シンデレラマン(2005年アメリカ)

Cinderella Man

これはよく頑張った映画だと思う。

01年に『ビューティフル・マインド』でオスカーを獲得したロン・ハワードが、
再びラッセル・クロウを主演に起用し、貧困に苦しむ中年ボクサーの奇跡の復活劇を描いた伝記ドラマ。

何より、まず特筆したいのは、劇中、幾度となく登場するボクシング・シーンが良い。
最近も『ミリオンダラー・ベイビー』などボクシングを題材にした映画はありましたが、
本作も他作品に遜色ない素晴らしい迫力のボクシング・シーンを撮れていて、画面が引き締まっている。
特に録音が素晴らしいせいか、随分と臨場感のあるシーン演出になっており、画面が真に迫っている。

また、さすがにロン・ハワードだけあって、見事な総合力を感じさせる作りで安心した。

ボクシング・シーンとドラマのバランスも上手くとられており、決して調和を乱すことがない。
更に多少のエゴであろうが、主人公の子供たちに対する強い想いが上手く描かれており、
家族を守る主人公の主(あるじ)としての責任感の強さが、観ていて身に詰まされるぐらい力強い。

ベタではありますが...
特に映画の中盤にある、かつてボクシング界で名を轟かせた主人公のジムが、
ニューヨーク市街地にあるクラブに薄汚い身なりで入場して、帽子を裏返して、
かつての知り合いである、タイトル・マッチの主催者たちに生活費のカンパを求めるシーンは印象深い。

多少は「お涙頂戴映画」に映る部分もあろうかとは思いますが、
この映画には困難に立ち向かおうとする主人公のエネルギーが乗り移った面があって、
それを見事に引き出したロン・ハワードの演出家としての手腕は評価されて然るべきものだろう。

やっぱりロン・ハワードのこういう部分を観ちゃうと、「ハリウッドって、やっぱスケェ〜なぁ〜!」って思っちゃう。
(まぁ・・・最近のロン・ハワードは次第にトンチンカンな監督作品も増えてきているのが心配なんですがね)

この映画の大きなエネルギーの源は、
日本で言う、“内助の功”ばりに家庭を支えるジムの妻を演じたレニー・ゼルウィガーだろう。
まぁ“内助の功”と言うには、随分と目立っていたような印象がありますが(笑)、彼女もまたよく頑張りましたね。
特に命懸けでタイトル・マッチに挑むジムの姿に苦悩する姿を、上手くドメスティックに演じている。

それからジムのビジネス・パートナーである、ジョーを演じたポール・ジアマッティが上手い。
過去に数本の映画で彼の芝居を観たことはありましたが、脇役が多かったせいか、
ここまでの良さは引き出されていなかったですからね。本作での芝居は、ホントに価値があると思います。

貧困生活に苦しむジムはお金のためにリングへ上がりますが、
一見するとジョーはジムを利用してお金を得ているだけのように思えますが、
劇中、ジムの妻が怒ってジョーを問い詰めようとジョーのマンションへ行くシーンで描かれますが、
ジョーもまた、恐慌時代に翻弄され、財産を失ってしまい、生活が困窮しているのです。

言わば、ジムにしてもジョーにしてもリングに賭けるものがあったわけで、
次第に2人の感情が有機的に絡み合って、タイトル・マッチを取りに行こうとする展開になるのが良いですね。

さり気ないことであり、映画にとっては常套手段なのですが、
こういった一連の感情の盛り上げ方がひじょうに上手くって、これもまたロン・ハワードの上手さに他ならない。
こういう仕事で演出家としての総合力を問われると思うのですが、本作は言わば一流の仕事ですね。

アメリカン・ドリームを体現したシンデレラ・ストーリーという向きには反論できませんが、
僕はそんなストーリー面ではなく、ロン・ハワードの映画の作り方の素晴らしさを褒めたい。
今は日本映画界もかなり元気になってきましたが、欠けている部分があるとすれば、
今の日本映画界にはロン・ハワードのような総合力ある映像作家が不在なことだろう。

ラストの壮絶なタイトル・マッチのシーンは素晴らしい臨場感だ。
あくまで正攻法な撮り方ではありますが、これは出色の出来と言っていいだろう。

今までロン・ハワードがここまで動的なシーンを撮ったと言えるのは、
91年の『バックドラフト』ぐらいなものですし、ここまでの臨場感を演出できたことは無かったですから、
意外な収穫だと思うんですよね。もっともっと、こういう映画を観たいと僕は思います。
(エキサイティングなドラマを撮ることには長けているのは知っていたけど・・・)

但し、公開当時から思っていたことなのですが、
おそらく配給会社が本作が映画賞レースに絡むことを、あまり期待していなかったのではないかと
思えてならないのは少し残念かな。何せ、本作の全米公開が6月でしたから。。。
(本来なら映画賞レースに絡むことを期待する作品なら、全米公開を年末時期にぶつけてきます...)

まぁ僕はもっと賞賛されても良かったような気はしてますがね。
それぐらい映画の出来は良かったと思うし、風格の感じられる作品だと思いますね。

一つだけ気になったことは、ジムが最後のタイトル・マッチであまりにキレイに勝ち過ぎたことですね。
そりゃ史実に基づけば、これぐらいシリアスな勝利だったのかもしれませんが、
個人的にはもっとドラマティックに演出しても良かったのではないかと思いますね。

もっと傷だらけになり、あらゆる意味で心身ともにボロボロになりながら
勝利を手にする姿の方が、やはり観客の心を強く揺さぶるものがあったのではないでしょうか。

色々な見方はあるでしょうが、伝記映画として捉えるよりも、
僕は家族愛を描いたボクシング映画という位置づけで考えた方が楽しめると思いますけどね。。。

(上映時間144分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
    ロン・ハワード
    ペニー・マーシャル
原案 クリフ・ホリングワース
脚本 アキヴァ・ゴールズマン
    クリフ・ホリングワース
撮影 サルヴァトーレ・トチノ
編集 マイク・ヒル
    ダニエル・P・ハンリー
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ラッセル・クロウ
    レニー・ゼルウィガー
    ポール・ジアマッティ
    クレイグ・ビアーコ
    ブルース・マッギル
    パディ・コンシダイン
    コナー・プライス
    アリエル・ウォーラー
    パトリック・ルイス

2005年度アカデミー助演男優賞(ポール・ジアマッティ) ノミネート
2005年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
2005年度アカデミー編集賞(マイク・ヒル、ダニエル・P・ハンリー) ノミネート
2005年度全米俳優組合賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞
2005年度ボストン映画批評家協会賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞
2005年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞
2005年度サウスイースタン映画批評家協会賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞
2005年度フェニックス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2005年度フロリダ映画批評家協会賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞
2005年度カンザスシティ映画批評家協会賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞
2005年度アイオワ映画批評家協会賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞
2005年度トロント映画批評家協会賞助演男優賞(ポール・ジアマッティ) 受賞