クローサー(2004年アメリカ)

Closer

ひじょうに下世話な映画ではありますが...
思わず、「所詮、男女関係なんて、こんなもん」と現実を悟ってしまいました(笑)。

名匠マイク・ニコルズが老いても尚、こういう題材の映画を手掛けたことに驚かされますが、
正直に申し上げますと、これは残念ながら映画としては魅力に欠けますね。

せっかくのナタリー・ポートマンが大人の女優として頑張って奮闘したというのに・・・
そしてジュリア・ロバーツとジュード・ロウ、クライブ・オーウェンと豪華キャストを集めたというのに・・・
こんなに何を撮りたいのか、よく分からない内容の映画にしてしまったというのは、実に勿体ないこと。

確かに、ある意味で現実味を帯びた映画だとは思うのですが...
現実味を帯びた映画が面白いかと言われると、一概にそうとは言い切れない好例になっていますね。
個人的には、もう少しテーマ性を持って映画を撮った方が良かったような気がしますし、
恋愛感情と性的嗜好、そして自我の間で揺れ動く心理状態を直接的に描いた作品ですので、
確かにこれは大人向きの映画だと思います。そういう意味で、レイティングは適切なのでしょうね。

とは言え、ただ漫然とパートナーに要求する姿を描くだけでなく、
理想のパートナーシップであったり、信頼関係が崩壊することによって生じる摩擦を、
もっと大胆にクローズアップして欲しかったですね。これでは、ただ言い合うだけで、肉薄できていません。

まぁマイク・ニコルズってキャリア長い映像作家だけど、
色々と“回り道”してきた映像作家であり、様々なジャンルの映画を撮ってきたのですが、
70歳を超えて、久しぶりに撮った映画がこんな内容だというから、それはもうビックリ(笑)。

映画はロンドンの新聞社で死亡欄を担当するダンが、
偶然、ロンドンを訪れていたアメリカ人女性アリスとロンドンの街角で出会い、
お互い一目惚れしたことがキッカケで付き合い始めるものの、移り気なダンは執筆した本に掲載する
ダンの写真を撮影することになったアンナと浮気し、次第にダンはアンナにのめり込んでいく。

そんな中でダンがイタズラで参加していたチャットで挑発したところ、
そこでアッサリ挑発に乗ってきた医師ラリーがひょんなことからアンナと知り合い、
2人は恋愛関係に発展。ダンから浮気を告白されらアリスが、ヤケを起こして働いていた
ロンドンのストリップ・バーに訪問したラリーが、今度はアリスを浮気するという、
4人の男女が織りなす、複雑な恋愛模様を描いた、ドロドロとした作品になっています。

さすがにマイク・ニコルズはつまらないミステイクしてはいませんが、
前述したように、もう少しテーマ性を持って映画を撮るべきでしたね。
ただ漫然と4人が主張し合う姿を描いてしまったがために、一体、何を撮りたかったのかよく分かりません。

ただ単に主張し合う4人を撮りたかっただけなら、
別にこんな内容でなくとも良かったし、コメディ映画にしても良かったと思うんですよね。
これで映画が凄くシリアスなものですから、悪い意味で映画が重たくなっちゃいましたね。

随分と挑発的な題材を選んだ割りには、
この題材を全く活かせなかった結果に陥ってしまい、これが舞台劇なら面白かったのかもしれませんね。

昨今、『ブラック・スワン』でオスカーを獲得して、
94年の『レオン』から16年、ようやっと大人の女優として評価されたナタリー・ポートマンも出演していますが、
本作の時点でひじょうに良い仕事しています。本来であれば、彼女をもっとクローズアップして欲しいところ。
ストリップ・バーでのシーンなど、大胆な演技を要求されていますが、とっても上手かったと思います。

かつてマイク・ニコルズが撮った名作『卒業』は、艶笑的なニュアンスがある映画で、
アン・バンクロフトもキャサリン・ロスも各々インパクトのある役どころで、強い存在感でした。
できることならば本作もジュリア・ロバーツやナタリー・ポートマンをもっと活かして欲しかったですね。

僕は最初、この映画の物語の舞台がロンドンである必要性がよく分かっていなかったのですが、
この映画で唯一感心した点はこの点で、映画のクライマックスでロンドンを舞台にした意味が分かります。

そういう意味で、本作はナタリー・ポートマンが主役だったのかもしれません。
前述したストリップ・バーでの変貌ぶりは勿論のことですが、映画の最後には10代の頃の面影を感じさせる、
あどけなさを思い起こさせるあたりなんかは、彼女中心に映画を組み立てていたことを察せられますね。

強いて言えば、この映画のキーとなるのは「嘘」なのかな。
2組のカップルを見るに、秘密を隠し切れないのは、いつも男の方というのが興味深いですね。
勿論、女性も「嘘」を許せないとは思うのですが、「嘘」を抱えながら生きていくことができないのは男。
結局、自責の念にかられ、「嘘」を告白。しかし、場合によっては相手を傷つけてしまうんですね。

相手の「嘘」も粗探しを始めてしまうのですが、
秘密を打ち明けて自責の念から解放されるという行為が、マスタベーションに見えるジレンマ。

ホントは本作、こういうジレンマに言及したかったのだろうけど、
やはり映画にもう少し明確なテーマ性があった方が良かったですね。
その方が訴求性のある映画になったであろうし、ディレクターの主張も明確になったと思うんですけどね。

しっかしマイク・ニコルズ、元気だなぁ〜。
やっぱりアメリカン・ニューシネマ期をくぐったディレクターは基礎体力が違うのかもしれません。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

日本公開時[R−15]

監督 マイク・ニコルズ
製作 ケイリー・ブロコウ
    ジョン・キャリー
    マイク・ニコルズ
    スコット・ルーディン
脚本 パトリック・マーバー
撮影 スティーブン・ゴールドブラット
音楽 モリッシー
出演 ジュリア・ロバーツ
    ジュード・ロウ
    ナタリー・ポートマン
    クライブ・オーウェン
    コリン・スティントン
    ニック・ホッブス

2004年度アカデミー助演男優賞(クライブ・オーウェン) ノミネート
2004年度アカデミー助演女優賞(ナタリー・ポートマン) ノミネート
2004年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(クライブ・オーウェン) 受賞
2004年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(クライブ・オーウェン) 受賞
2004年度ラスベガス映画批評家協会賞助演男優賞(クライブ・オーウェン) 受賞
2004年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演女優賞(ナタリー・ポートマン) 受賞
2004年度トロント映画批評家協会賞助演男優賞(クライブ・オーウェン) 受賞
2004年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(クライブ・オーウェン) 受賞
2004年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ナタリー・ポートマン) 受賞