容疑者(2002年アメリカ)

City By The Sea

最初に観たときの印象はまずまず良かったんだけどなぁ(苦笑)。。。

麻薬の売人を殺害してしまった上、警官殺しの濡れ衣を着せられた息子を救うため、
過去の贖罪の念と闘いながらも奔走する殺人課の刑事に姿を描いたサスペンス・ドラマ。

なんでもピュリッツァー賞を受賞した原作の映画化とのことではありますが、
正直言って、ストーリーを云々すれば、そこまでの革新性があるお話しではありません。
割りと手堅く作ったがゆえに、今一つドラマ性も活かし切れなかった側面はあるのかもしれません。

僕が最初に本作を観たのは、たぶん今から6年近く前。
あの時に観た印象は、そんなに悪くはない映画であるとの印象を持っていたのですが、
さすがに6年経つと、自分の映画における嗜好性が変わったのか、それとも人生観が変わったのか、
理由はよく分からないのですが、あまり作り込めていない箇所が散見されるのが気になって仕方がありません。

監督は97年に『ジャッカル』を撮ったマイケル・ケイトン=ジョーンズ。
そこまで器用なディレクターではありませんが、この手のタイプの映画は苦手とはしてなさそうな感じなのですが、
残念ながらそこまで映画の出来は良くなかったですね。もうチョット、精査して描いて欲しかったですね。

まぁ極端に出来の悪い映画ってわけではないのですが、
どうしても随所に見られる安っぽい演出が気になって仕方がなく、映画の悪い印象に影響を与えていますね。

その代表なように、かつては盛栄を極めたものの、今となっては寂れた町ロングビーチを象徴するために、
劇中、やたらと場末的な音楽が流されるのですが、これがかえって逆効果。あまりに狙い過ぎなのです。
主人公のラマーカの皮肉な人生を、そういった町の盛衰と共に描きたかったのでしょうが、
今一つ物語の熟成も足りないせいか、映画のラストでの味わいもイマイチなのですよね。

但し、主演のロバート・デ・ニーロは久しぶりに称えたい芝居。
映画のクライマックスに屈折した主張を繰り返す息子を説得するために、
必死になって今、どれぐらい息子を愛しているかを証明するのですが、このシーンは秀逸と言っていい。

当たり前の話しではありますが...
本作のような規模のそう大きくはない映画でも、こうやって説得力ある芝居をサラッとやってのけるあたりに、
デ・ニーロの役者としての高みが感じられますね。この手の映画で、ヤッツケ仕事に走る役者もいますから・・・。

そういう意味では、ラマーカの人物描写を磨こうとした、
映画の序盤にあるフランシス・マクドーマンド演じる舞台女優とのロマンスなど、
派手さはないものの、繊細な描写の積み重ねは決して悪くないと思いますね。
ただ、こういうのはあくまでサイド・ストーリー的な側面がありますから、肝心なところが欠落してしまうと、
こういったサイド・ストーリー的な部分というものは、正当な評価がくだされにくいことがあります。

そういう意味ではヤク中となってしまった息子や、
ラマーカの元妻の描写などがイマイチ深く踏み込めていないために、えらく理不尽な人々に見受けられる。
これは本作においては、大きな難点ですね。ラマーカの過去も、もっと大きくクローズアップして、
何故、彼の家族がバラバラになってしまったのかを、強く言及しないと、映画の視点が一方的になってしまいます。

確かに台詞としては厳かに語られてはいますが、
回想シーンまでは必要ないにしろ、もう少し具体性を持たせて語らせて欲しかったと思います。
ラマーカの言葉も抽象的で、今一つ家族が破綻していく過程が理解しにくかったかな。

おそらく本作が一番、大きなテーマとしていたであろう、
父親として、そして刑事としての究極の選択を迫られるというセオリーについてなのですが、
この点も正直言って、掘り下げが甘いと言わざるをえない。これではラマーカの苦悩を表現し切れていない。
半ば見込み捜査に踏み切る警察に反論するラマーカですが、彼も真犯人が誰なのか分からない。
「とにかく犯人は息子じゃない。犯人は別にいる!」と主張するには、かなり無理があるシチュエーションだ。
そんなことでは「気持ちは分かるが、事件は事件」と切り捨てられてしまうのは、無理のない話しである。

おそらく原作通りに映画化されているのでしょうが、
僕はラマーカが真犯人の存在を示唆する確たる証拠をつかんでから、
ラマーカが警察に息子の無実を訴えに行くという展開の方が、映画としての説得力は出たと思う。

ラマーカは幼児殺しで死刑となった父親がいたとは言え、あくまで彼は敏腕刑事。
ニューヨーク市警では役職まで昇進した、実績ある殺人課の刑事で、数々の修羅場を通ってきたはずだ。

そんな刑事がいくら生き別れた息子への愛情を取り戻したとは言え、
状況証拠が強く息子であることを示唆しているにも関わらず、一転して息子の無実を主張し始めるという展開は、
さすがに無理があると言わざるえない。それなら最初っから、もっとラマーカの人間臭さを描くべきでしたね。
この辺の散漫なビジョンが、残念ながら映画の弱さを露呈させてしまっている気がしますね。

とは言え、前述したデ・ニーロのクライマックスの芝居は、
そんな映画の弱さを吹き飛ばす高みがある。これは本作を大きく助けているのは事実だと思う。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 マイケル・ケイトン=ジョーンズ
製作 ブラッド・グレイ
    マシュー・ベア
    マイケル・ケイトン=ジョーンズ
    エリー・サマハ
原案 マイケル・マッカラリー
脚本 ケン・ヒクソン
撮影 カール・ウォルター・リンデンローブ
音楽 ジョン・マーフィ
出演 ロバート・デ・ニーロ
    フランシス・マクドーマンド
    ジェームズ・フランコ
    エリザ・ドゥシュク
    ジョージ・ズンザ
    パティ・ルポーン
    ウィリアム・フォーサイス
    アンソン・マウント
    ジョン・ド−マン