もしも昨日が選べたら(2006年アメリカ)

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過去を追体験したり、嫌な状況を早送りで切り抜けられる機能を備えた、
不思議な能力を持つリモコンを手に入れた多忙な建築デザイナーが、そのリモコンを都合のいいように使い、
やがては自身の人生までをも破壊してしまう姿を描いたファンタジックなヒューマン・コメディ。

日本では一向に人気の上がらない全米人気コメディアン、アダム・サンドラー主演作なのですが、
今回はかなり真面目な映画の作り方に徹しているという気がします。

確かに映画の前半を中心に、映画の節々にアダム・サンドラーらしい調子は垣間見れるんだけれども、
映画も進んで後半に差し掛かると、次第に力強く観客を泣かしにかかってきます。
それもシリアスかつ感傷的に攻めてくるものですから、映画の作り手もかなり本気です。
愛すべき家族との大切な時間を知らぬ間に失い、愛する父親も知らぬ間に失い、
もう取り戻せないことに焦りを隠せず、次第に我を失っていく主人公の姿に悲壮感が漂っている。
そんな彼と観客は同じ気持ちにさせられるだけの力を、この映画は持っていると思いますね。

監督は『ウェディング・シンガー』のフランク・コラチ。
『ウェディング・シンガー』は随分と可愛らしい映画でしたけど、今回はかなりセンチな内容。

とは言え、別に本作は出来の悪い映画だとは思わない。
チョット“早送り”を表現するシーン演出や映像効果などは安直かなぁとは思うけど、
映画は前半の仕事中心の主人公の日常から、そこそこ上手く映画の基盤は出来ていると思うし、
映画の後半でアダム・サンドラーが熱演モードに入って、主人公が感傷的になっていく過程も、
ベタベタな内容と言えばそれまでだが、見せ方の上手さからか、映画は徐々に盛り上がっていく。

この内容ならば、涙腺が緩み易い人はかなり泣かせられるでしょうね。
よく「親孝行はできるうちにしなさい」という言葉がありますけど、こういう話しに接すると尚更、そう思いますね。
人間、“昨日”は選べませんが、“明日”も選べませんからね。未来は何が起こるか分かりません。

毎日が劇的な日々という人って、ほとんどいないと思いますから、
つまらない毎日、或いは退屈な毎日、はたまた面倒臭い毎日といった、
極々ありふれた日常がとても大切だったりすると思うんですよね。
だからこそそういった日々の積み重ねを拒否し、“早送り”なんかしちゃうと後々で大きな後悔につながります。

僕はこの映画で描かれたことって、多少、大袈裟に聞こえるかもしれないけど、人生の核心だと思うんですよね。

何故なら、前述したように人生という長くて短いスパンで考えると、
劇的で印象的な一日なんて、圧倒的に少数だと思うから。
全てが日数の問題で片付けられるわけじゃないけれども、日常の積み重ねって大事ですからねぇ。

本作の主人公もそういった日常の積み重ねを面倒だと感じ、
それら全てを“早送り”をして回避してしまったことから、何もかもを失ったことに気づきます。
それは日常の積み重ねの中に、思い出を残したり、共に暮らしたという記憶を作るからです。
こういった日常を大切にすることの重要性というのは、常に実感しなければならないと思うんですよね。

アダム・サンドラーが完全に熱演型俳優に移行したことも驚きですが、
それ以上に一本の映画の中でアダム・サンドラーとケイト・ベッキンセールが夫婦役を演じるということの方が
遥かに驚きでしたね。おそらく後にも先にも本作だけでしょうね、この2人が共演するというのは。

メイクを駆使して老け役にもチャレンジした2人ですが、
そのあまりに自然な老けっぷりにも驚きだ(笑)。ケイト・ベッキンセールはかなりリアルだった(笑)。
僕がこういう映画を観るたびに思うのは、こういったメイク技術の進歩ですね。
かつてはモノクロ・フィルムで、正直言って、多少はごまかせた面があると思うんだけど、
最近はデジタル・フィルムで収められており、簡単なメイクではごまかせなくなってきていますからね。

まぁもう少し感情的に抑えた内容にしても良かったとは思いますが、
二度と繰り返すことのできない過去を悔いないためにも、今を大切にするというテーマを訴求するためには、
これだけ感情的な内容にならなければ、映画は力強いものにはならなかっただろう。
賛否が分かれるところだとは思うが、僕はこれはこれで作り手の選択を支持します。

アダム・サンドラーのファンは勿論のこと、今まで彼の過剰なコメディ演技が苦手だった人にも、
是非とも観て頂きたい作品ですね。確かに映画の前半は彼特有の悪ノリ映画ですが、
ストーリーが進み、テーマの核心に迫るにつれて映画はドンドン、シリアスになっていきます。

また、息子へ同じ過ちを繰り返させないためにとベッドから立ち上がり、
必死に説得に向かう姿にはなかなか観客の心を揺さぶるだけの力があると思う。

僕の場合は中学生までは時の経過が凄く遅く感じられていましたが、
高校に入ってからは急激に速く感じられるようになり、今はアッという間に20代も後半になってしまいました。

10代の頃、ジョン・レノンはかつて「30歳以上の人の言うことは聞かない」と断言していたというのを聞いて、
僕自身も30歳という年齢が、かなり遠いものに感じられていましたが、今はもう目の前です。
こういう映画を観ると、そういう時の経過の速さが如何に残酷に感じられるかということを実感します。

映画の出来はそこそこですが、まだまだ甘さはあります。
もう少し上手く撮れていれば、かなりの傑作になっていたかもしれません。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 フランク・コラチ
製作 アダム・サンドラー
    スティーブ・コーレン
    マーク・オキーフ
    ジャック・ジャラプト
    ニール・H・モリッツ
脚本 スティーブ・コーレン
    マーク・オキーフ
撮影 ディーン・セムラー
編集 ジェフ・ガーソン
音楽 ルパート・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 アダム・サンドラー
    ケイト・ベッキンセール
    クリストファー・ウォーケン
    デビッド・ハッセルホフ
    ヘンリー・ウィンクラー
    ジュリー・カブナー
    ショーン・アスティン
    ジョセフ・キャスタノン
    テータム・マッキャン

2006年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート