ショコラ(2000年アメリカ)

Chocolat

よそ者が入ることを極端に嫌う村の断食の季節に、
チョコレート専門店を営む母子が転居してきて、よそ者に厳しい村長に目を付けられながらも、
この店が販売するチョコレートの不思議な魅力に、村人たちが心を開いていく姿を描いた大人のメルヘン。

監督はスウェーデン出身のラッセ・ハルストレムですが、僕は波長が合わない作品もあったんだけど、
本作は素直に良いなぁと思った。温かい映画ながらも、どこかに角を感じることがあったのですが、
本作はそんな角も取れた感じで、まるでチョコレートのように甘過ぎずにビターなところもある見事なドラマだ。

ジュリエット・ビノシュとジョニー・デップのコンビの映画と思える雰囲気なのですが、
実はジョニー・デップが登場してくるのは、映画が始まってから、なんと約55分経ったところ。
正直言って、かなり待たされることになるので、ジョニー・デップを観たくて本作を観た人には不評かもしれません。
と言うのも、確かにジュリエット・ビノシュ演じるヴィアンヌと、ジョニー・デップ演じる流れ着いた男ルーの恋も
描かれてはいるのですが、それって映画の主題ではなくって、サイド・ストーリーのような扱いにしかすぎない。
ジョニー・デップに関しては、本作では彼がギターを弾くシーンがハイライトでしょう。さすがにギターは凄く上手い。

ですので、恋愛映画というわけでもなく、やっぱり大人のためのメルヘンという趣向なんですね。
どこか寓話的というか、非現実を持ち込んだドラマという感じで、不思議な魅力を持った物語になっていますね。

まぁ・・・少々、無理矢理な展開があるのも事実。この辺はおそらく賛否が分かれるところでしょう。
ジョニー・デップが助演でなければ、別にヴィアンヌとルーの恋愛は描かなくとも差し支えない程度にしかすぎないし、
飲んだくれのバーの店主で、妻に逃げられた挙句、村長を狂信的に慕った結果、トンデモないことやらかす、
ピーター・ストーメア演じるセルジュの扱いは、いくら暴力亭主とは言え、あまりに可哀想な退場の仕方に見える。

ただ、それも含めてメルヘンなんだと、僕は都合良く解釈してしまうことにしました。
ヴィアンヌが作るチョコレートは、ただ甘いだけではなくって、香辛料を使ったりしてスパイシーなものもある。
ただただ甘いお菓子というイメージであった村人たちにとって、ヴィアンヌが作るチョコレートは刺激的なもので、
倦怠期を迎えた夫婦が元気になっちゃうなんてエピソードもあるくらい、村人たちに新風を吹き込むのです。

そう、この映画はヴィアンヌも含めてですが、決して若者たちを描いた映画というわけではありません。
子供たちも登場しますが、本作のメインにあるのは中年から老年期に差し掛かった男女の恋愛模様です。

それまで倦怠期であったり、“押したい”んだけど、なかなか一歩前へ踏み出し切れない恋を
まるで後押しするかのようなヴィアンヌの作るチョコレートが、とても不思議な力を持っているように描かれ、
この映画を観ている人は、不思議とチョコレートを食べたくなる。こう思わせられることが、この映画の強みですね。

映画のクライマックスで、チョットした“事件”が起きますが、
ずっと断食してきて、あのチョコレートの味を覚えてしまったら、もうその食欲を抑えられないのでしょう。
ただ、どんだけ真面目に断食していたのか知らないけど、いきなり急激にチョコばっかり食べたら、ブッ倒れそうだ(笑)。

ちなみにヴィアンヌとルーの恋が映画の後半で少しだけ描かれますが、
この2人、実は似た者同士だから惹かれ合うところがあったのだろうと思います。よそ者を受け付けない人々から
嫌われがちであるということから始まって、そもそも2人とも放浪する生活を送っているわけで、言わば「旅人」だ。
ヴィアンヌは愛する子供を連れての放浪に限界を感じているし、嫌われ続ける生活に子供は嫌気が差している。
ヴィアンヌなりに、それを知りつつも葛藤しているというのがポイントで、ルーと知り合って感じるものがあったのでしょう。

そんなヴィアンヌの感情に火を付けるのは、ジュディ・デンチ演じる糖尿病の老婆アルマンドだ。
近くに住むシングルマザーの娘と仲が悪く、孫とも会わせてくれない。娘はアルマンドを憎んでいるのだ。

糖尿病に苦しむアルマンドに、老人ホームへ入所することを勧めますが、アルマンドは望んでいません。
それどころかアルマンドは甘いものを躊躇せずに食べ飲みするし、もう健康に気をつけようという意思はないようだ。

自分も年老いたら、他人の手を煩わせないように生きていきたいとは思うけど、
認知症や重度の病など、どんな老い方をするかは分からず、自分の意思で決められることではない。
ひょっとしたら老年期まで生きられないかもしれないし、今できる健康管理はしたいとは思うが、それも限度はある。

