訴訟(1991年アメリカ)

Class Action

かつて、政治活動に熱心な妻と思春期の娘を裏切って、
妻と娘も知る女性と浮気した経験を持つベテラン弁護士が、ある自動車会社の欠陥車に関する、
訴訟の原告の弁護を担当したことから、被告側の弁護士である娘と対立を深める過程を描いた法廷サスペンス。

この映画は、主役を演じたジーン・ハックマンの存在がデカいですね(笑)。
さすがオスカー俳優と言われるだけのことはある好演で、映画の出来自体は正直言って、平凡なのですが、
主役にジーン・ハックマンをキャスティングできたことだけで大きく救われています(笑)。

監督は『アガサ/愛の失踪事件』のマイケル・アプテッドで、
本作では冒険の無い、良く言えば堅実な作りに終始しており、これはこれで評価されるべき手堅い仕事だろう。

弁護士となっても尚、反発を繰り返す親子がお互いに原告側と被告側で
正義を争うというのは、今までありそうで無かったタイプのストーリーではあるのですが、
あまり周辺事情を細かくするわけではなく、あくまでシンプルに描くことに徹しているのは良かったですね。
この辺はマイケル・アプテッドの構成力の高さを象徴しているようで、好感の持てる作りにはなっていますね。

娘役を演じたメアリー・エリザベス・マストラントニオも悪くはないのですが、
さすがのジーン・ハックマンの芝居と比較してしまうと、やはり見劣りしてしまうのは否定できないかな。
この頃は『乙女座殺人事件』、『アビス』、『ロビン・フッド』と彼女は規模の大きな作品への出演が続いていたので、
かなりハリウッドでも勢いのある女優さんの一人ではあったはずなのですが、そこまで良いとは思えなかったかな。
(まぁ・・・これは、どうしても娘役は感情的になるシーンが多かったというのが影響しているかもしれませんが...)

まぁ映画のストーリーの前提条件から言えば、
ハッキリ言って、結末の見えた作品ではあるのですが、基本的な部分はしっかり押さえてある映画ですから、
ストーリーテリングなども安定しており、無理をせず、納得性のある作りになっているあたりは好感を持てますね。

この辺はマイケル・アプテッドの堅実な映画作りの姿勢がよく反映されており、
僕は例えば彼が88年に撮った『愛は霧のかなたに』なんかより、本作の方がずっと良いような気がしますけどね。

映画はいわゆる自動車会社の欠陥隠しに関する問題を描いています。
盛大に費用を投入した新車を発売した後に、自動車会社に所属する研究者が致命的な欠陥を認め、
会社に報告していたにも関わらず、闇のリスク計算屋にリスクを算出させ、リコールを行わず、
次々と事故を黙認していたと確信した弁護士ウォードは、正義心に燃え、被害者の弁護に奔走するも、
被告側の弁護に立つのは、ウォードに反抗し続けている娘のマギーだったというお話し。

こういうのって、現実世界でもあるのかどうかは知りませんが、
僕が子供の立場だったら、こういう舞台で親と対したいとは思わないだけに、
いろんな意味で興味深い内容にはなっていると感じましたね。今までありそうで無かったタイプの映画です。

実際、この映画でウォード親子が争ったのは民事訴訟でしたが、
これが仮に刑事事件でマスコミからの注目度も高い裁判となれば、その親子の対決は注目を集めるでしょう。

そういう意味でもこの映画、部分的にはもっと親子の対決を強調しても良かったかもしれません。
確かに一瞬、そういう香りは漂う映画にはなっているのですが、途中からは形勢が明白になってしまい、
物語の焦点が如何にマギーが気づくかという点に変わってしまい、ウォード親子が法廷でガチンコ勝負するという、
ある意味で劇的な展開ではなくなってしまい、裁判の行方を観客が気にする傾向は弱くなってしまいます。

僕は少なくとも、映画が後半に差し掛かるところまでは、
ウォード親子が何度も法廷で対決するシーンを強調して描くべきだったと思うんですよね。
そうしなければ、他の法廷を舞台にした映画とも差別化が図れず、本作の個性も弱くなってしまいます。

なんか、この辺はウォード親子の過去の確執を説明することに執着してしまったがために、
肝心かなめの法廷でのお互いの正義を賭けた対決というものを、強く描けなかったという印象ですね。

僕はかなり大胆な意見を言わせてもらうと...
映画の冒頭だけですが、母親の存在だけで既にウォード親子の過去の確執を十分に説明できているので、
映画の中盤に及んでまで、ダラダラと過去の確執を説明する必要は無かったと思うし、
もし、ウォード親子が親子という枠組みを越えて、お互いが信じる正義を闘わす姿を描けたら、
この映画はもっと成熟した出来になっていたでしょうし、散漫な印象は回避できたと思いますね。

そうなんです、この映画、親子劇に執着してしまったがために、
一体、何を観客に見せたかったのか、よく分からない部分があって、映画の印象が散漫に感じられるんですよね。

せっかく堅実な作りで、ひじょうにシンプルに訴訟を描いていただけに、
親子劇の配分が多くなり、法廷劇の印象が弱くなってしまったというのは、つまらないミスだと思うんですよね。
この辺は映画の作り手が、編集の段階でもっと精査して修正できるものなら、修正すべきだったと思うんですよね。
散漫な印象さえ残さなければ、もっと高く評価されていたのではないかと思うんですよね。

まぁマイケル・アプテッドが撮った、過去の作品のほとんどがこんな感じで(苦笑)、
全体的に詰めが甘いというのが、如何にも彼らしい映画ではあるのですが、ひじょうに勿体ないですね。

但し、この映画は前述した通り、
主役にジーン・ハックマンをキャスティングしたことで、大きく救われていることは明らかだ。
皮肉にも80年代は数多くの映画に出過ぎたせいか、それを揶揄されたこともあったそうだが、
その多忙ぶりが災いしてか、心臓の手術を受け、一時期は俳優業引退も考えていたそうです。
そんな中、92年の『許されざる者』でオスカーを獲得したことで、更に90年代は俳優業を活発化させましたが、
そんな彼の名演技は、本作でも映画を救ったと言っても過言でないぐらい、素晴らしいものがあります。

高齢なためか、彼は04年にホントに俳優業を引退しましたが、実に貴重な役者なんですよね。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マイケル・アプテッド
製作 テッド・フィールド
    スコット・クルーフ
    ロバート・W・コート
脚本 キャロリン・シェルビー
    クリストファー・エイムズ
    サマンサ・シャッド
撮影 コンラッド・L・ホール
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 ジーン・ハックマン
    メアリー・エリザベス・マストラントニオ
    コリン・フリールズ
    ジョアンナ・マーリン
    ローレンス・フィッシュバーン
    ドナルド・モファット
    ジャン・ルーブス
    マット・クラーク