コクーン(1985年アメリカ)

Cocoon

老人ホームで静かに余生を過ごす老人たちと、地球に仲間を助けに来た
異星人との心温まる交流をユーモラスに描いた、後に大成するロン・ハワードの出世作。

確かに本作はスピルバーグの『未知との遭遇』から、完全にインスパイアされた作品で、
どこかで観たことがある...というか、まぁ・・・『未知との遭遇』で観たような描写が多いのも事実だ。

しかし、この映画はよく考えたと思う。
自らの死を否が応でも意識するであろう、“人生のまとめ”とも言える老人ホームでの暮らしに入り、
健康寿命を超え、何かしらの病気を抱え、時折検査を受けながら、友人とは言えずとも、
顔見知りで仲の良かった老人ホームの仲間は、様々な理由でいつの間にか他界する。

ハッキリ言って、いつまで続くか分からない、順番を待っているような状態だ。

当然、気持ちは若くとも、身体はいろいろなところにガタがきて悲鳴を上げ、
思うような動きができなければ、全く体がついてこないことに、日々をショックを受けていく。
そんな老人ホームでの生活の中で、異星人との交流を通して、不老不死に近づこうという、
希望を胸にまるで異星人を地球人であるかのように接し、交友を持つなんて発想自体、正しくファンタジーだ。

この映画の突き抜けたところは、クライマックスだ。僕はこんな結末を予想していなかった。

いつも常識的な判断をするロン・ハワードですが、たまにこういう突き抜けたものを描くディレクターで、
あくまで常識的な判断をすれば、本作のようなエンディングにはならないはずなのですが、
老人たちはまるで不老不死という永遠のテーマにチャレンジするかの如く、交友を深めたアンタレス星人たちへの
憧れを深め、多くの観客の予想を裏切る結末に力強く導いてしまうロン・ハワードの演出力に感服してしまう。

この奇跡的なまでのファンタジーを、当たり前のようにやってのけるロン・ハワードだからこそ、
長年にわたってハリウッドで生き残り、名匠と呼ばれる存在になっていく所以があるのだと思います。

よく年をとると、死生観が変わるみたいな話しを聞きますが、
事実として年齢が寿命年齢に近づいてくると、死がより現実感を伴って感じられるだろうし、
同世代の知人や有名人が他界することが目立ってくると、余計に人生の最期を強く意識するだろう。
これは人生の集大成を迎えるということもあるし、家族への責任を感じるということもあるでしょう。

そんな中で、「やっぱり老いたくはない」とか「病気に悩まされない世界に住みたい」という、
ある意味では非現実的でファンタジーなことへの憧れも抱くということは、十分にあることだと思う。

それが仲間への愛情とも相まって、通常であれば躊躇するであろう、
異星人が生きる世界で不老不死を実現しようと、人生の最期を間近にした老人たちが行動するという、
これまでの映画では全く描かれなった、奇想天外なストーリーを実に堂々と描き切っている。

これを映画監督としてのキャリアをスタートさせて間もない頃のロン・ハワードが
アッサリと成功させたという事実に、やはり当時のロン・ハワードのポテンシャルの高さを感じますね。

この映画のラストは、とても穏やかなラストではありますが、決して常識的とは言えない突き抜けたものがあります。
それをロン・ハワードのようなどちらかと言えば、正攻法の映像作家が堂々とこの突き抜けたラストに立ち向かい、
真正面から描き切った上で、観客に違和感を与えずに、映画として一切破綻させなかったことに価値があります。

88年に本作の続編が製作されてはいますが、
その続編とは一旦切り離して考えると、本作は難しいことをやってのけた秀作と言えると思います。

ただ一つだけ言えば、個人的にはクライマックスを迎え、最高潮のテンションのところで、
老人たちの“旅立ち”を残された家族が葬式を行うシーンが描かれるのですが、これは余計だ。
観る人によって感じ方は違うだろうが、僕はこれが無かった方が映画の突き抜け方が、もっと生きたと思う。
これで85年を代表する大傑作になり損ねたと言っても、僕は過言ではないと思う。

個人的には本作で印象に残った老人たちでは、白血病に苦しんでいた老人ジョーを演じた、
ヒューム・クローニンですね。不思議な繭のあるプールで泳いだ途端、元気になって、
病気も快方に向かっていることを知った途端に、まるで全ての呪縛から解放されたかのように
一気に行動も考え方も立ち振る舞いも若返り、勢い余って(?)、夜遊びにまで手を出してしまう。

彼は実生活でも妻であるジェシカ・タンディを、映画の中でも長年連れ添う妻アルマ役で共演という、
なんとも複雑な仕事になりましたが、気持ちまで若返っていく過程が上手く表現されていましたね。

一方、長身でひょうきんなところのあるアートを演じたドン・アメチーは本作で高く評価されました。
この頃は、ドン・アメチー自身、俳優として再ブレイクしていた頃で一時期よりも多く映画に出演していたようです。
持ち前の笑顔が印象的で、本作では勿論、代役が演じていると思いますが、ディスコでブレイクダンスを披露します。
おそらく、このディスコでのシーンは本作のハイライトとなるべき、老人たちの活気を象徴したシーンでしょう。

ILMが担当した特撮技術は、既に安心のブランドだったのか、良い仕事ぶりだ。
80年代半ばは、ある程度の技術力があった時代だったこともあり、素晴らしい出来栄えだと思う。

老人の若返りをテーマにした映画は数多くあるし、
異星人と地球人の交流を描いた映画も数多くあります。しかし、本作は老人の若返り現象に対して、
異星人が直接的に何か施すということではなく、単に繭の入ったプールで泳ぐと若返るという発想が面白い。

それを知った同じ老人ホームに入居する老人たちが、
我こそをとプールに入りに来るシーンも印象的で、それだけ老人たちが若返りを願っているということだ。
でも一方で、バーニーのような「人間は定められた寿命をまっとうすべきだ」と主張する人もいるわけで、
このバーニーの意見の方が常識的な意見なのかと思うと、不老不死というのは禁断のテーマに思える。

それにチョット異色なアプローチで挑戦したからこそ、本作は価値があるんですねぇ。
こういう作品をサラリと撮れるロン・ハワードこそ、もっと高く評価されるべきだと思うんですがねぇ。
当然、後々評価されるようになっていくのですが、日本では何故かそこまで知名度が上がらないんだよなぁ・・・。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロン・ハワード
製作 リチャード・D・ザナック
   デビッド・ブラウン
原作 デビッド・サバースティン
脚本 トム・ベネディク
撮影 ドン・ピーターマン
特撮 ILM
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 スティーブ・グッテンバーグ
   ドン・アメチー
   ターニー・ウェルチ
   ブライアン・デネヒー
   ウィルフォード・ブリムリー
   ヒューム・クローニン
   ジェシカ・タンディ
   ジャック・ギルフォード
   グウェン・ヴァードン
   モーリン・ステイプルトン
   クリント・ハワード

1985年度アカデミー助演男優賞(ドン・アメチー) 受賞
1985年度アカデミー視覚効果賞 受賞