際限なくやれば出来なくもないけど、アルマンドの生きざまに「なんのために生きるのか?」ということを
強く考えさせられる。必要な健康管理は大事だけど、それに囚われるあまりに、健康がすべてみたいになって、
食事を含めた人生の楽しみを制約しなければならないというのも、なんだか寂しいような気もします。
アルマンドは人生の最期を、ヴィアンヌの店に通いチョコレートを食べ飲みし、孫と会う生活を希望しました。
村長の策略によって、神父に酷い弔辞を読まれたのは、ヴィアンヌにとっては悔しい出来事だったでしょう。

この村長が思いのほか、ラストに良い扱いを受けているのは賛否があるでしょうが、
まぁ・・・やっぱり本作はメルヘンだから、こういうラストも“有り”なのでしょう。むしろ前述したセルジュが再び酔っ払って、
ヴィアンヌの店に侵入して襲いかかってくるエピソードが余計に見えて、セルジュも更生する方向で見せて欲しかった。
(まぁ・・・現実的にDV壁がある人ってのは、そう簡単に人間性は変わらない・・・とは思いますがね)

よく「甘い食べ物は、(人を)幸せな気持ちにさせる」と言いますが、その不思議な魔力に着目したのが良かった。

最近では“〆パフェ”なんて言葉も出てきましたが、苦手な人もいるとは言え、
世の中、結構、甘いもの好きが多いのかもしれないと思わせられます。特にフランス料理など欧州では、
デザートの存在って大きくて、料理の中でも大きなカテゴリーの一つですからね。パティシエがその代表なわけで。
(確かに〆パフェが流行る遥か昔の学生時代、飲み会の後にパフェを食べに行ったことが何回かありました・・・)

言ってしまえば、ヴィアンヌはパティシエですが人々の心理から好きなタイプのチョコレートを当て、
それを勧めるなど、少々魔法使い的な能力があるように描くなど、やっぱりこの映画は御伽噺のようなところがある。

そんなヴィアンヌを演じるジュリエット・ビノシュは、いつも思うのですが...どこか不思議な女優さんで、
演技派女優というイメージもあれば、本作のような不思議なキャラクターの役も演じこなせてしまう。
凄く器用な女優さんで、90年代からはハリウッド資本の映画にも出演するようになって、日本でも人気がありました。
ジョニー・デップのようなワイルドな側面のある男性とのロマンスも、サラッと演じてしまえるのだから、どこか不思議。
失礼ながらも、本作撮影当時は36歳という年齢だったようですが、年齢以上に良い意味で落ち着いた雰囲気。

実際問題として、本作で彼女はオスカーにもノミネートされましたし、
それくらい称賛されてもおかしくない仕事ぶりです。演じる女優さんが違えば、映画は崩れていたかもしれません。

ちなみに劇中、ヴィアンヌがパーティーのために作っていた、ターキーにチョコレートソースをかける料理ですが、
僕は「こんなの現実にあるわけないよね」なんて思っていましたが、調べたらメキシコ料理であるらしいです。
と言うか、メキシコ料理で“モーレ”というチョコレートソースで煮込む料理があるようで、焼いた肉にもかけるらしいです。
(このヴィアンヌの作った料理を食べて、幸せそうな表情を浮かべる光景が、実に素晴らしい!)

ヴィアンヌが作っていたように香辛料を多く入れて、スパイシーな料理に仕上がるらしいので、
甘く辛い料理なので、やはり暑い地域に暮らす人々の料理なのでしょうね。こういうので使うチョコレートは
カカオの含有量が多く、あまり甘くないタイプのチョコレートのようなので、メインディッシュで使うソースのようです。

そんな料理からもらう情熱で、村人たちはより開放的になり自由を謳歌するようになります。
結局、本作の焦点はそこで、ヴィアンヌの奔放な性格で如何に村人たちを変えられるか?ということに尽きます。

あまりクセの無い映画に仕上がっていますので、是非多くの方々に観て頂きたい作品です。
ただ、この映画は特に理由はありませんが...少し年を重ねてから観た方が、シックリ来る映画かもしれません。
いろいろな意味で、生きることの意味や醍醐味というのを、意識する年になってから観た方が、フィットすると思います。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ラッセ・ハルストレム
製作 デビッド・ブラウン
   キット・ゴールデン
   レスリー・ホールラン
原作 ジョアン・ハリス
脚本 ロバート・ネルソン・ジェイコブス
撮影 ロジャー・プラット
音楽 レイチェル・ポートマン
出演 ジュリエット・ビノシュ
   ヴィクトワール・ティヴィソル
   ジョニー・デップ
   アルフレッド・モリーナ
   ピーター・ストーメア
   ジュディ・デンチ
   レナ・オリン
   キャリー=アン・モス
   レスリー・キャロン
   ヒュー・オコナー

2000年度アカデミー作品賞 ノミネート
2000年度アカデミー主演女優賞(ジュリエット・ビノシュ) ノミネート
2000年度アカデミー助演女優賞(ジュディ・デンチ) ノミネート
2000年度アカデミー脚色賞(ロバート・ネルソン・ジェイコブス) ノミネート
2000年度アカデミー作曲賞(レイチェル・ポートマン) ノミネート