未知との遭遇(1977年アメリカ)

Close Encounters Of The Third Kind

どうでもいい話しかもしれませんが...
この邦題を考えた人は、実に偉大な名付け親ですね。こんなにピッタリな邦題はなかなかありません。

賛否はあれど、僕は本作が現時点でのスピルバーグの最高作だと思っています。
後にも先にも、これだけミステリアスで魅力的な映画は、スピルバーグは撮れていません。

実は結構、オカルトな空気が漂う内容で、
特に超常現象に見舞われて、子供がさらわれてしまうといったシーン演出なんかがあって、
地味にSFホラーみたいな雰囲気もあったりするのですが、ラストでは一種のカタルシスを感じさせます。

たぶん75年の『JAWS/ジョーズ』をリアルタイムで観た人たちは、
そうとうに驚かされてビックリしたのでしょうが、本作は一つの到達点ですらあると思います。
僕は本作をリアルタイムで映画館で鑑賞した人が羨ましくて仕方がないですね。
さすがにこの感動を超えるというのは、そうとうに難儀なことで、リバイバル上映でも得難い感動でしょうね。

82年にスピルバーグは『E.T.』を撮って名実共に、ハリウッドの頂点に立ち、
ヒットメーカーとしてあらゆる作品を80年代〜90年代にかけて発表し、今尚、君臨していますが、
彼が『E.T.』を撮るキッカケとなったのは間違いなく本作にあって、異星人との接近というテーマを
映画ファンにいち早く訴求し、尚且つ、どういう経緯で本作への出演をオファーしたのか分からないのですが、
本作にフランス人科学者として出演した、フランス映画界の巨匠フランソワ・トリュフォーから、
「君はもっと子供を描くべきだ」とアドバイスされて、『E.T.』の構想が具体化したはずなのです。

まぁスピルバーグがフランソワ・トリュフォーの映画が好きで、
本作への出演をオファーし、あまり俳優として出演することはなかったフランソワ・トリュフォーですが、
ひょっとするとスピルバーグの手腕を評価していたのでしょうかね。初めてハリウッド映画に関係しました。

もっとも、生前、フランソワ・トリュフォーは
「私は暴力は嫌いだし、政治にも興味はないから恋愛映画しか撮れない」とコメントしていたらしく、
実はSF映画にも嫌悪感を表明していたので、本作への出演は大きなサプライズだったそうだ。
(そういえばレイ・ブラッドベリの傑作『華氏451』を映画化したのも、フランソワ・トリュフォーでしたね)

こういうキッカケを得たという意味で、本作は実に偉大な作品だと思うんですよね。

そして、本作でスピルバーグが慎みを持って描いたのは、
クライマックスに向けて主人公らが引き寄せられていく様子ですね。決して理屈を前提としない。
科学的な観点だけに依存すると、映画は違った形になったと思うのですが、
本作では主人公らがクライマックスのシチュエーションに引き寄せられる様子を、ボカして描いているんですよね。

言ってしまえば、理由などないのです。
それでも不思議と皆が引き寄せられてしまうという、ある種、宿命のような形で描いているのが面白いですね。

その一貫として描かれるシーンが僕は大好きなんですよね。
例えば主人公が何かに取りつかれたようにマッシュポテトで“山”をデザインし始めたり、
ゴミやガラクタを家の中に集めて、“山”のオブジェを作り始めたり、とにかく主人公が不思議と引き寄せられる
様子を描いたのが、とても良かったですね。これはスピルバーグの一途さの表れと言ってもいいと思います。

まぁ主人公が結果的に家族に不信感を抱かれてしまうのは、
スピルバーグとしては異例な描写だとは思いますが、決して致命的なミステイクではないと思いますね。
そういう意味では、フランソワ・トリュフォー演じる科学者のような理解者を立てることで、若干、フォローしてますし。

思わず宇宙船との交信で、和音を使った“会話”という設定だったが、
いつの間にかジョン・ウィリアムズの音楽を使って、メロディを奏でるようになっているなんて、
スピルバーグの“遊び心”が感じられて、ご愛嬌な部分もあるけど、実に愛すべき映画だと思うんですよね。

確かに今のスピルバーグなら、もっと違う表現をしていたでしょうが、
こういった“遊び心”があったからこそ、当時のスピルバーグはもっと面白い存在だったんだと思いますね。

製作当時の技術力を考えれば、これは凄い技術力だと思いますね。
やはり『サイレント・ランニング』を監督した人じゃないですね、ダグラス・トランブルは(笑)。
例えば宇宙船の造形なんかは、実に見事に描かれていると思いますし、これは『サイレント・ランニング』で
特撮によって表現した宇宙船の造形がモデルになっているのではないでしょうかねぇ。

僕は文句なしに本作が現時点でのスピルバーグの最高作だと思っています。
抽象的な部分があるし、エキセントリックで分かりにくい内容ではありますが、
それまでは“未知”をある種の恐怖としてしか描いてこなかったセオリーが映画界のスタンダードだったのですが、
本作ではそういった感覚を180度覆し、新たな出会いという興奮に満ちたものとして描いたことに新鮮味があり、
映画の発想としても、おそらく公開当時はそうとうに衝撃的な内容であったのではないだろうかと思います。
(まぁ映画の前半はややホラーちっくではありますが、後半は完全にそういった色は排してしまう)

もう一つ、
この映画の凄いところは、スピルバーグが映画の中から余分なメッセージ性を完全に排除した点で、
事実、主人公はどう見ても正常な判断がつかなくなり、何かに取りつかれたように行動するのですが、
本来ならば、彼があたかも洗脳されたかのように描いてしまいがちだと思うのですが、
本作では決してそういった展開に傾倒することなく、ただ無心に主人公の行動を描いています。

これは“未知との遭遇”というエッセンスが、
理屈では説明がつかない不思議な魅力に溢れていることを強調したいがゆえのアプローチなんですね。

スピルバーグはこういうメッセージ性ある映画に傾倒しなかったからこそ、この頃に高く評価されたのでしょうね。

(上映時間134分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 ジュリア・フィリップス
    マイケル・フィリップス
脚本 スティーブン・スピルバーグ
撮影 ヴィルモス・ジグモンド
    ラズロ・コヴァックス
特撮 ダグラス・トランブル
    リチャード・ユリシック
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 リチャード・ドレイファス
    フランソワ・トリュフォー
    テリー・ガー
    メリンダ・ディロン
    ボブ・バラバン
    ケリー・ギャフィ
    ランス・ヘンリクセン
    ロバーツ・ブロッサム

1977年度アカデミー助演女優賞(メリンダ・ディロン) ノミネート
1977年度アカデミー監督賞(スティーブン・スピルバーグ) ノミネート
1977年度アカデミー撮影賞(ヴィルモス・ジグモンド) 受賞
1977年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) ノミネート
1977年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1977年度アカミデー視覚効果賞 ノミネート
1977年度アカデミー音響賞 ノミネート
1977年度アカデミー編集賞 ノミネート
1977年度アカデミー特別業績賞 受賞
1977年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