楽 ガブリエル・ヤーレ
出演 ジュード・ロウ
    ニコール・キッドマン
    レニー・ゼルウィガー
    レイ・ウィンストン
    ブレンダン・グリーソン
    フィリップ・シーモア・ホフマン
    ナタリー・ポートマン
    ジョヴァンニ・リビシ
    キャシー・ベイカー
    ジェームズ・ギャモン
    ドナルド・サザーランド
    ジェナ・マローン
    アイリーン・アトキンス
    チャーリー・ハナム
    ジャック・ホワイト
    メローラ・ウォルターズ
    ジェームズ・レブホーン
    キリアン・マーフィ

2003年度アカデミー主演男優賞(ジュード・ロウ) ノミネート
2003年度アカデミー助演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2003年度アカデミー撮影賞(ジョン・シール) ノミネート
2003年度アカデミー作曲賞(ガブリエル・ヤーレ) ノミネート
2003年度アカデミー歌曲賞 ノミネート
2003年度アカデミー編集賞(ウォルター・マーチ) ノミネート
2003年度全米俳優組合賞助演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2003年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2003年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(ガブリエル・ヤーレ) 受賞
2003年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2003年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2003年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞
2003年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(レニー・ゼルウィガー) 受賞